第二十二話 緊急依頼。
「やつら、逃げていくぞ!」
逃げ出した盗賊どもを見て、誰かが叫んだ。
こちらの戦力が微妙なので、深追いはしない方がいいだろう。
ただし。
「福助、全力で〈風魔法〉!」
「にゃ!」
無傷では帰しませんよ?
「ぎゃあああ!」
福助の起こした竜巻のような風に、盗賊どもが吹き飛ばされていく。
これで、しばらくは身動き出来ないだろう。
「助かりました」
キャラバンの隊長さんがぺこぺこと頭を下げてきた。
「まさか、盗賊とグルだったとは……」
「どうして、いつもの人達を雇わなかったんですか?」
別に責めているつもりはない。
キャラバンなら、こういう状況を想定しないはずがないのだ。
それなのに、どうして馴染みのパーティ以外を雇ったのか疑問に思ったのだ。
「それが、別の依頼で盗賊退治をする際に大怪我をしたとかで」
また、盗賊か。
「……最近、多いな」
「そうなんだよ」
思わず呟くと、一緒に戦った冒険者の一人がうんうんと頷いた。
無口な大剣使いが兄のナルシで、背の高い槍使いが妹のサナだそうだ。
二人とも、濃い赤い髪をしている。
使っている武器も赤く輝くような刀身だった。
炎使いの一族とかなのだろうか。
「あたし達もさ、普段は護衛の依頼はあんまり受けないんだけど最近はやけに多いんだよ」
「そんなに盗賊が増えているの?」
「うん。しかも、どうやらこの辺の連中じゃないらしくてさ」
「……」
つまり、よそから盗賊が集まってきているという事か?
でも、何のために?
「どこかで大規模な盗賊狩りでもあって、逃げてきた連中じゃないんですかねぇ」
なるほど。
隊長さんの言葉に、私は頷いた。
「ところで、あなたに緊急依頼を受けてほしいのですが」
緊急依頼とはその名の通り、緊急を要する依頼だ。
たいていは今回のように現場で直接依頼され、ギルドへの報告は依頼達成後に行われる。
「キャラバンの護衛を引き受けてもらえませんか」
「あたし達からも頼むよ」
「……あんたがいてくれれば、助かる」
サナ達にまで頼まれては断りづらい。
実際、キャラバンには護衛の数が足りていないし。
大きなギルドのある街まで、という条件で緊急依頼を受けた。
そこで新しい冒険者を雇うまでの間、私達はキャラバンの護衛をする事になった。
先頭を私と猫達が、しんがりをサナ達がつとめる事になった。
せりがいれば魔物や盗賊が襲ってくる前に分かるし、大きくなったりゅうたろうがずんずんと歩いていれば目立つ。
これで厄介事も減る。
そう思ったのが甘かった。
「福助、〈風魔法〉!」
「にゃ!」
魔物は寄って来なかったが、約十日の道のりで二度も盗賊に襲われた。
一度目は撃退し、二度目はそのほとんどを捕縛した。
捕縛した盗賊達を紐でぐるぐる巻きにし、さらに大きくなったりゅうたろうにその紐を繋いで盗賊どもを歩かせた。
その後は、キャラバンを襲撃してくる連中はいなかった。
多分、手を出すとヤバい連中だとようやく認識されたのだろう。
昼食を取るための休憩になり、見張りを兼ねながら食べる私やサナ達はキャラバンから少し離れた所に座った。
「それにしても、なんだろうね、こりゃ」
サナが呆れたように言った。
「このキャラバン、よっぽどのブツでも積んでるのかね」
「盗賊が多すぎるよね」
元々、香辛料や砂糖、絹などの珍しい物を運ぶ事の多いキャラバンは盗賊に狙われやすい。
商会の荷馬車と違って、家族なども同行しているから移動の速度が緩やかなのも狙われやすい理由の一つだ。
それにしても多すぎる。
「……せり、〈気配察知〉」
こっそりとせりに探らせてみたが、特に反応はない。
積んでるいるのはごく普通の交易品のようだ。
「……噂が出回っているんじゃないか」
ぼそりとナルシが言った。
「噂?」
「このキャラバンにお宝が積んでるという噂だ」
「え? 積んでるのかい?」
目を見張るサナの言葉に、ナルシがため息をついた。
「本当に積んでいたら、最初からもっと用心するだろう」
「つまり、事実はともかくとして、盗賊の間でそんな噂が出回っているって事……?」
街まではあと三日で着く。
ギルドに盗賊を引き渡せば、何か情報を聞き出せるかもしれない。
まぁ、私はそこまでで護衛は終わりなんだけど……。
無事に街まで着いた。
これで私達の役目は終わった。
「ありがとうございます」
キャラバンの隊長さんが私達に向かって頭を下げた。
「いいえ」
あ、そうだ。
「図々しくて悪いんですけど、砂糖を少し売ってもらえませんか?」
キャラバンから直接買えば、お店を通さない分少しは安くあがるはずだ。
「大丈夫ですよ。香辛料などは、いかがいたしますか?」
「じゃあ、胡椒も」
隊長さんはびっくりするような値段で売ってくれた。
店で売っている物よりずいぶんと安い。
「これじゃ儲けが出ないんじゃ……?」
「ほんの気持ちです。本当はお金などいただくべきではないのでしょうが」
商人としての信念がありまして、と照れ臭そうに隊長さんは言った。
「その代わり、依頼料は弾みますので」
「いいですよ、別に」
ただでさえ緊急依頼は通常の二倍の料金なのだ。
盗賊捕縛の報償金も出るし。
「安売りなさってはいけません」
きっぱりとした口調で隊長さんが言った。
「価値のないものに高値をつけるなどあってはいけないし、逆に、価値のあるものを安売りしてもいけないのです」
そこまで言ってから、隊長さんははっとした様子で頭をかいた。
「すみません。恩人に向かって、説教じみた事を……」
「いいえ。それだけ、私達をかってくれたって事ですよね」
猫達の事を評価してくれたのは素直に嬉しいし、ありがたく受け取る事にしよう。
「出来れば、このあとの護衛もお願いしたかったのですが」
キャラバンの人達にも、サナ達にも何度も言われた。
特に、もふもふの虜になったナルシは残念そうだった。
「ほかの依頼も受けているので……」
真珠国まで手紙を届けなければいけないのだ。
「そうですよね。それだけの腕利きなら、引っ張りだこでしょうし」
「……」
今まで受けた依頼は、お化け屋敷の調査と、薬草採取だけです……。
「……」
「……」
キャラバンと別れたあと、女神様に呼びつけられた私は正座をさせられている。
理由は。
「何で、スマホの電源を切っていたんですか!?」
「いや、だから、ほかの人達も一緒だったし……」
キャラバンの護衛は昼夜を問わない。
交代で休憩を取るが、基本的には待機の扱いなので一人きりになる時間はほとんどなかった。
「少しぐらい、連絡出来ましたよね!?」
いかん。
女神様が面倒くさいカノジョみたいになっている。
「……すみませんでした」
こういう時は変に言い訳をせずに謝るにかぎる。
「……つかささん?」
私がうわの空である事に気付いた女神様が、じと目でこちらを見ていた。
「すみませんでした。以後、気を付けます……」
「心配したんですからね!」
「女神様……」
「よつばさんがお腹空かせてないか、福助さんが迷子になっていないか、もう心配で心配で」
「……」
危うく反省しかける所だった。
うるさい!
この、姑女神!!
「……何か言いました?」
「いいえー」
あ、そうだ。
「これ、お土産」
キャラバンで珍しいお菓子が売っていたので、女神様の分も買っておいたのだ。
コレイトという甘いお菓子で、大きな街でしか買えない高級品だ。
味も形もチョコレートに似ている。
多分、真珠国以外にも遠い遠い国から流れ着いた人達がいるのだろう。
「これは……」
女神様は手にしたコレイトを凝視したまま、ふるふると震えている。
「コーヒーと紅茶、どっちに………」
「紅茶でお願いします!」
被せぎみにそう言うと、女神様はにんまりと笑った。
「……」
チョロすぎませんか、女神様?




