第二十一話 峠。
「買い取りもお願いできますか?」
「おう、いいぜ。モノはなんだ?」
「魔物とかです。大きいのもあるんですけど……」
「じゃあ、外でやるか。ちょっと行ってくる」
ギルドマスターが受け付けのお姉さんに声をかける。
そのまま裏口へと案内された。
ギルドの裏は広い空き地になっていた。
無限収納から猫達が狩ってきた獲物を取り出す。
「レッドバードが七羽。ワイルドボアが三頭。いい状態だな」
ふむふむとマスターが、確認しながらメモを取っていく。
「こりゃマーウか。珍しいな」
「あと、これも……」
ワイバーンを見せると、ぎょっとした顔になった。
「これ、まさか、あんたの猫が?」
「一応……」
マスターはため息をつくと、やれやれと首を振った。
「猫ってのは、すげぇもんだな」
「いや、あの……」
猫というか、多分うちの子しか出来ません……。
「そういや、あんた、アレキサンドライトの噂を聞いたか?」
不意にギルドマスターが話を変えた。
アレキサンドライトという事は。
「……魔導の塔の事ですか?」
「一晩で、塔も魔導師達もみんな消えちまったらしいな」
……一晩もかかってないけどな。
「あんた、何か聞いてないか?」
ギルドマスターが何やら考え込むように顎を撫でながら言った。
「この辺は田舎だから、あんまりよその情報が入ってこなくてよ」
「分からないですね」
思わず即答してしまった。
本当は、よぅく知ってるんですけどね……。
一晩宿屋に泊まり、必要なものを買ったら出発する予定だった。
猫達が持ってきてくれた「お土産」が売れたので、資金もたっぷりとある。
小さな町なので店の数はあまり多くない。
町の人達の生活必需品は、雑貨屋で取り扱っているようだった。
「……うーん、やっぱり砂糖は高いなぁ」
砂糖の値段を聞き、顔をしかめてしまった。
久しぶりにスカイビーの蜜ではない甘さが欲しかったのだが。
「ここら辺にはあまり入ってこないから、どうしても値が張っちまってねぇ」
雑貨屋のおばさんが、ため息をつく。
仕方ない。
今度、もっと大きな街に行った時に買おう。
「じゃあ、紅茶と油下さい」
「はいよ」
紅茶の茶葉と、陶で出来た瓶に入った食用油を買った。
「あとは、パンとチーズと……」
「おう、まだいたか。良かった」
買い物を終えて店を出ると、ギルドマスターが声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
「あんたに、ギルドから依頼したくてな」
「はぁ……」
ギルドからの直接の依頼ということは、盗賊か魔物退治だろうか。
「真珠国まで手紙を届けてほしいんだよ」
「真珠国……」
真珠国というのは、ずっとずうっと昔、遠い遠い国から船でこの大陸に流れ着いた人達が作った国らしい。
味噌や醤油に似た調味料は、そこの特産品だ。
まぁ、多分、私達のお仲間だったのだろう。
「いいですけど、何で私に?」
「この町からだと、峠越えしなくちゃならなくてな」
「なるほど」
峠は魔物や山賊が出る事が多いので、一般の人は回り道をして避けることがほとんどだ。
無事に通り抜けたければ、冒険者を雇う。
「あんたのとこの猫なら、楽勝だろ」
「……」
まぁ、否定はしないけどな……。
真珠国にはいつか行こうと思っていたので、ギルドからの依頼を引き受けた。
キングの〈空間転移〉なら一瞬だが、あまりに早く着きすぎると妙に思われるだろう。
必要以上に猫のスキルを頼るのはやめておいた方がいいだろう。
……魔導の塔の件もあったしな。
「……確かに、ものさびしい感じだよねぇ」
肩に乗せた手のひらサイズのりゅうたろうに話しかける。
峠にさしかかったが、途中でキャラバンを追い越しただけであとは誰とも会っていない。
魔物はともかく、山賊すら出てこない。
「まぁ、でも当然か」
こんな所を女一人で堂々と歩いているということは、それなりに腕に自信があると言っているようなものだ。
よほど切羽詰まっているのでない限り、山賊も手を出してこないのだろう。
まぁ、私の場合、自分じゃなくて猫達だけどな……。
さっきのキャラバンも冒険者を雇っていたみたいだし、問題ないだろう。
「この辺りで一休みするかな」
少しひらけた場所でテントを張った。
焚き火のあとがあったから、みんなここで休憩しているようだ。
「ご飯だよ」
猫達にご飯を出し、無限収納に入っているドラゴンにもキャットフードをあげた。
ほかの人が見たら魔物が襲ってきたと思われそうなのでドラゴンは外には出せない。
「私は何食べようかな……」
不意に、せりがご飯から顔を上げた。
イカミミの警戒体制だ。
〈気配察知〉だ!
魔物か!?
猫達が耳を動かして様子をうかがっている。
私も耳をすませてみるが何も聞こえない。
まぁ、猫に勝てるわけないよな……。
「ん?」
これは蹄の音か?
テントから出てみると、馬に乗った少年が駆けてきた。
「た、助けて下さい!!」
私の姿を見ると、少年は転げ落ちるように馬から降りてきた。
「どうしたの?」
「キャラバンが、盗賊に、襲われて……」
息を切らしながら、途切れ途切れに少年が言った。
「冒険者は? 護衛を雇っていたよね?」
私がたずねると、ぶわっと少年の目に涙が浮かんだ。
嗚咽して言葉が出てこない。
「泣いていたら分からない!」
怒鳴り付けると、少年はぐっと唇を引き結んだ。
「山賊と、グル……」
「!」
急いでテントをしまう。
護衛に雇った冒険者達は、最初から山賊と組んでいたようだ。
商人達が馴染みの冒険者以外雇わないのは、こういう事態を避けるためだ。
「キング、キャラバンの近くに〈空間転移〉!」
少年と馬も一緒に転移する。
悲鳴と、金属がぶつかり合う音。
冒険者同士が戦っていた。
「あの人達は?」
「守ってくれているのは、いつものパーティが紹介してくれた人達です」
なるほど。
「りゅうたろう、大きくなって!」
私の肩からひらりと飛び降りたりゅうたろうが、虎ほどの大きさに姿を変える。
「チャビは〈回復〉! くぅ、チャビを守りながら攻撃!」
敵と味方が入り交じっている中で戦うのは、猫達には初めてだ。
いつもは、もっと分かりやすい敵だからな。
まぁ、でも、うちの猫達なら大丈夫だろう。
……福助以外は。
「助太刀、感謝する!」
私達が助成に来た事に気付いたらしく、大剣を振るっていた男が声を上げた。
……まさか、実際にこの台詞を聞く日が来るとは思わなかった。
「うう……」
血を流して倒れている人達の横で、チャビがごろごろいい始めた。
チャビの〈回復〉なら一度に全員を治せる。
びゅっという音と共に、どこからか矢が飛んできた。
「!?」
「気をつけろ! やつら、隠れて狙ってきてるからな!」
まずい!
くぅ達はともかく、大きくなったりゅうたろうはいい的だ。
「せり、〈気配察知〉!」
ひげをぴくぴくさせたせりが、一点を見つめた。
どうやら崖の上から射ってきているようだ。
「おこん、〈創成魔法〉! スーパーボール!」
「にゃん!」
ぼふんっ、と私の手元に大量のスーパーボールが現れた。
「りゅうたろう!」
私の声に気付き、りゅうたろうが振り返る。
カラフルな小さなゴムボールをチラチラと見せると、私は狙いを定めた。
そして、思い切り投げた。
スーパーボールは射手の隠れている崖へと飛んでいった。
そして。
スーパーボールに反応したりゅうたろうが、ボールの行方を追って崖の上へと飛び上がった。
「うわあああ!」
山賊の悲鳴がきこえてくる。
よし!
私は、逃げようとする山賊の足元にもスーパーボールを次々と投げ込んだ。
ボールを踏みつけてバランスを崩した山賊に、くぅが剣魔法で攻撃する。
コントロールには自信がある。
8匹の猫達を家具や柱にぶつからないように遊ばせるには、絶妙なコントロールが必要なのだ。
〈ボール投げ〉レベル8の力を見せてやる!
……いいんだ、別に。役に立っているし。
もっと、ちゃんとしたスキルが欲しかったとか思ってない!
本当ですよ?




