第二十話 猫です。ぱーとすりー。
「いい風だねぇ……」
見渡す限りの草原に座り、のんびりとした時間を過ごして居たのだが。
ばっさばっさという羽音が聞こえ、やがて遠くにあった影が近づいてきた。
またダメだったか……。
ため息をつく私の前に、どしんっと地面を揺らしながらドラゴンが降りてきた。
城塞都市オニキスでりゅうたろうに叩き落とされ、おこんの出したペットキャリーに捕まったドラゴンだ。
ずっと無限収納に入れておくわけにもいかないだろうと、人のいない所で野生(?)に返そうとしているのだが、なかなかうまくいかない。
えらくキャットフードを気に入ってしまったドラゴンは、猫達にご飯をあげる時間になると帰ってきてしまうのだ。
「私がテイム出来れば、いいんだろうけど……」
私のテイマーレベルではドラゴンなど絶対に無理だ。
というより、猫以外をテイム出来る自信がない。
仕方ない。気長にやろう。
「ご飯にしようか?」
そう言うと、ドラゴンは嬉しそうにしっぽを振った。
うん、地面が割れるからやめようか?
ドラゴンが私の前にぽとりと何かを落とした。
「?」
拾ってみると、それはソフトボールくらいの大きさの虹色に光る真ん丸な玉だった。
何だろう、これ?
……ドラゴンの卵!?
まさかな。
大体、ドラゴンの卵だとすると小さすぎる。
いや、ドラゴンがどれくらいのサイズで産まれてくるのか知らないけど……。
ふとドラゴンの方を見ると、何かを期待しているような目をして私を見ていた。
「……」
この目には見覚えがある。
猫達が『お土産』を持ってきた時にする「ほめて、ほめて」の目だ。
「あー、うん、ありがとう。すごいねー」
ぽんぽんとドラゴンの足を叩いてやると、喜んでばさばさと翼を羽ばたかせた。
やめろ、吹き飛ぶ!
とりあえずドラゴンのお土産は無限収納にしまった。
まぁ、初めてのお土産だしな。
記念に取っておこう。
「みんな、ご飯にしようか」
あの時、ほめてしまったのが悪かった。
ドラゴンは外に放すたびに、何かしらのお土産を持って帰ってくるようになってしまった。
「今日は、これか……。うん、ありがとねー」
宝石が無数に埋め込まれた黄金色の剣。
実用性はあまりなさそうだ。まぁ、高そうだけど。
しかし、妙にキラキラした物ばかりだな。
もしかしてドラゴンって、カラスと同じ習性なのか?
「にあん」
鳴き声に振り向くと、レッドバードを前にしたよつばが誇らしげに胸を張っていた。
「……うん、ありがとう」
困った事に、ドラゴンに対抗意識を燃やしたのか、猫達までやたらと『お土産』を持って帰ってくるようになってしまった。
よつばのように食べられるもの限定で狩ってくるのはまだいい方だ。
りゅうたろうやくぅは、どうやら大物狙いらしい。
くぅがワイバーンを狩ってきた時には、ほめるより前に「どうやって持ってきた!?」と突っ込んでしまった。
その内、ドラゴンも狩ってくるかもしれない。
「……」
私はちらりとドラゴンを見上げた。
今のうちに、逃げた方がいい気がするけどな……。
いや、くぅだってさすがに身内扱いしているドラゴンを獲物としてみるわけが……、多分、ないと、思う……けど。
「えーと、今ここだから……」
小さくなったりゅうたろうを肩に乗せたまま、マップを表示して現在位置を確認する。
次はどこに行こうか、と悩んでいると、不意にせりがキャットハウスから出てきた。
耳を伏せたイカミミ、つまり警戒体制だ。
りゅうたろうもふんふんと匂いを嗅いでいる。
……この感じだと魔物ではなく盗賊の類いか?
この世界では国や都市同士の争い事はほとんどない。
どこの国や都市にも守護してくれる神様がいて、争いが起きそうになると干渉してくるからだ。
しかし、魔導の塔の連中や盗賊のような悪党は存在する。
そういう連中が何か悪さをした場合、騎士団や街が作った防衛組織、それとギルドに所属している冒険者が対応する事になっていた。
冒険者の場合、報告、偵察、撃退、捕縛、殲滅など、個人のレベルにあった対応が求められている。
うーん、どうするかな。
私のレベルなら、偵察まですれば十分なのだが。
「きゃあああっ!」
「!」
悲鳴だ!
「りゅうたろう、大きくなって!」
大きくなったりゅうたろうの背中に乗り、悲鳴の聞こえてきた方向へ急いだ。
あれか!
馬車の回りを、十人くらいの男達が取り囲んでいた。
「……!」
風に乗って、血の匂いがしてきた。
倒れている男は御者だろうか。苦しそうにもがいている。
なら、まだ生きている。
良かった、間に合った!
「チャビ、〈回復〉! くぅは、チャビと馬車を守って!」
「なんだ、てめえ」
「……その、でっけぇのは何だ?」
馬車を取り囲んでいた男達は、突然現れた私とりゅうたろうに視線を移した。
馬車の幌の中には、親子らしき人達や、震えながらナイフを構えている男性の姿が見えた。
どうやら、乗り合い馬車のようだ。
「冒険者ですけど?」
「てめえが?」
盗賊が訝しげに眉をひそめる。
冒険者でもなければ、わざわざこんな所に首突っ込まないでしょうが。
「おかしら、どうします?」
「女とガキだけ捕まえろ。男は殺せ」
「こいつは?」
下っぱが私に剣を向けながら言う。
「……殺せ」
おい、こら。
今、胸見てから言いやがったな!?
「……」
よし、殲滅だ。
「りゅうたろう、叩きのめして! くぅ、〈剣魔法〉!」
生まれてきた事を後悔しろ!!
「た、助けてくれ!」
「俺、高いとこダメなんだよぉ!」
知るか!
盗賊どもを叩きのめしたあと、おこんに出してもらった紐でぐるぐる巻きにした。
そして、現在。
さらに大きくなったりゅうたろうが、盗賊どもを縛った紐の先を咥えてぶらぶらとさせながら馬車の隣を歩いていた。
ギルドへの報告もあったので、護衛を兼ねて乗り合い馬車に乗る事にしたのだ。
「猫さん、すごいね」
子供達がにこにこしながらりゅうたろうを眺めている。
「大きいわねぇ……」
答えるお母さんはまだ呆気に取られているようだ。
「いやぁ、助かったよ」
御者さんは何度もそう言った。
「あんた達が通りかかってくれなかったら、どうなっていたか」
「この辺って、盗賊とか多いんですか?」
「いや、この辺りは平和なもんだよ、いつもは」
だから、特に護衛も雇わなかった、と御者さんはそう言った。
旅の護衛も、冒険者の仕事だ。
商人などは馴染みの冒険者パーティがいたりするが、安さが売りの乗り合い馬車はよほどの事がない限り護衛を雇ったりはしない。
その代わり、となり町までといった短距離移動が主だ。
街の入り口で馬車とは別れた。
少ないけど護衛の料金をギルドに渡しておくから、と御者さんに言われたので、ありがたく受け取る事にした。
通りかかっただけだから別に無料でも良かったのだが、そうするとほかの冒険者も同じ扱いをされてしまう。
こずるい依頼者もいるから「基本的にギルドを通すように」と、どの冒険者も登録時にさんざん言い聞かされるのだ。
町のギルドを探して報告に向かった。
「すいません、盗賊捕まえたんですけど」
「おう、ご苦労さん」
この町はあまり大きくないので、ギルドも小規模だ。
受け付けのお姉さんと、私が声をかけたギルドマスターと思われる男性の二人でやっているようだ。
縄で縛られた盗賊達のぐったりした様子に、ギルドマスターは頭をかいた。
「ぴくともしねぇけど生きてんのか、あれ?」
「大丈夫です。多分、気持ち悪いだけなんで」
紐の先でずっとぶらぶらさせられていたのだから、気分くらい悪くなるだろう。
「盗賊捕縛、と。乗り合い馬車からも護衛の料金が出てるな」
報酬を受け取るための書類に必要事項を書き込む。
「ところで」
りゅうたろうを上から下までじっくりと見ると、首を傾げた。
「あんたの使い魔、でっけぇな。ありゃ、なんだ?」
「猫です」
「…………」




