第十八話 魔道士達。
「私達はやつらの所に行くけど、あなたはどうする? どこかに隠れている?」
私が確認すると、少女はきりっと唇を噛み締めた。
「……一緒に行く」
「分かった。キング、この子の事もお願いね」
キングが少女の足に頭をこすり付けると、彼女の表情が緩んだ。
「私は相田つかさ。猫達は……」
「見ていたから、知ってる」
少女はぼろぼろの服の裾をぎゅっと握った。
「いつも楽しそうで、羨ましかった……」
「……あなたの名前は?」
「みう」
「みう、行くよ」
「……うん」
所々に仕掛けられている罠や魔方陣を解除しつつ、塔の最上階を目指す。
ずっと囚われていたらしいみうの事が心配だったが、特に辛そうな様子もなく私達についてきた。
もしかしてエルフって人間より体力あるのか?
最上階につくと、やたらと重々しい雰囲気をかもし出している扉があった。
……まぁ、ここだろうな。
どうして悪い連中ってのは高い所にいたがるんだか。
ま、いっちょ派手にいきますか。
「福助、〈風魔法〉。吹き飛ばして!!」
ごおっという音と共に激しい風が吹き荒れ、扉がめきめきと割れて粉々になった。
中に入ると、案の定魔導師達が待ち構えていた。
ほとんどが男で、全員がフードのついた黒いローブを着ていた。
「お邪魔してまーす」
わざとらしく明るい声で言うと、やつらは薄ら笑いを浮かべた。
「知っている」
いや、いや。
あれだけ派手に暴れていたんだから気付いていない方がおかしいだろ。
なにカッコつけてんだよ。
「ケジメつけてもらいにきたよ?」
「愚かな。ただびとが、我々に勝つつもりでおったか」
「んー、やるのは私じゃないしねぇ?」
「たかが猫」
……その猫に、街を滅ぼされそうになったんだろうが。
「《発動》せよ」
「!?」
福助の足元に魔方陣が現れた。
「よつば、〈解除〉!!」
ダメだ、間に合わない!
福助は身動きが出来ないようだった。
魔導師の一人が福助に近付き、鎖のついた首輪をつける。
「これで、こいつは魔法が使えない。ただの猫だ」
得意げに魔道士が告げる。
「……」
どいつもこいつも、へらへら笑ってんじゃねぇよ。
「福助! やれ!!」
「聞いてなかったのか? 魔法は……、痛いっ!」
魔導士が悲鳴を上げた。
福助が、首輪をつけた魔導師の手に思い切り噛みついたのだ。
ついでに、顔をめちゃくちゃに引っ掻いた。
けっ、ざまぁみろ。
魔法だけ封じたってダメにきまってるだろ。
牙も爪もあるんだよ、猫なんだから。
どうせ、くぅの時だって魔法を封じたからって油断して逃げられたにちがいない。
学習しない連中だ。
それに。
福助が後ろ足で首輪を蹴ったり、体をぐねぐね動かしたりしている。
やがて、がちゃんという音を立てて輪になったままの首輪が床に落ちた。
「なっ……!?」
うちの猫達、首輪抜け出来るんだよな……。
「ならば、あれを発動させるしかない」
おそらくリーダー格であろう、白い髭を生やした初老の男が呟いた。
あれ? あれって何だよ。
まさか巨大ロボとか出てこないだろうな。
「《●◆▽◇▲》」
何を言っているのか聞き取れない。
自動翻訳機能でも無理な事もあるのか。
「……?」
空気が不快にゆらめき、部屋にあった蝋燭に順に灯りが灯っていく。
「この塔全体にほどこした魔方陣を発動させた」
初老の魔導士がにたりと笑う。
「発動してしまった以上、お前達に打つ手はあるまい」
「……」
あー、悦に入っているところに悪いんだけど。
「これ無くても発動するの?」
私が手に持っていたのは、地下に降りる時に使った蝋燭だ。
状況を見る限り、塔の中の蝋燭が仕掛けのようだしな。
「な、なんて事を……」
すでに小さくなってしまっている使いかけの蝋燭を見て、魔導士達が愕然としている。
あんな所に置いておく方が悪いと思うけどな……。
「ならば……」
「老師、まさかあれを!?」
「お止めください!」
……内輪揉めが始まったようだ。
初老の男をほかの魔道士達が止めている。
「我が生涯をかけて開発した、禁断の魔法」
「あれを使ったら街がどうなるか」
はあ!?
「かまうものか。ここまで虚仮にされて黙っていられる訳がなかろう」
待て、こら。
お前のプライドのために、アレキサンドライトの街を道連れにする気か!?
「この塔の周囲には幾重にも結界が張り巡らしてある。我らには影響あるまい」
しかも、自分達だけ助かるつもりなのか?
どこまでクズなんだよ!
「《▼□▲★◎■○◇》」
「よつば、〈解除〉!」
よつばが耳を伏せる。
まさか、解除出来ないのか?
女神様の結界さえ解除したよつばが?
言葉を聞き取れない事と、何か関係があるのか?
落ち着け! それは、今考える事じゃない!
「キング、〈空間転移〉!」
こうなっては女神様に頼るしか方法がない。
その時、くぅが魔導師達の前に飛び出した。
あおおおっ、とドスのきいた唸り声をあげ、逆立てた毛がばちばちと静電気を起こしている。
「くぅ、ダメ! 戻りなさい!」
私が叫ぶのと同時に、チャビがキャットハウスから飛び出してきた。
「チャビ!」
にゃおん、とチャビが鳴いて呼ぶが、くぅの耳には届いていないようだった。
くぅが妙に静かだと思っていたが、福助が首輪をつけられたのを見た瞬間からずっとキレていたようだ。
……仕方ない。
おこんをキャットハウスから出す。
「キング、みんなを連れて女神様の神殿に〈空間転移〉」
キングが私の顔をじっと見た。
「私はくぅを置いていけない。分かるよね?」
多分、チャビもくぅを置いてはいけない。
「キング! 行きなさい!」
一瞬躊躇うような仕草を見せたあと、キングは目をぱちりと閉じ、それと同時に猫達とみうが姿を消した。
チャビを両手に抱きかかえる。
その時、小さくなったりゅうたろうがひらりと肩に乗ってきた。
「りゅうたろう!?」
あんた、キング達と一緒に行かなかったの!?
マズい。小さくなっていたから、りゅうたろうが残っていた事に気付かなかった。
くぅの回りを細い炎が渦巻いている。
やがて、それは数百もの炎の剣へと姿を変えた。
対して、魔導師達は口々に呪文を唱えている。
どうする?
くぅを止めるか? やらせるか?
街をどうする?
考えろ、私! 最適解は何だ!?




