2-10:決着と予兆
「先に、ひとつ助言しといてやるよ。風の防御はずっとしておけ。じゃなきゃ死ぬぞ。」
「ずいぶん余裕かましてくれるじゃねえか。俺を前にその態度はいただけねえな。」
そう言った木庭袋がその場から消えた。そして次の瞬間には、俺は吹き飛ばされていた。
「ぐあっ!」
頬が焼けるように熱い。口が切れていることから、どうやら殴られたらしい。
「そんなぬるい頭じゃ、どうせ新しい力を持った自分がテレポートまで使うのは卑怯だとか、そんなくだらねえこと考えてんだろ。俺が風使ってテメエに見えない速度で移動すりゃテレポートと同じだぜ?」
図星だった。このよくわからない力が覚醒してから、当たれば終わる。そんな風に考えていた俺はどこかで奇襲は卑怯だと思っていた。だけど相手は木庭袋だ。4種の能力を使うこいつの応用力はこんなもんじゃないはずだ。気持ちを切り替えなければ一気にやられるのは俺の方だ。
「ああ、悪かった。じゃあもう手加減はしねえぞ!」
「その俺を見下した発言が気に入らねえって言ってんだよ!」
瞬間的に背後に回り木庭袋を殴って終わりだ。俺はここへきてまだ、こいつのことをなめていた。テレポートした先で奴を見失い、目を見開いた俺は背後から強烈な蹴りを食らった。
「があっ!」
確かに背後に飛んだはずだ。なのになぜ俺の背後に奴がいたんだ? 何をされたかはわからないが、今の攻撃が蹴りではなく能力によるものであったなら勝負はついていたかもしれない。俺は冷や汗が流れるのを感じた。
「そんな馬鹿なってか? 俺だって何度も見せられりゃ慣れるもんだ。テメエが飛んだ直後に移動することなんて簡単だぜ? ああ、わりいな。手加減しようがしまいがテレポートは無意味だったなあ?」
そうか、俺たちが岩の槍の対策で慣れたようにこいつもまたテレポートに慣れてしまったんだ。やはりこいつは強い。
「人に手加減するなって言ったわりにはてめえも手加減してんじゃねーか。なんだありゃ? てめえの武器は殴りや蹴りじゃねーだろ。」
「俺はキングだからな。キングが手加減してやるのは当たり前だろ? 実力を出して欲しいならテメエからまず示してもらわねえとな!」
木庭袋の手から火の玉が現れたのだが、それは俺が思い描いたものと比べて随分小さかった。バレーボールほどの大きさしかなく、5m級の大きさを簡単に出せるこいつからすれば明らかにおかしい。
「なんだ? キングの余裕ってやつか? いくらなんでもそりゃなめすぎだろ。」
「慌てんな。俺は別にテメエをなめてねえ。同じ攻撃を見せても身体能力で慣れちまうからな。それより油断してっと死ぬぞ?」
言い終わると同時に同じ大きさの火の玉が次々と飛び出し、その数えるのも馬鹿らしいほどの火の玉が俺の周りを覆った。そしてそれらは全方位から一斉に襲い掛かってくる。
「くそっ!」
俺は咄嗟にテレポートで回避したのだが、当然のように奴はそこを狙っていた。瞬時に俺の飛んだ場所を視認した奴は、避けて油断していた俺の目の前に現れ腹の辺りに軽く手を添える。そしてーー
「ぐあああああああああああっ!!!!!」
奴は俺の全身に火をつけた。だが、それも一瞬のことで、さらに俺を氷で覆いつくし、消火した後にその氷までも解除した。
「テメエよ。さっきの方がよっぽど強かったんじゃねえのか? 弱すぎて話になんねえぞ。」
「ぐっ! 態々消火までしやがって。遊んでんじゃねーぞ!」
「真面目にやって欲しいなら真面目にやれよ。テメエ、ちっと前に誰を燃やされたか忘れたんじゃねえだろうな。態々火をつけてやったんだからしっかり思い出せ。」
ドクン。さきほどと同じように俺の怒りと共に赤い光が身体を包んだ。
「てめええええええええええ!!!!」
「そうそう、そんくらいキレてくんねえとな。早くしねえとアイツも本当に死んじまうかもしれねえぞ?」
美紀の死を想像した……してしまった。
「がああああああああああ!!!!!」
俺の身体から溢れ出た赤い光の噴出で木庭袋が吹き飛ぶ。そしてその速度に追い付くように翳した手から閃光を放った。咄嗟にガードを固めた木庭袋だったが、それは脆くも崩れ去り、閃光と共にビルを破壊しながら突き進む。俺はすぐにテレポートして奴を追った。
瓦礫と化したビルの中であいつはまだ立っていたが、既にその姿は血に塗れている。しかしそんな状況に置かれながら奴は笑っていた。
「やっと本気になったかよ。やっぱつええな。何の力なのかもまったくわからねえし、遠距離攻撃までできるのか。だが、これで俺も本気になっていいよなあ!」
木庭袋の手から急速に氷が伸びてくる。串刺しを狙うにしても直線的すぎだ。俺は右手を構えてそれを消し去ろうとしたが、その氷は俺の手前で大きく軌道を変え背後から狙いを定めてくる。俺はその尖端には目もくれず、伸びた氷の途中に閃光を当ててへし折った。
そして次に木庭袋に向かって閃光を放とうとしたところで俺は奴を見失った。土煙が蔓延している。それはすぐに俺の周囲にまで到達し視界を遮り、その隙を突くように正面から今度は薄くスライスされた氷の刃が飛んでくる。それらを右手で消滅させた直後、俺は背中に熱を感じた。何事かと振り向いたところに5m級の火の玉が降り注いでくる。こんなものはテレポートで飛ばせるとわかっているはずだ。なんでいまさら? そう思った俺はこれまで通りその火の玉に手を向ける。だが、俺がその火の玉に触れる直前、さらに背後から同じような熱を感じた。
「ひとつなら逃げねえと思ったぜ。」
そんな奴の声を聞いた瞬間、俺は背中から5m級の火の玉の直撃を受けた。咄嗟に赤い光を全力で噴出してガードした後にテレポートで逃げたが、爆発には巻き込まれなかったものの、さすがにあんなものの直撃を受けて無事で済むはずがない。俺の背中は焼け爛れて激痛が走っていた。
「ハァ、ハァ……あんなもんが複数出せるのか、ぐっ……てめえどんだけチートなんだよ。」
「あ、ああ。だが……あれで無事なテメエも相当イカれてんだろうが……。」
木庭袋も相当の出血だ。そろそろ決着ってのをつけないとな。おそらく奴もそう感じているだろう。対峙した俺たちはしばらく動けずにいたが、俺は痛む身体を赤い光で無理矢理押さえ込み、閃光を放った。そしてそれを避けた奴の元へ瞬時にテレポートする。殴りかかろうとした俺の前からまた奴が消えたが、すぐに背後にいると直感し、俺は奴の頭上へとテレポートした。俺を見失った奴に向かって特大の閃光を放つ。
「これで終わりだ木庭袋!!!」
「なっ?!」
声がしたことで頭上にいると理解した木庭袋は俺の方を向いたが、もう避けられるタイミングではない。直撃を受けた奴はそのまま閃光と共に地面へ叩きつけられ意識を失った。
勝った。そう思い、少しだけ気を抜いたところで俺も限界に達したようだ。地上へどうにかテレポートはできたが、そこで力尽きるように俺の意識も途絶えたーー
「颯汰! 颯汰!」
夢を見ているのだろうか。さきほどまで感じていた背中の激痛がまったくない。そして俺を呼ぶこの声……。これは美紀だ。そう認識した瞬間、俺は跳ね起きた。
「美紀! って……美紀?」
そこには大火傷を負っていたはずの美紀がいた。どういうことだ。やっぱり夢なのか。
「颯汰! 無事で良かった! 颯汰が死んじゃったら私……。」
俺に抱きつきながら泣きじゃくるこいつを見て思ったが、立場が逆じゃないか? 俺がお前の心配をしていたはずなんだが……。美紀の頭を撫でながらそんな疑問を浮かべていたのだが、それに答えたのは由美子だった。
「颯汰。本当に無事でよかった……。みんなの傷を治したのは胡依よ。」
「胡依が? 治したってどういうことだ?」
「能力に目覚めたってことよー。すごいわよほんと。美紀の羽も完全に元通りにしたし、颯汰の背中の傷ももうないんだからー。」
胡依が能力を……。一言お礼を言おうと思ったが当の本人が見当たらない。見渡す俺に玲が話しかけてきた。
「胡依はここで寝ているよ。発現したばかりのその能力を全力で使ったんだ。よほど疲れたのだろう。今は休ませてやってくれ。」
玲の膝枕で眠っている胡依を見つけたが、能力の影響なのか髪の色が青く染まっていた。そうか、今は少しでも休ませてやらないとな。美紀を助けてくれて本当にありがとう……。俺は心の中で先に礼を述べた。
「それにしても、胡依はどうやって能力に目覚めたんだ?」
「私たちは胡依を病院に置いてきてしまったのだが、この子はその後ここまで走ってきたんだよ。そこで怪我をした私たちを見て相当なショックを受けたようだ。正確な発現のトリガーはわからないが、そこで思うことがあったのだろう。優しいこの子に相応しい能力だと思うよ。」
そう言って玲は慈しむような微笑みを浮かべながら、胡依の頭を撫でていた。
「胡依は誰も傷ついて欲しくニャいと強く願ったんニャよ。それと颯汰が新しい能力を覚醒させていたからニャー。強く影響を受けてこんな奇跡的ニャ能力に目覚めたんだと思うニャ。」
胡依に抱きかかえられていたクロが顔を覗かせてそう説明した。俺の力の覚醒による影響か。キレちまってたから何がどうなっているのかはわからないが……。そこで俺は覚醒に至る原因となった男のことを思い出した。
「そうだ! 木庭袋はどうなった?!」
あいつも大怪我をしていたはずだ。こいつらにとっても憎むべき相手かもしれないができることなら……。
「大丈夫よ。胡依ちゃんが治してくれたわ。それと颯汰に伝言があるの。」
美紀に伝言を頼んだってのか? どういう神経してやがんだ、あの野郎。
「お前たちと一緒につるむ気はない。こっちはこっちで勝手にやらせてもらう。化け物が出てくるっていうなら、それまでに力の制御くらいできるようになっておけよ。だそうよ。」
つるむ気はないか。まあそうだろう、いまさら俺たちが一緒になって行動するなんてことはできない。残した爪痕があまりにも大きすぎた。
「それとね? 話もいろいろ聞いたの。颯汰とのやりとりもね。最後に私たちに謝っていったわ。すまなかったって。今はまだ複雑な気持ちだけど、颯汰が決着つけてくれたみたいだしね。」
木庭袋が謝った。正直信じられなかったが、あいつの中で何かあったんだろう。今になって思い返せば闘いの間もいろいろと変化はあった。あいつにも俺にも……。それが良い変化であると信じてこの先に備えていこう。
その後、目覚めた胡依を連れて病院へ戻った俺たちは、すぐに浩一の治療を行ってもらった。胡依の手から、髪の色と同じようなとても綺麗な青い光が現れ、それが浩一の身体を包み込んでいき傷を癒していく。治療を終えたところですぐに目を覚ましたようだった。
「浩一!」
「颯汰……? え? それに美紀ちゃんや由美子ちゃんまで?! なんでこんなとこにみんなが……。」
混乱していた浩一だったが、俺たちはゆっくりと説明していった。もう慌てることもない。助けたい奴らは全部救えたんだ。一通りの説明を終えた後、浩一が口を開いた。
「そうか。あいつを颯汰が……。俺のために危険な目に合わせて悪かったな。」
「お前が無事ならそれでいいんだ。らしくねーからそんな顔してんじゃねーよ。浩一のくせに真面目か。」
やっと浩一を救出できた。この世界での不安要素はまだまだあるが、とりあえず俺たちが守るべき奴らはここに集ったことになる。危険なことはあったが今ここにいる奴らに目を向ければ自然と笑顔が戻る。本当に良かった。
「なあ颯汰。真面目ついでにひとついいか?」
「ああ、なんだ? お前のシリアスなんて似合わないから早めにな。」
少し茶化した俺だったが浩一の表情は変わらない。俺は息を呑んで続く言葉を待った。
「三門明早苗って子を知ってるか?」
「いや、知らない名前だな。なんだお前こっちきて誰かに惚れたのか?」
少し思案するよな表情を浮かべていたが、すぐに浩一の雰囲気はいつも通りに戻った。
「そっか。知らないならいいんだ。いやー可愛い子って気になるからな!」
「浩一君は変わらないわね……。」
「どうしよーもねーなお前は……ったく。」
俺と美紀が呆れ、他の奴らも日常的なそんな光景に笑顔が零れていた。
ただ、浩一の言ったその名前に唯一反応を示していたのがクロだったのだが、俺はそのことには気付いていなかった。
2章完結です。
本来であれば書きたい内容の大まかなあらすじを決めて、話を膨らましていくのでしょうが作者はその時思いついた内容をそのまま書き綴っています。
この先の展開として、このまま物語りを進めていくか、間にほのぼのした話を混ぜてキャラを色濃くしていくかで迷っています。素人が下手に脱線して完結に至れなくなることも怖いのですが、練習のためには書いた方がいいとも思えます。
とりあえず3章の内容はまだ思いついていないので、少しお時間をいただくことになるとは思いますが、諦めたりはしないつもりですのでこれからも宜しくお願い致します。
以上、作者でした。この作品を読んでいただいた全ての方々に感謝を。




