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素敵な夢に贈り物を  作者: 月出明人
2章:不穏な足音
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2-8:敗北と犠牲

戦闘描写は本当に難しいですね。

緊張感というのを読者の方に伝えられるようになりたいものです。

 テレポートで飛んできた俺は、見知らぬ景色に唖然とした。怒りに我を忘れかけていた頭が冷めていく。俺は渋谷駅に向かって飛んだはずだったのだが、ここはどこだ? テレポートに失敗でもしたのだろうか。

 そこは倉庫のような場所だった。埃っぽい空気と、昼だというのにその光を拒むような構造。天井は高く、その空間を埋めるように木箱が積まれている。


「だ、誰ですか?!」


 場所の確認に視線を上げていた俺は、すぐ横にいた少女に気付かなかった。突如現れた不審者に少女は怯えているようだ。

 いや、いきなりテレポートで現れれば驚くよな。こんな場所にくるつもりはなかったんだが悪いことをしてしまった。謝って移動しよう、そう思い口を開きかけた時だった。


「あ? なんだてめえは。」


 怯えた少女に目を向けていた俺の背後から声がした。発言そのものには意味はない。だが、俺はその言葉を聞いた瞬間、冷めていた頭が沸き立つのを感じた。忘れもしないこの声。

 目の奥が熱くなり目蓋を閉じる、そして荒くなる呼吸を押さえ付けるように深呼吸をする。俺は感情が振り切れないように自身を制御しながら、どうにか奴へと振り向いた。


「お前が……木庭袋悠人(きばくらゆうと)だな?」


「てめえ……あの時、急に消えたイカれた男女か。」


 質問に対する回答は得られなかったが否定もない。もうそれで十分だった。血が滲むほど硬く拳を握り締めた俺は、瞬時に木庭袋(きばくら)の正面にテレポートし、右の拳をその顔に叩き付けた。


「ぐあっ……。」


「ゆるさねえよお前……。よくも浩一(こういち)をやりやがったな。」


 何が起こったかわからない、といったように木庭袋(きばくら)は動揺していたが、すぐにそれが能力(・・)によるものと判断したのか、攻撃に転じてきた。


「くそがっ!なにキレてんだてめえ。よくわからねえが死にてえらしいな?」


 お得意の岩の槍を放ってきたが、そんなものはもう当たらない。いくつか避けた俺は、今度は背後にテレポートし、木庭袋(きばくら)の背中を蹴り飛ばした。虫みたいに地面に這い蹲ってるあいつを見て、俺はほくそ笑んでいた。

 こんなもんじゃ足りない。

 こいつは絶対に許さない。


「やめて! なんですか貴方は!」


 少女が俺の腕を掴んだ。なんでこんな男を庇うんだ。こいつが何をしたかわかってないのか。


「俺が誰かなんてどうでもいい。こいつが俺の親友を傷つけた。理由はそれだけで十分だろ。」


「ああ。なら俺がお前を殺す理由ももう十分あるよなあ?」


 そう言った木庭袋(きばくら)は俺に手を向けた。また岩の槍か。そんなものはもう当たらない。そう思っていた俺は突然吹き飛ばされ、放置されていた木箱をいくつか突き破り、壁に激突した。


「かはっ……。」


 肺から空気が抜けていく。背中と喉が熱い。何が起こった? 岩は見えなかった。空気を叩きつけられたような感じだ。くそっ!まだ他に能力(・・)があるのかこいつは。

 最低でも2種類(・・・・・・・)。俺自身がそう言っていたはずなのに、どこかでこれ以上はないと決め付けていた。


「お前の能力(・・)がどんなもんか見せろって前に言ったな。テレポートか?なかなか面白い能力(・・)だけどよ。俺はお前に見せたのが全てじゃねえぞ?」


 突然気温が下がったような寒気に襲われた。なんだ? と周囲を窺った直後、頭上から氷の槍が降り注いできた。


「くそっ!」


 俺は痛む身体に鞭を打って床を転がり、どうにか避けることに成功したのだが、その目の前には既に木庭袋(きばくら)がいる。動き終わった直後を狙われたため、俺は避けることもできずに胸のあたりを蹴り飛ばされた。


「ぐっ、ふっ……な……なんだ?」


 何が起こっているのかわからない。こいつはいったいいくつの能力(・・)を持っているんだ。


「おもしれーくらいにパニくってやがるな? ははっ。教えてやるよ。俺は火、氷、風、地の4属性の能力(・・)だ。お前ら雑魚とは出来が違うんだよ。」


 愉快そうにそう告げる奴は、空中に浮かび上がっていた。風を使って浮遊しているのか。

 能力(・・)も使い方次第でいろいろなことができると学んだばかりだった。尊敬にも似た感情を抱いた(れい)の氷属性を含めて、さらに3つの属性だなんて。応用の幅が広すぎる。


「くそが……。」


「さっきまでの威勢はどうしたよ? ははっ。もっと絶望してみるか?」


 そう言った奴の身体が氷で覆われ始める。


「テレポートして殴るだけのお前にこれをどうにかできんのか? なんなら試しに殴ってみろよ!」


 そのまま弾丸のように突っ込んできた。


「ぐっ!」


 俺はぎりぎりで避けることができたが、周囲の木箱どころか壁にまで穴があいていた。予想外の威力に驚愕していたが、それだけでは終わらなかった。壁を抜けた後も風を切る音が聞こえている。その後すぐに壁を突き破り俺に向かって戻ってきた。

 まずい! こんな建物の中じゃどこから来るかわからない。俺は弾丸になった奴をどうにか避けながら外にまで出た。いや、誘い出されていた。


「外に出ちまったな? もう手加減はいらねえってことでいいよな?」


 手加減? そういえば、と中にいた女を思い出す。あいつに遠慮して力を抑えていたっていうのか……あれで。息切れを起こしていた俺がどうにか見上げたその先では、直径2mほどの巨大な火の玉が放たれる瞬間だった。

 くそっ! 着弾の瞬間に俺はテレポートで逃げた。

 

 咄嗟に渋谷駅へと飛んだ俺は姿を隠す。眩暈がする。能力(・・)の多用というほどにはまだ使っていないはずだ。だが負傷や緊張、そういった負荷が掛かり俺は限界近くに達していたようだった。

 ちくしょう。完全に負けた。何もできなかった。浩一(こういち)の仇をとることもできないなんて。地面に拳を叩き付けた俺に、声がかけられた。


「鬼ごっこは終わりか?」


 ゾクッと背筋が凍りついた。振り返ると、そこには木庭袋(きばくら)と少女がいた。どうやってここが……。そんな疑問を抱えている俺に、奴が答えた。


「ああ、紹介がまだだったな。こいつは東風谷奏(こちやかなで)っていうんだがよ。触った相手の居場所を探知する能力(・・)を持ってるんだよ。お前がどこに逃げても無駄ってこった。」


 触った相手の……さきほど、少女に腕を掴まれたのを思い出した。俺の能力(・・)じゃ勝てるどころか逃げることもできないのか。身体から急に力が抜ける。ああ、こんな奴に勝てるわけがない。


「おーおー。いい表情だな。まあ仕方ねえわな。俺の能力(・・)には勝てるわけがねえ。この世界は俺のためにある。ここでは俺がキングなんだよ。思い知ったらそろそろ死ぬか?」


 殺される? 俺が。この世界で死んだらどうなるんだろう。そんなことを考えていた。


「待って!」


 止めに入ったのはかなでと呼ばれる少女だった。


悠人(ゆうと)。殺すのはダメよ。私はそんなことをさせるためにここにいるわけじゃない。貴方を抑えるためにいるの。」


「うるせえな(かなで)。俺に指図すんじゃねえよ。」


「こちらでの貴方は横暴が過ぎるわ。そんな子じゃなかったでしょう?」


「ガキ扱いしてんじゃねえ! 力があるなら振りかざす。俺が現実で身を以って教えられたことだ!」


 そんな会話を聞いているうちに怒りが込み上げてきた。殺すのはダメ? じゃあ大怪我で意識不明の重体にまで陥った浩一(こういち)は死んでないからいいとでも言いたいのか。

 自分がキング? そんな自己満足のためだけに浩一(こういち)はあんな姿にされたっていうのか? ふざけやがって……。


「なめてんじゃねーぞ! てめえええええ!」


 俺はありったけの力を込め、奴の目の前にテレポートして最後の奇襲をかけた。一発で意識を刈り取れるほどのダメージを与えられればいいのだが、やはり甘かった。


「ぐっ……いてえな。てめえはもう死ね。」


 ここへ来て岩の槍が飛んでくる。嬲り殺しかよ。残り少ない体力を奪われながら俺は避け続けた。息切れが酷く、肺が痛む。

 徐々に避けきれなくなり、いくつかの槍が身体を掠め制服が引き裂かれる。まずい! 直撃すると判断したところで俺はテレポートによる回避を行ったのだが、そこで眩暈がして膝をついてしまった。

 限界だ。襲い掛かる無数の槍を、俺はもう眺めるしかなかったーー


 そこに突然、俺の目の前に巨大な氷塊が現れ岩の槍を弾いたのが見えた。なんだ? 氷で仕留めようとして外した?

 

颯汰(そうた)!!」


 声が聞こえた。それは俺が長年付き添ってきた声であり、一度聞けなくなったと嘆いた声であり、この世界で再度聞いて涙が出たほどの声。

 振り返ったその先には、その声の持ち主である美紀(みき)が、由美子(ゆみこ)(れい)を両脇に抱えて飛んでいる姿が見えた。

 ああ、俺は助かったのか。そんなことを思ったのも束の間、俺は絞り出すように声を張り上げる。


「ばか! 来るな! 早く逃げろおおおお!」


 ここに来てはダメだ。だがこいつらは来てしまうんだ。単独行動の結果がこんな風になると、先日釘を刺されたばかりだった。

 膝を着いている場合じゃない。しっかりしろ。俺が守らないで誰がこいつらを守るんだ!


颯汰(そうた)を放っておけるわけないでしょ!」


 少し遠めに二人を降ろした美紀(みき)が再び俺の元へ飛んでくる。


「なんだあいつは? またおもしれー奴が来たなおい。」


 奴の興味が美紀(みき)に向いてしまった。すぐさま岩の槍を飛ばす木庭袋(きばくら)。だが先日の訓練の成果もあり、美紀(みき)は軽々と避けている。

 

「油断するな! そいつの能力(・・)はそれだけじゃ!」


 俺の言葉に割り込むように奴が言った。


「飛んでる奴を落とすなんてのは風いじっちまえば簡単だよなあ?」


 美紀(みき)に突風が襲い掛かる。


「きゃあ!」


 バランスを崩した美紀(みき)が地面へと落下する。そこへ追撃が迫ろうかというその時、銃声が鳴り響いた。

 俺たちは知っている……。由美子(ゆみこ)は人間に当てるようなことはできないと。今のは威嚇射撃だったのだが、奴にとっての判断は違った。


「銃ってのは予想外だ。さすがに俺も死んじまうじゃねえか。てめえから始末しとかねえと危険だな。」


 ターゲットが由美子(ゆみこ)に絞られた。俺たちは咄嗟に動き出していた。

 由美子(ゆみこ)の前に張られる巨大な氷塊。

 由美子(ゆみこ)の元へ飛翔する美紀(みき)

 由美子(ゆみこ)の元へテレポートする俺。

 だがその攻撃は全てを打ち砕く代物だった。直径にして5mはあるであろう火の玉。多少の氷では防ぎ切れない。テレポートで飛んだ俺は、すぐに由美子(ゆみこ)を連れてもう一度テレポートをしようとしたのだが、酷い眩暈に襲われて膝をついてしまった。


 俺と由美子(ゆみこ)に風が襲い掛かる。それは全力で飛翔してきた美紀(みき)だった。俺たちを抱えたまま空へと逃げたのだが、着弾と同時に凄まじい爆発が発生した。

 吹き飛ばされた俺たちはそれぞれ地面を転がってしまったが、どうにか直撃は避けられたようで安心していたのだが……。皆の無事を確認しようとした俺が見たものはーー


 倒れ伏した美紀(みき)だった。その羽は焼け爛れて、もはや原型を留めていない。あの羽には感覚があったはずだ。それが……あんな……。


美紀(みき)……。美紀(みき)イイィィィ!!!!」


 その呼びかけに美紀(みき)が答えることはなかった。

 奏さんの能力がわりとチートみたいに見えますが、実際は馬鹿正直に告げていないだけでいろいろ制限もあります。もう少ししたら登場人物のリストも公開したいと思っています。


 次話は作者都合により、少しお時間をいただくことになります。

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