2-7:捜索と怒り
捜索当日。
手分けして捜索するというのは危険であるため、まとまって視認できる範囲で捜索する。単純にこれしか方法が思いつかなかった。これでいいのか不安ではあったが、安全面を考えれば仕方がない。
「渋谷駅から見て人影が見えないようなら一度戻ろう。次の案を考えるにしても、あんな危険な場所で悠長に考えていられない。」
全員が頷くのを確認すると、俺は2度に分けてテレポートし、渋谷駅構内へと入った。当たり前のように静まり返った構内だが、音のない中で物音を立てるということが怖くてたまらない。できることなら呼吸さえしたくないほどに。
そんな俺の意思とは反して鼓動が早くなり呼吸も荒くなる。それほどに俺は奴を恐れているんだ。一度頭を振り、意識を切り換えた。
「よし。見辛いかもしれないが、ここから全員で人影を探してくれ。誰でもいいから人を見つけたら教えて欲しい。」
俺たちは息を潜め、じっくりと外を見渡した。10分ほど過ぎただろうか。予想通りというか、外に人の気配はない。少しホッとしてしまった俺がいた。
「ここから見える範囲だけで探せるものなのか?」
玲はそう言うが、俺にだってわかっている。目に見える範囲だけでは捜索がうまくいかないことくらいは。
「建物の中なら少しは安全だろうから、これを利用したいんだ。何度も別の場所に飛んでそこから様子を見るっていう手もあるだろ?」
そうだ。そうやって安全圏から捜索していれば、あの男から見つかる可能性だって低くなるはずだ。そんなことを考えている時だった。
「あ、あの……人がたくさんいます。こ、こっちを見ているようですが……。」
「なっ!?」
胡依の報告を受けてすぐ、俺たちは一斉に窓の外を睨み付けた。だがそれらしい姿は見られない。どこだ? そんなたくさんの人がいるなら気付かないはずが……。
「ち、違います。う、後ろに。」
驚いた俺たちはまた一斉に振り返った。そこには見知らぬ学生服を着た男女が5~6人いる。咄嗟に皆を庇うように一歩前に出る俺。そしてそれはあちら側も同じだった。
同じ行動に出た。それはあいつにとっても後ろに控える奴らが守るべき対象だということだ。いきなり襲いかかるようなことはないか。少し安堵したが、俺はあることに気がついた。
「そ……その制服……あの男と同じ!」
一気に警戒心が高まった。噴出す汗が止まらなくなり、鼓動が早くなる。全員をまとめてテレポートできないことに苛立ちを覚えた。どうする? 美紀に頼むしかないか。
「あの男っていうのは木庭袋悠人のことか?」
その名前に覚えはない。だが、少なくともその男の声からは攻撃の意思は感じられない。同じ制服なら知っていても不思議はないか。
「名前はわからないが以前襲われたことがある。お前と同じ制服を着ていたが、仲間か?」
そう、ここが大事だ。返答次第ではすぐに逃げなければならない。俺は渇く喉を潤わせるために唾を飲み込んだ。
「冗談はよしてくれ。あいつと仲間なんて思われたくない。俺たちも被害者なんだ。」
被害者? 信用するわけではないが、相手も守るべき者を抱えてる以上、話くらいはできそうか。俺は少し警戒を解いた。
「仲間じゃないならなぜこんな場所に? 奴の行動範囲はわかっているだろう?危険だぞ。」
「動けない奴がいるから仕方がない。ここに来たのは生活用品を調達するためだよ。俺たちだって生きていかなきゃならないからな。」
動けない奴。怪我人でもいるのだろうか。
「そんなことより、君たちこそ何をしている。その制服を見るに、ここら辺の学生じゃないだろう? 危険とわかっていてなぜここにいるんだ?」
「探してる奴がいる。俺と同じ制服を着た男を知らないか? ここで見たことがないっていうなら早々に立ち去りたいところなんだが。」
少し考えた後に男が何かに気付き、目を見開いた。
「その制服! そうか君は彼の……。」
「知ってるのか!? 月見里浩一という名前だ。居場所を知っているなら教えてくれ!」
男は少し考えている。なんだ、何を考える必要があるんだ。知っているなら教えてくれたっていいだろうに。
「君は、彼とはどういう関係だ?」
妙な質問だ。同じ制服を着ているからわかるだろう。それとも同級生ってだけじゃ安心できないとでも? いや、それを言うなら木庭袋もこいつらと同じ学校だが、自らを被害者と呼んでいた。仮にこいつのところにいるのなら、警戒されている分浩一は大事にされていると信じたい。
「俺の親友だ。俺たちはあいつを探すために危険を冒してまでここへ来た。だから頼む。知っているなら教えてくれ。」
男は後ろの奴らとなにやら話し合っている。くそっ! 知ってるなら早く教えてくれよ。俺は苛立ち始めていた。
「颯汰落ち着いて。」
後ろから美紀に手を握られた。不安だった心が和らいでいくのを感じる。そう……だな。今はこの手掛かりを大事にいかなければ。
軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせる。あちらの話も終わったようだ。
「君たちは大丈夫そうだな。案内するよ。ついてきてくれ。」
それから俺たちは案内されるまま、この男たちについていった。道を堂々と歩くのは危険じゃないかとも思ったが、どうやら今通っている道に関しては木庭袋からの被害のないエリアらしく大丈夫とのことだ。そしてしばらく歩いた後、辿り付いたのは病院の前だった。
「ま、待ってくれ。こんなところに浩一が……?」
ここへきて思い出してしまう。いくら連絡しても繋がらないこと。渋谷で会う約束をしてしまったこと。そして、先ほどこいつが言った『動けない奴がいる』ということ。
「ああ……彼は今、意識不明の重体だ。」
ふいに誰かがぶつかってきた。いや、俺がもたれ掛かったのか。なんだ? こいつは今なんて言ったんだ?
「颯汰、しっかりして。」
美紀が俺を支えていた。浩一が意識不明?なんでそんな……。
「とりあえず案内するよ。他の奴らもこの中にいるから、下手に騒いだりしないでくれ。みんな怯えているんだ。」
返事すらできない俺の代わりに美紀が返事をし、俺たちは病院の中へと入っていった。医者どころか看護師さえいない。そんな中でも知識のある奴は薬品などを扱えるのだろう。病院を根城にするという発想がなかった俺たちとは、境遇が違うということだ。
少し歩いた後、ひとつの病室に辿り付いた俺は奥に人が寝ているのを見つけた。そのベッドの上には、医学的な知識のある奴がやったのであろう点滴が打たれている男がいた。顔の隠されていたカーテンを引く。そこにいたのはーー
「浩一……。」
間違いなく俺の親友だった。見間違うはずがない。けど、その姿は親友のそれだと思いたくないほどに、痛めつけられたような痕があった。
血に染まる包帯。
火傷。
裂傷。
打撲。
顔見知りではない玲や胡依までも目を背けてしまうほどの状態。
「何があったんだ……。浩一はなんで! なんでこんな姿になっているんだ!」
俺は男の胸倉を掴んで声を荒げていた。美紀と由美子に止められ、冷静になることで気がついたが、よほど力が篭っていたのだろう。男が咳込んでしまっている。
「お、落ち着いてくれ。これをやったのは俺たちじゃない。いや、結果的に俺たちのせいではあるんだが……。」
「どういうことだ……?」
俺は殺気の篭った目で男を睨み付けた。返答次第じゃただじゃすまさねえぞ。
「彼は、浩一君は、うちの生徒たちを守ってこうなってしまった。本当にすまないと思っている。」
怒りで何かがキレた。頭の中が焼け焦げるようだった。守ってこうなった。それは攻撃した奴が存在するということだ。
「誰だ。誰がやった。」
いや、もう答えはわかっている。だが答えが欲しかった。この怒りをぶつけられる相手のその名前を。明確な俺の敵の名前を。
男は表情を険しくし、拳を握り締めながらこう告げた。
「木庭袋悠人だ。」
俺はその場からテレポートで消えた。




