2-1:転機と黒猫
2章スタートです。遅くなり申し訳ありません。
ーー眠り病。
なぜ高校生だけを襲うのだろう。
なぜこの世界が存在するのだろう。
なぜ能力なんてものがあるのだろう。
この世界は未だ、わからないことだらけだーー
「「美紀。誕生日おめでとう。」」
「あ、え? 誕生日って、そういうことになるの?」
やはり美紀も混乱している。まあ誰を基準にするかで変わってしまうような暦では仕方ない。
「やっぱり本人を基準に考えた方がいいだろうと思ってな。」
「あ、ありがとう。それで昨日は由美子と……。そっか。」
「プレゼントはこれだ。お前に似合いそうなのを選んだつもりなんだけど、受け取ってくれ。」
「開けてみてもいい?」
俺が頷いたのを確認した後、丁寧に包装紙を外していく。この段階で既に大切にされている感が伝わり嬉しくなる。
「これは、月のネックレスね。嬉しいありがとう。」
「最初にお前が飛んできた時にさ、翼を広げたお前のすぐ後ろに月が見えたんだ。それ以来、月のイメージがあってな。」
「月が綺麗ですねとか言っちゃうわけー?」
「そりゃ月は綺麗だろ。だから選んだんだし。」
「月はって言っちゃうあたりが颯汰よねー。」
やれやれといった呆れ顔でそう言っているが美紀が喜んでるんだし構わないだろう。その後、一通りのお祝いをした後この世界についてあらためて話すことになった。どうしたら帰れるか。そんな話題も当然あったが、そんなことがわかっているならとっくに行動している。浩一も見つからない今、俺たちは何をしていいかもわからず途方に暮れていた。
「俺たちって何すりゃいいんだろうな。」
「そうね。いつまでもこうしていられないとは思うけど、具体的には何もね。」
「とりあえず安全の確保。これが最優先だと思う。あとはそうだな、俺がテレポートで情報を集めてくるくらいしか今は……。」
「単独行動は禁止よ。颯汰。」
「私たち3人でいたらどーにかなりそーだけどねー?危険っていうのがどんなのかわからないけどさー。」
二人は知らない。あの男の存在を。能力なんていう生易しいものじゃなかった。あれはもはや魔法だ。3人いたところでまったく勝てるイメージが浮かばない。怖がって何が悪いんだ。殺されかけたんだぞ。危険というものを目の当たりにした俺は、外に対して異常な警戒を示していた。
だが、そんな穏やかな時間をこの世界が許すことはなく、美紀が見つけてきたあるものが、いとも簡単に俺たちを動かすこととなった。
「よしよし。可愛いわね、この子。」
「美紀どうした? なんかあったのか?」
「庭に仔猫がいたのよ。お腹がすいてるのかな?」
「へー黒猫か。なんか魚あったかな。」
冷蔵庫に向かった俺は途中で気が付いた。仔猫……? 猫だと? 俺は慌てて美紀が抱えるものに目をやった。
「ニャー。」
「おい! そいつ。どうやってこっちにきたんだ!」
「私が庭から連れてきたのよ?」
「そうじゃない! 眠り病にかかった人間じゃないとこっちに来れないはずだろう!」
「そういえばそうね……。お前はどこから来たの?」
いや美紀さん。猫に直接聞いてもですね……。
「こっちに来たのは君たちニャ。ボクは最初からこっちにいるニャ。」
「……由美子。お前何言ってんだ。猫語なんて使っても可愛くないぞ?」
「えっ。私何も言ってないけどー?」
……。
俺たちの視線は無言のまま仔猫へと集まった。
「猫が喋るのはニャにかまずいのかニャ? ボク以外の猫っていうのを知らニャいからわからニャいけど。」
毛繕いをしながら語りかけてくる猫。なんなんだこいつ。怪しいなんてもんじゃないぞ。
「猫が喋るわけないだろ。にゃんこ先生だとでも言うつもりか。アホらしい。」
口調は軽いが俺は今、気が気でない状況だ。それはこいつのいる場所。今、こいつは美紀の膝の上にいる。何か起こすにしても猫の方が早い。冷や汗が止まらない。
だが、猫の注目はどうやら美紀にはなかったようだ。
「君が愛子颯汰ニャろ? 君を迎えにきたのニャ。ご主人に言われてニャー。」
「俺を? どういうことだ?なぜそのご主人とやらは俺を知ってる?」
「ご主人はこの世界の全ての人間を把握してるニャよ。その能力もニャ。」
「俺、いや。テレポートが必要ってことか?」
「んー。今はそういうことにしておくニャ。」
どういうことだ。個々が発現する能力を把握しているだと? この世界の神だとでも言うつもりか。
「君の周りは特殊ニャ能力者が多いニャ。厳密には君だけじゃニャいのだけど。まあそれはいいニャ。とにかく、他の能力者っていうのはそこまで強力ニャものじゃニャいのニャ。」
美紀の翼や由美子の拳銃のことか。他の奴らはそこまでじゃない? そんな馬鹿な。
「嘘を吐くな。俺は知ってるぞ。先日出会った男……あいつは俺なんかより遥かに強力な能力を持っていた。それこそ魔法のような。」
猫は少し驚いた顔をして続けた。
「ニャニャ!? もう出会っていたのかニャ。ニャるほど。」
「お前の言うとおり、俺が本当に特別だっていうならテレポートなんてものじゃなくもっと強力なものじゃないとおかしくないか?」
「ニャー。どこまで話していいものかニャー。」
猫は美紀の上から飛び降りて俺の傍までやってきた。
「力の違いニャのニャ。君が出会った男は個としての力。あくまで個人であって、周囲への影響力がニャい。君の場合は集としての力。君と深く関わる人間がいて、それぞれに特殊ニャ力が宿るニャ。」
影響力……か。それなら俺は他のやつらを危険に晒さずに済む個の力の方が欲しかったがな。
「そんニャ顔するもんじゃニャいニャ。巻き込みたくニャいっていう君の気持ちはわかるニャ。でもそういう君だからこそ、他の者は集まってくるのニャ。彼らの気持ちだって尊重するべきじゃニャいかニャ?」
「それはそうかもしれないが! あんな危険に巻き込みたくないんだよ!」
「君を大事に思う彼らだって、君一人を危険に晒したくニャいって思うんじゃニャいか?何が違うニャ?」
美紀も由美子も頷いている。俺は何も言い返せなくなっていた。でも、それでも俺は……。
「颯汰だけが危険に晒されるなんて納得ができないわ。それは絶対に嫌。颯汰がなんと言っても私は離れないわよ。」
「そうねー。私も同意見よん。」
そうか、俺は守る側にいたかったのに守られる側の人間なのか……。男らしくなんて言ってたのにこのザマかよ。くそっ!!
「彼女たちもこう言ってるのニャ。迷っているのニャら強くなればいいニャ。君が強くなれば周りも強くなるニャよ。君の持つ影響力というのはそういうものニャ。」
『強く』か。それは俺だって望んでいることだ。この世界で既に美紀は被害にあっているんだ。俺はどれだけ自分が無力だと痛感したことか。
「ああ、わかったよ。今はそれで納得してやる。で?ご主人が呼んでるって?俺はどうすればいいんだ?」
「今の君はいらニャいニャ。」
「は? いやだって、ご主人ってのが俺を呼んでるんだろ?」
「ご主人が求めているのは君であって君でニャいニャ。」
何を言ってるんだこいつは。まったく意味がわからない。猫は更に俺に近づきながら続けて言った。
「君が求められる君になるまで、ボクも一緒にいることになっているから、とりあえずこれからよろしくニャ。」
俺は一歩下がる。拳は強く握られたままだ。
「お前が俺の敵じゃないという証拠は?」
「ニャいニャ。」
「話にならないな。」
「この世界に君たちを呼んだのはご主人ニャ。そういう意味では敵視されても文句が言えニャいニャ。でもボクたちは君たちと敵対するつもりはニャい。むしろご主人は救いを求めているのニャ。」
「呼んだ……? あの眠り病はお前たちが起こしたっていうのか? ふざけるな! そこまでして俺たちを呼んでいったい何から救えっていうんだ。」
「救いを求めるっていうのは、脅威があるっていうことニャ。」
「だからその脅威って」
「「きゃあぁぁーー!!」」
突然、窓ガラスが割れて何かが飛び込んでくるのと二人の悲鳴が重なった。
「敵、ニャ。思ったより早かったニャー。」




