第4話 これが俺の家族
「お兄ちゃん、朝だよー」
妹の声が聞こえてきた。
彼女はこんなかんじで、毎朝、俺を起こしに来てくれる。
今日も学校があるから、そろそろ起きなきゃ、でも眠い……。
「うーん、あと百年眠らせて……」
「死ぬまで眠るつもり? 起きないと、お兄ちゃんの部屋、勝手にあさっちゃうよ?」
「好きにすれば……」
「ふーん、いいんだ……」
ガサゴソと音がしだす。
まじで部屋をあさっているようだ。
「ふーん、教師とナースが好きなんだ……」
バッと俺は飛び起きた。
「おい、俺が寝ている間に何をしている!?」
「お兄ちゃんがいつまでも寝ているのが悪いんだよ?」
妹の英美里がベッドの下に隠してあった俺のエロ本をいくつか手に取っていた。
「バカだね、お兄ちゃん、こんなわかりやすいところに隠すなんて」
ふふんと勝ち誇った顔になる妹。
そんな彼女を見て、俺はなんて愚かなんだろう、と思った。
元々、それらはあえてそこに入れていたものだ。
本当に見られたくないものから目を逸らすために、ベッドの下というありがちなところに隠していたにすぎない。
これなら何の心配もする必要はなさそうだなと思って、二度寝をしようと再び布団を被ると、妹が怪訝な顔になった。
「おかしい……エロ本が見つかったというのに、お兄ちゃんあまり焦っていない……まさか他にもっとやばいやつがある?」
ギクッ。
妙に鋭いじゃないか。
「あ、動揺した。ということはあるんだね……」
と言って、妹は再び俺の部屋を調べ始めた。
だ、大丈夫だ、あそこはさすがに見つからないはず……。
「あれ、本棚の裏にもう一つ本棚がある?」
バカな、あいつ、裏本棚に気づきやがった!?
「やめろ、そこは見るな!」
しかし、時すでに遅し。
妹は表本棚をどかし、裏本棚を見てしまった。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ、な、なにこれ、触手? 男の娘? ふたなり? 石化? 感度三千倍? お、お兄ちゃん、こんなのが好きだったの……?」
英美里がそこに入れられている本を見て、ドン引きした表情になる。
「お、お母さんに伝えなくちゃ!」
「ま、待て、妹よ、そ、それだけはやめてくれ!」
部屋を出ていこうとした英美里の腕をつかむと、彼女が絶叫した。
「いやああああああ、変態、触らないでぇぇぇっ!」
「バカ、大きな声を出すな!」
「なにぃいいいいいいいいいい! 変態だとおおおおお!」
野太い声が父と母の寝室の方から響いてきた。
どたどたどたっ! と大きな足音を響かせた後、全裸の男が股にある大きなものをブラブラ揺らしながら、部屋に入ってくる。
「きゃああああっ!」
妹が顔を両手で押さえて悲鳴を上げる中、全裸の男は叫ぶ。
「どこだ変態はぁっ!」
「あんただよ、服を着ろ!」
目の前にいる変態に言い放つ。
この男は時丸英蔵、俺の父だ。正直、こんなのが親だと認めたくないが……。
「おっとすまない、娘の悲鳴が聞こえたのでな、あわてて全裸のまま出てきてしまった、ははははは」
「いや、はははじゃなくてさ、何で全裸なんだよ、ちゃんと服着て寝ろよ」
「すまない、昨日は母さんと激しい夜を過ごしたからな、そのまま寝てしまったんだ」
「やめろよ、そういう生々しい話をするのは……」
「なにを言う! お前は父さんと母さんがそういうことをしたから生まれてきたんだぞ!?」
「そうだけど、親の口からそれを聞くのはきついんだよ、わかれよ!」
「きついとは何だきついとは! お前は俺の精子のおかげで生まれてきたんだぞ!? もっと感謝をしろよ!」
「そういう発言がきついんだよ!」
俺が頭を抱えていると、またどたどたどたっとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「なに、変態が現れたの!? どこどこ!?」
と言いながら下着姿で現れた女性は、時丸英美華、俺の母さんだ。彼女は手に包丁を持っていた。
「母さん、そんな姿でこっちに来るなよ! あと物騒な物を持ってくるな!」
「あら、ごめんなさい、娘の悲鳴を聞いたものだからあわててしまって……おほほほほ」
「英美華もか。俺たち、似た者同士の夫婦だなぁ、ははははは!」
なんて笑っている父を見て、母が絶叫する。
「きゃああああ、全裸の変態いいいいいい!」
母さんが叫びながら、父さんを包丁で切りつけようとする。
父さんは股の大きなものをブラブラと揺らしながら、それを間一髪避ける。
「うおっ、待て、待つんだ! 俺だよ、お前の愛しい夫だよ、よく見ろ!」
「あら、ごめんなさい、まだ少し寝ぼけてて、つい間違えてしまったわ!」
「ははははは、英美華は早とちりだなぁ」
「ほんとねぇ、おほほほほほ」
「なにこの夫婦」
笑い合う夫婦を見て、妹が呆れた表情をする。
「て、笑ってる場合じゃねぇ、変態はどこ行った、変態はぁっ!」
「変態なんていないよ、いや目の前にいるけどさ」
父に向かって俺がそう言うと、妹が俺を指差してきた。
「変態はこいつです」
「なにィィィ、英斗、まさかお前、妹に手を出そうとしたのか!? そ、そんな、父さんが昔プレイしたエロゲみたいなこと、ゆ、許さんぞぉっ!」
「ええ、あんたそんなゲームやってたのかよ……」
と言った俺の隣で妹もドン引きした表情になっていた。
母さんも怖い笑顔を父に向けている。
「あなた……?」
「い、いや、今のは冗談だよ、そんなゲームやってるわけないじゃないか、はは……」
冷や汗をだらだら流しながら言う父。
その横で、妹が再び俺を指差してきた。
「そんなことより、この変態をどうにかしてよ!」
「あ、そうだったわ! 英斗、あなたは愛する息子だけど、妹に手を出すのはさすがに許容できないわ! 私の教育がきっと悪かったからそんな子になってしまったのね……、しかたない、責任を取って、あなたを殺して私も死ぬわ! ふー、ふー!」
と母さんが息を荒くして包丁を俺に向けてくる。
ちょちょ、まじでやばいってそれはっ!
しかし、意外にも母さんの暴走を止めてくれたのは父だった。
「やめてくれ、英美華。お前が死んだら、俺は生きていけない」
父がそう言って、母を背後から抱きしめる。
「あ、あなた……うん、私もよ、もしあなたが死んだら、この世に生きる価値なんてない」
母がそう言った後、二人は向かい合うと、顔を近づけあった。
「英美華」
「あなた……」
ぶちゅううううううっっと見ているだけの側はかなりきついキスをしだす二人。
そんな両親に妹がとうとうぶちぎれた。
「もう、二人とも、いい加減にしてよ、早くお兄ちゃんをどうにかしてよ!」
「あ、そうだったそうだった、英斗、妹に手を出すなんてやばすぎるぞ!」
キスをやめてそう叫んでくる父に俺は言う。
「だから手なんて出してないって、腕をちょっと掴んだだけだ、英美里の服をよく見てみろ、べつに乱れたりとかしてないだろ?」
「あ、なーんだ、それだけか」
となぜかがっかりした様子の父。
母さんはほっと胸をなでおろして、穏やかな笑みを浮かべる。
「信じてたわ、英斗、私の息子がそんなことをするわけないものね!」
「いや、あんた今まで明らかに全然信じてなかっただろ……」
「あれ、でも、それじゃあどうして妹の腕を英斗はつかんだの?」
と首を傾げた母に、妹が言う。
「それはお兄ちゃんが、お母さんにあれを報告しに行こうとする私を止めようとしたからだよ」
俺の秘蔵のエロ本がたくさん入った裏本棚を、英美里が指差す。
あ、余計なことを言いやがって……と思ったのも束の間、母さんが凄まじいスピードで本棚の前へ行き、そこに入っている本をチェックし始めた。
「な、なによこれ……!? まさか、私の息子がこんなエグい性癖を持っていたなんて……これは家族会議を開かないといけないわね……!」
エロ本を震える手で持つ母。
このままだとまずいと思った俺はこの状況を打開するために、こう言った。
「と、ところでさ、みんな、時間は大丈夫なのか?」
「あっ!」と三人とも声を出した。
「まずい、遅刻するっ!」と叫びながら、皆急いで支度をしだす。
ふぅ……やれやれ、なんとか追及から逃れることができたぞ。
俺は顔を洗い、制服に着替えて、家を出ようとすると、母に呼び止められた。
「あ、ちょっと、英斗、なにか食べてきなさい」
「え、いいよ、べつに、時間ないし」
「だめよ、お腹空くでしょ、昼まできっと持たないわ、だから、はい、フランスパン」
「いや、なんでフランスパンなんだよ、せめて食パンとかにしろよ」
「フランスパンしかなかったのよ、いいから食べなさい、ほら!」
と母さんは俺の口にフランスパンを無理矢理ねじ込んできた。
しかたなく、俺はそのままそれを口に咥えて、家を出た。




