第2話 彼女はやめておいた方がいい
俺は一週間前のことを思いだしていた。
その日、俺は親友の芝池拓郎に、気になっていた女子――花山院さんのことについて訊いていた
「ああ、花山院陽佳か。僕のデータによると彼女はやめておいた方がいいよ」
データキャラを自称する彼の頭の中には数多くの生徒たちの情報がある。
なにか知りたいことや相談事があると、俺はいつも彼を頼っていた。
「なんで? かわいいし、勉強も運動もできるっぽいし、性格も良さそうじゃん」
「勉強はたしかに現代文と物理学以外はトップクラスの成績みたいだし、性格も基本的にはいいけど、でも彼女には大きな欠点が……」
「大きな欠点って?」
と訊くが、芝池は言いづらそうに口をもごもごとしている。
「場所移すか?」
教室だと言いづらいのかと思い、そう提案したとき、一人の女性が巨乳を揺らしながらこちらに来た。
「なになに、英斗、花山院さんのことが好きなの?」
声をかけてきたのは、俺の幼馴染の葉勢森麗奈。
声は穏やかだが、目は鋭く細められていて、どこか剣呑なかんじだ。
「いや、好きっていうか、まぁちょっと気になっている程度なんだが」
「へー、ああいうのがタイプなんだ、趣味悪くない?」
なんて葉勢森に言われて、少しむっとしてしまう。
「そうか? 彼女はきれいだし、性格もよさそうじゃん」
「いやーどうなんだろうねー。あの子はやめておいた方がいいよー、英斗にはもっとふさわしい女の子がいると思うなー」
「例えばどんな子だよ」
と訊くと、途端に彼女は慌てふためきだした。
「え? そ、それは、そうだねー、背が高くて―スタイルよくて―、胸が大きくて―、優しくて―、かわいくてー、運動も勉強もできて~、性格も優しい、そんな最高な子が英斗の近くに案外いるんじゃないかなー」
「え、そんな子が近くに、どこどこ」
きょろきょろとしていると、葉勢森がジト目になって溜息をついた。
なんだよ、その目は。
俺が文句を言おうとしたとき、ある男子生徒がこちらに来た。
「なんだ時丸、おまえも花山院さんを狙っているのか?」
にかっと白い歯を輝かせて笑うこの色黒のチャラ男は、たしか荒内という名前だったか?
まだ入学して一ヶ月も経ってないからあんまりちゃんと覚えてないんだよな。
「狙っているっていうか、ちょっと気になっているっていうか……」
と言うと、彼は肩に腕を回してきて、俺の耳に口を近づけてきたかと思うと、小声でこう言ってきた。
「彼女は俺が狙っているんだ、手を出すなよ」
肩をバンッと叩いてきて、荒内は去っていった。
そんなことをされたもんだから、ついその後ろ姿を睨んでしまう。
「なんだあいつは?」
芝池の方を見て言うが、彼は肩をすくめた。
「悪い、彼の情報は僕のデータにない」
「おい、お前、データキャラのはずだろ」
「この世には集める価値のないものがある、それは男子のデータだよ」
こいつ、情報を選り好みするタイプだったのか。
「ねぇ、英斗、ああいうやばそうなやつもいるしさ、やっぱり花山院さんはやめたほうがいいよ、べつにあの人以外にもいい子はたくさんいるじゃん」
なんて言いながら、葉勢森が毛先をくるくると指で巻いている。
「なんでだよ、俺の勝手だろ、誰を好きになろうが」
「それは、そうだけど、でも……もう知らない!」
葉勢森はふんっとそっぽを向き、足音をわざとらしく大きく立てて自分の席へ向かっていく。
何を急に怒ってるんだか……。
「僕はお前の好きにしたらいいと思うぞ」
なんて意味深な笑みを浮かべて、芝池も去っていく。
ちょうど、そのタイミングで始業のチャイムが鳴ったので、俺も自席の方へ向かった。
まったく、なんなんだよ、どいつもこいつも。
この時はそう思っていたけど、今振り返ると、あの二人の忠告をちゃんと聞いておけばよかったな……まぁもう後の祭りだが。




