報せ
せっかく早起きしたのに、王女は固い顔をしたままあっという間に去っていった。
冬の夜明け前とはいえ、朝が早いことには変わりない。
ウィスターはせっかく来たしと王宮の執務室に寄って、書類に埋もれていた。比喩ではなく、本当に埋もれるくらいの書類があるんだから国王陛下は全く人遣いが荒い。
イリヤが結婚する予定となり、フェルディナに向かう馬車やら持参金のすり合わせやら、細かいところの調整は本当に人任せである。あんの一家、全員で俺の執務を増やしてやがる。
もちろんそんなことを口に出すわけにはいかないし、元々王族の補佐たるアズライト家だ。思い返すと、父もいつもげっそりと書類に埋もれていた。これも補佐のうちに入るだろうか。
そんなことを鬱々と考えていたら、コンコンと執務室のドアがノックされた。
時間は昼前。来客の予定はなし。執務室付きの側近は今席を外している。誰か来る予定があったか、と思いを巡らせて、ウィスターはいつものように「入れ」と声を出した。
「ウィスター様、こんにちは」
顔を出したのはケイト・オパール伯爵令嬢だった。爽やかな淡い銀髪と、程よく焼けた肌が印象的な貴族令嬢だ。数ヶ月前の夜会で声をかけられ、親しくしている。
「ケイト嬢。急にどうしました?」
ウィスターはにっこりと外向きの笑顔を浮かべた。
今日はやる気も何もないが、突然現れた来客に冷たく当たるほどイライラしているわけじゃない。
「今日は王都に用があったので、寄ってみました!」
「そうですか。生憎俺はちょっと忙しくしていますが、まぁゆっくりしていくといい」
ケイトはほっと安心した顔をして、ゆっくりとした足取りでウィスターの背後へと歩いてきた。まじまじと、書類の山を見て眉をしかめる。
「難しそうなお仕事ですね…」
「まぁ、そうですね」
「イリヤ王女殿下、今日ご出発なされたんですよね。今回はオパール領は通過するだけでしょうか。前回お城に泊まっていただいた時はとっても楽しかったです。殿下はお元気でしたか?」
「元気すぎるくらいでしたよ。…申し訳ありませんが、あまり見ないようにしてもらえますか?機密情報も多くて」
書類を眺めながら立ち話をしようとするので、ウィスターも顔をしかめた。少なくとも、無関係の人間にジロジロと見られていいものではない。
「あ、そうですねごめんなさい!私何も見てないし、父に何か言う気もありませんから!」
ケイトはぶんぶんと手を振って、焦ったように応接のソファーまで下がった。機密情報なら机に出しっぱなしにするなという、今朝旅立った王女の至極真っ当な突っ込みが聞こえた気がする。
書類に目をやると、一番上のものは最近の外交相手からのお礼状や挨拶状だった。オパール伯爵に言われたところで特に害はないだろう。
オパール伯爵家は、フェルディナの境の領地を持っている。
海に面している広い領地なので比較的安定しているが、オパール伯爵は何を考えているか分からないところがある。オパール領にイリヤたちと立ち寄った時も、オパール伯はケイトを寄越したのみで顔も出さなかった。距離を縮める絶好のチャンスと捉えないのは、あまり貴族らしくない。
用心はしておくに越したことはない。すっかり集中力が途切れてしまって、ウィスターは息をついた。
元々やる気のない日だったのに、さらにやる気がでない。仕方なく椅子から立ち上がった。
「まぁお座りください」
ソファーを指し示すと、ケイトはおずおずと腰掛けた。ウィスターもその正面に座って、足を折りたたむように組む。
「王都に用というのは?」
「用というか、ただのお使いなんです。父の友人のお店が王都にあるんですが、そこに差し入れを」
「あぁ、成程。ケイト嬢はいつも差し入れを持って動き回っていますね」
「いえ!ウィスター様や父に比べたら、私は何もしていませんから。そのくらいしかできませんし」
「差し入れというのは助かります。この間のパンも美味しかったです。……じゃあ、今日は俺の分は無いのですか?残念です」
ちょっと意地悪い笑みを浮かべてやると、ケイトは真っ赤になった。ゴソゴソと音がして、持ってきていた大きな籠から小さな袋を取り出す。
「もう……ウィスター様はなんでもお見通しですね」
少し不服そうに言われて、ウィスターは苦笑した。
「ちょうどお腹がすいた頃にいい匂いをさせてやってきたのはケイト嬢ですよ」
「もう!言い方が意地悪なんですよ!ウィスター様はそういうところも素敵ですけど。はい、これは昨日焼いたクッキーです。お仕事の間につまめるように、小分けにしています」
差し出された袋は三つあった。それぞれにクッキーが入っているようだ。
ありがとう、と受け取ると、バターと小麦粉のいい香りがする。
「……紅茶でも淹れましょうか。今誰もいないもので、気が利かなくて申し訳ない」
「あっ、ウィスター様に淹れていただくわけには…!私淹れます!」
はいはい!というように手を挙げたケイトに、ウィスターは微笑んだ。
「貴女は客でしょう。……では、せっかくですし、王都のカフェにでも行ってお茶でも飲みますか?」
ケイトの顔がパッと明るくなる。『さっさとお茶でも飲んで帰ってくれ』なんて本心を言う訳にはいかない。
なんか気まずいんだよな。
ウィスターは心の中でそっと呟いて、ジャケットを羽織った。やっぱり今日は執務なんてやるべきじゃなかったのだ。
その日の夜。星が綺麗だった。
ケイトの相手と当たり障りのない会話をこなし、ウィスターはやっと執務室に戻った。
昼間見た時より量が増えている気がして、うんざりしながら何件か片付けていく。王宮はやたら静かだった。最近は王女の件ででバタバタとしていたからだろうか。
その日の夜中。今日は一段と寒かった。
ウィスターはやっと私邸に戻った。朝から動き倒していたので、さすがに疲れてベッドに横たわり、あっという間に眠りについてしまった。
いつもよりちょっと静かなだけの日常。
そして朝になった。
「閣下!!!!!!!!!」
日常の中であまり聞かない切羽詰まった声で叫ばれて、ウィスターは反射で飛び起きた。
夜が明けて、外はすっかり明るくい。何事だ、と枕元に置いてある剣を手に取った。バタバタと階下では使用人たちの走り回っている音がする。やがて執事がーーー、顔面蒼白の執事が、ウィスターの部屋の扉を勢いよく開けた。
「どうした」
「ウィスター様、た、大変です!!お、落ち着いて聞いてください…!!」
「うん、まずあなたが落ち着いて」
執事の手が震えていた。普段は冷静沈着なこの執事でもこんな取り乱すことあるんだな、と冷静に見ていると、執事がやっと口を開いた。
「王女殿下が、フェルディナに到着されていないそうです」
一瞬で背筋が凍りついた。
ウィスターは思わずらしくない声を張り上げる。
「到着していない!?どういうことだ、昨日の夕方には到着するはずだろう!」
「はい、予定では。しかしいつまで経っても馬車はフェルディナ王城には現れず、夜になって王太子殿下を含め捜索されたそうなのですが、行方が分からないと…」
「分からないってどういうことだ!」
「ですから、馬車が通った形跡も、見かけた者もいないと…。考えられるのは、国境の山ではないかと思われますが、王宮に早馬が知らせに来たそうです」
「……クソッ!!」
ウィスターはぐしゃぐしゃと頭を掻いて、ベッドから立ち上がった。
「国王陛下へ謁見を」
「はい、国王陛下もお話されたいそうです。今準備を」
「分かった」
ひったくるようにシャツをとり、着ながら部屋の外に出た。廊下では使用人たちがバタバタと走り回り、馬車の用意をしている。
「ご主人様、謁見の前に身だしなみを」
そう声をかけてきたメイドを片手をあげて制する。
「娘がいなくなったという話をするときに、部下の身だしなみを気にするようなお人ではない。このままでいい。着の身着のままで来たと思われる方が」
口は動かしながら、手早くシャツのボタンを閉め、ジャケットを羽織った。執事が手袋とコートを持ってくる。
「…馬車はいい!馬で駆ける!!!」
階段を降りる。
緊急事態の時は落ち着いた方がいい。これはウィスターの持論だった。今もどこか冷静に……なれるものか。
階段を降りる足は徐々に速くなった。急いで王宮に行ったところで、状況は変わらないだろう。
それでも急がずにはいられない。
私邸と王宮は近く、愛馬はあっという間に王宮に到着した。
昨日の朝、ここを出て行ったのに。ウィスターは馬から降りて、王宮の入り口の階段を見上げた。
ここに豪華な馬車が並んでいたのはつい昨日の話だ。それなのに、なんだか随分古い記憶のように感じる。
一目散に国王が待つ玉座の間へ向かうと、国王であるトリスタン・レイ・アレキサンドが玉座の間の前に立っていた。王としては若い部類になるが、厚みのある身体に髭を蓄えている。いつものマントは外していたが、その姿で普通に廊下に立っていても自然と叩頭してしまうほどの風格と貫禄の持ち主だ。
「…陛下!!」
「おお、ウィスターよく来てくれた」
王宮内を走ってきたので少し息が上がっていたが、ウィスターは流れるように跪いた。トリスタンの影に隠れて見えなかったが、奥には王妃アン・アレキサンドも茫然自失といった様子で崩れ落ちている。
「いい、面をあげよ」
「……は。それで、行方不明と」
「うむ。これが早馬の持ってきた書面だ」
トリスタンは妻のアンが持っている書面をそっととり、ウィスターに見せた。
《アレキサンド国王
緊急事態のため挨拶は省略させてもらいます。
イリヤ姫は本日朝ご出発予定とのことでしたが、現在夜中三時、まだ到着しておりません。
夕方より我が城の兵を動員し捜索しましたが、フェルディナで馬車を見たという者もおらず、フェルディナに着く前に何らかの事態があったと考えます。
朝になったら、ミグリ山の方まで捜索を広げようと思っていますが、ひとまずご報告まで》
署名もない、簡潔な文章だった。
文体からしてレオン本人が書いているものだろうと推察できる。ウィスターも何度かレオンとやり取りをしているが、いつも仰々しかったり大袈裟な表現の多い手紙だった。この簡潔さだけでも異常事態が伝わってくる。
「どう見る」
トリスタンが鋭い眼光でウィスターを見た。ウィスターは手紙に目を通して、折皺に沿って再度畳み、アンへまた渡した。まさかの報告に、自然と顔が歪む。
「夜中三時まで行方が分からないとなると、そこから先見つかる可能性は限りなく低いと考えます。恐らく…何者かに誘拐された可能性が高いかと」
「途中で迷っている可能性は?ミグリの山を最近通ったのはお前だ。様子はどうだった」
「…ミグリの山は深く、険しいです。仰る通り一歩間違えば、彷徨う可能性はありますが…馬車が通れる道は決まっており、ほぼ一本道でした。御者が迷うとは考えにくいです」
「ふむ。他に気付いたことは」
「…フェルディナはアレキサンドに比べて、混乱がある国です。王城で殿下のお泊りになった特等客室ですが、扉は他の部屋と同じ、質素なもので扉だけ浮いておりました。王城にも常に兵が見回っております。また、オパール伯領では国境の向こう側では賊が多いという声も聞きました。フェルディナに入ったあと、何者かに襲われた可能性は充分に……」
「ウィスター、彼との結婚を後押ししたのは君だろう」
ウィスターの言葉を遮って、トリスタンが静かな、それでいて鋭い指摘をした。
「そこまで情勢が乱れていて、現に失踪するなんて思ってもみなかったよ」
「…申し訳ございません」
「まぁこの話はあとだ。ちなみに私は、フェルディナ側から罠を仕掛けられた可能性も疑っている」
なるほど、この慎重さは陛下らしい。そう思ってウィスターは思考を巡らせた。
アレキサンドを堕としたいフェルディナが、王女が行方不明だと嘘をつく。慌ててアレキサンドの兵がミグリの山へ向かう。そして王宮が手薄になったところを一気にーーーという線だろう。
しかし、フェルディナで見たものはその計略とは程遠い。国王夫妻、レオン王太子ともに、穏やかで豪快だ。そんな裏からコソコソ手を回すようなやり方はしない。
「畏れ多くも申し上げます。フェルディナ国王一家はそのような計略をする者たちに見えません。またレオン王太子殿下も実直で、イリヤ殿下を心から大切に思っているのが分かりました。先日の外交でも、友好をアピールできた。それをわざわざ崩す理由が、フェルディナにはありません」
「罠ではないと」
「はい」
頷くと、トリスタンはウィスターを見てじっと考え込んだ。鋭い眼光は鮮やかな緑色。
「見えない、思った、すべてウィスター、お前の感想だ。それは本当に正しいのか?」
ウィスターは歯がみをした。そんなの、本当のところは分からない。これが他の国であれば、ウィスターもトリスタンと同じように考えたかもしれない。そしてこのゆっくりと、問いかける話し方はトリスタンの独特な話術だった。この口調で問われて、嘘や誤魔化しはきかない。
「…はい。すべて私の感想です。しかし、少なくともフェルディナ国王一家に対しては信じる価値があると、思われます」
ウィスターも負けじとトリスタンを見返した。長い沈黙。しかし実際には一瞬だっただろう。
トリスタンは小さく頷いた。
「……信じてるよ、ウィスター。娘を、取り返してきてくれ」
「はっ」
ウィスターは再度跪いた。その額に、トリスタンは右手をかざす。
「……アズライト公爵に、私の娘に、そして、捜索に関わるすべての者に、加護を」
トリスタンの声は低く響く。
「騎士団を率いてゆけ。無事の帰還を、待つ…!!!!」
「仰せのままに、陛下」
ウィスターは再度頭を下げた。心の中で愚痴を吐くことはあれど、トリスタンの威厳の前に何もいうことなど無い。嫌味なく、冷たく、それでも人を動かす強さ。
そうして、ウィスターとその日当番だったルイ、そしてその他騎士団員数十名は急遽招集され、王女捜索という王命で王宮を出発することになった。
*
初めて彼女を見たのは、彼女がようやく歩き出した頃だったか。
公爵である父について、勉強がてら王宮に行っていた俺は10歳を超えたばかりという年齢だった。当時の俺は少しひねくれていて、いずれ爵位を継がなければならない自分の運命に少し苛立っていた。
そんな時、中庭で一生懸命歩く彼女を見かけた。
この国の第一王女。イリヤという名前は本来男子につける予定の名前だが、男子が生まれなかったことに落ち込んだ国王を見かねて、王妃が名前をそのままつけたらしい。
侍女や乳母に囲まれて、少しずつ一歩を重ねているその様を見て、可哀想だなと思った。
男子が欲しかった父。
それに負けて、男子の名前をつけた母。
国民の期待は、イリヤを飛び越えて、今まさに王妃が身ごもっている第二子に向かっている。
王家に生まれたことで、周囲は勝手に責任を押し付けてくるだろう。まだこんなに幼いのに、いつかは他国に売られてしまう。可哀想だ。
そんな俺の目とは裏腹に、彼女はきゃっきゃと笑いながら、楽しそうに歩いていた。花と木と噴水と、その他は何もない中庭が広大な世界に見えるのだろう。
「あぁ…イリヤ姫だな。彼女ももう少し大きくなれば、あっという間に淑女教育が始まるだろうな」
俺の視線に気づいた父がやってきて、俺と同じ感想を述べた。
「あんな小さいのに期待と失望を押し付けられて、可哀想だよ。ウィスター、お前もちゃんと面倒をみてやりなさい」
「……なぜですか」
「彼女は第一王女だ。その尾ひれはいつまでもついて回る。公爵家として、仲良くしていて困ることはない。お前の将来の仕事もやりやすいだろう」
「……ふーん」
なんだ、結局父も、第一王女という色眼鏡でしか見ていないじゃないか。自分も『可哀想』という色眼鏡で見ていた矛盾に気づいたのは、それからずっと後。
跡取りになるか否か。自分が父に可愛がられているのも、たまたま男で、たまたま一番に生まれたからだ。そんな当然の事実に、俺はさらにひねくれた。
次に見かけたのは、彼女が五歳くらいだっただろうか。彼女は小さいドレスをすっかり着こなして王女らしくなっていた。
その頃には妹も生まれていたけれど、相変わらず彼女は一人ぼっちだった。はちみつ色の長い髪がゆらゆらと風に吹かれていて、青空によく映えていた。
王女は淑女教育を涙ぐましい努力で乗り越えている最中であり、しかし周囲の見る目はすっかり変わっていた。
努力家で、明るくて、素直な王女。可愛らしい見た目も相まって、彼女はあっという間に王宮内の人気者になった。つくづく周囲というのは勝手だ。
彼女の父である国王陛下も、今や愛らしい娘二人にデレデレになっていると聞く。
それは生まれた時から与えられたものではなく、紛れもなく彼女が生まれてから自分で勝ち取ったものだ。そんな幼くて凛々しい彼女に、声をかけた。
「姫様。よければ一緒に遊びましょう」
近寄ってそう声をかけると、彼女の顔がぱっと明るくなる。
父に仲良くしてあげろと言われてもそんな気にはならなかったけれど、それはするっと出た自分の本心だった。
「うん、あそぶ!おにいさまはなにしてあそびますか?」
彼女は花のように笑って、喜んでくれた。しかし言われた言葉に俺は詰まる。
五歳の少女が好む遊びなど知るはずもなく、何か計画性があったわけでもない。
「そうですね、あちらで花札でもいたしますか」
苦肉の策で絞り出した、当時王都で流行した賭け事でも使われるカードゲーム。花という名前がついているからちょうどいいかと思ったが、王女に教えるにしては少々アングラな遊びであったと、今は反省している。
彼女はあっという間に俺に懐いた。
一生懸命後をついてきて、俺の真似をしてみたり俺を怒ってみたり。あまりにもまっすぐなその反応が面白くて、ついつい苛めてしまうのは許してほしかった。
やがて俺は大人になり、社交界デビューをした。
貴族令嬢たちはこぞって俺の相手をしてくれたが、それは公爵跡取りという肩書と、ちょっとばかり見目がよかったというだけの理由だろう。
適当に遊んで終わりを繰り返していたら、彼女はその度に真剣に怒るわ落ち込むわで大変な思いをした。その頃には、彼女の俺を見る目が特別になっていることに気付いたけれど、俺の中で彼女は、家族のような妹のような存在で、それ以下ではあり得なかった。
どんどんと美しく成長する彼女は、次第に大人びた表情をするようになった。柔らかく微笑むのにちっとも面白くなさそうなそのツンとした顔も、揶揄うとコロコロと変わり、素直な心の内側が見えるような気がした。
そして、必死に言い負かしてやろうと噛みついてくるところが可愛らしかった。
国外になんて行きたくないと泣いている彼女はいじらしかった。
フェルディナに行って、内面的にも成長した彼女を側で見れて誇らしかった。
レオン王太子に気に入られ、好意を向けられるのにあたふたしている様を見て楽しかった。
嫁ぐことが決まった時も、驚きはしたが素直に祝福できた。レオン王太子は、彼女と同じように明るく真っ直ぐで、立派な王太子だと思っている。そして、そんな立派な男性に想われる彼女を自慢したいとも思った。
だからーーーー
俺のことなんてすっかり忘れて、去っていく彼女が許せなかった。
可愛らしく一生懸命な彼女は、俺を忘れることにも一生懸命だった。
恋愛なんてくだらない。そもそも会ったときはまだ子供だったんだ。
けど、どんな恋人がいようと、妹のような彼女に何かあれば常に彼女を優先してきた。恋愛なんて所詮その程度のものでしかない。
なのに、彼女は俺を優先しなかった。
別れ際の言葉は呪いだった。気持ちよくフェルディナに行かせるつもりだったが、その強張った表情につい呪いをかけた。なぜ俺のことを忘れようとする。なぜ直接言ってくれなかった。
せいぜい、彼女も俺のことで頭でいっぱいになればいい。
どうせ、向こうに着いたらレオン王太子に肩を抱かれ、愛を囁かれ、髪を撫でられ、いずれ忘れてしまうんだろうから。
そして、俺が呪いをかけたバチが当たったんだ。
すまない、姫様。
俺のせいだ。
懺悔は届かない。
騎士団の馬の蹄の音が脳裏にこびりついた。




