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悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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54:動き出した歯車(ライル視点)

「────待ちなさい、そこの踊り子!」


 あれから数日。何度目かのショーを終えて舞台から去ろうとしたその時、特等席の客が焦ったように声をあげた。その席は《《特別な客》》たちが座る場所で、そこにいるだけでかなりの重要人物だとわかる。


 静かに視線を向ければ、そこには目を見開いて驚いた表情でアタシを指差す人物が身を乗り出して立ち上がっていた。


 ……そう、アタシがずっと探していた人物がそこにいたのだ。


 たくさんの宝石が散りばめられた飾りに彩られたワインレッドの長い髪。不安そうに揺らめく紫色の瞳と褐色の肌。それだけであのユイバール王国の王家の血筋の人間だとわかる。あの王国は髪や瞳の色の濃さを守るために血縁者内で婚姻を繰り返しているのだと旦那様が言っていたがその人物はユイバール王国のルネス国王に顔立ちも雰囲気もよく似ていた。


 そう、つまりこの女性は────ルネス国王の正妃であり、実の妹なのである。


 他国では禁忌とされる兄妹での婚姻を結び、さらに血を濃くしようとしたユイバール王家はもうすでに狂っているのかもしれない。だが、現ネイバール国の王族の中で唯一“まとも”だと言われている彼女の判断に賭けることにしたのだ。旦那様は「勝率は7-3だな」と言っていたが、どっちが7でどっちが3なのかはあえて聞かなかった。だが「確率が0ではない」のは彼女しかいないのも事実だったのだから。


「……その顔つき……。瞳の色も……まさか……」


「────っ」


 たぶん、アタシが本当に女性だったならばこの人のような感じだったのではないだろうか。そう思うくらいに似ていると感じた。確実に血縁関係を感じさせる彼女は、アタシの姿に動揺したのかぶるりと体を震えさせていた。



 ライルを呼び止め、目が合った瞬間に彼女もわかってしまったようだった。それが女の勘か、血の繋がりが感じさせたのかはわからない。だが、愛する夫であり王家の規律を守るために存在しているはずの実の兄が、最も愚かで許されざる罪をおかしていた事実を直感で感じ取ってしまったようだった。





 ***





 青ざめた顔でその女性はアタシを別室へと呼び出した。お忍びで来ていただろうに、あんな場所で叫んだせいで周りにその存在がバレてしまったようだ。ちょっとした騒ぎになり今日の残りショーはもう中止となってしまった。まぁ、アタシからしたらこの人に会う為だけにここにいたのだからもうどうでもいいことだけれど。


 そしてアタシは、今後の運命を決めるその場へと足を向けたのだった。





「どうぞお座りなさい……人払いはしてある。だから、そなたの名前を聞かせて欲しい……」


「ライルと申します。ネイバール国の王妃様」


 勧められた椅子に腰掛け、首を傾げながらにっこりと微笑む。本当なら王族に対して不敬な態度ではあるが、相手は眉をひそめるだけで何も言わなかった。


 血筋だけで言えばアタシの叔母にあたる人物だろうが、すぐにアタシの事を「甥っ子」として歓迎してくれるムードにはならないだろう。だってアタシは……彼女の夫の不貞の末に出来た子供なのだから。




「えぇっと……ライル。その、そなたの親は……いえ、父親は……」


「誰が父親かなんて……そんなの、あなたがよく知っている方ですわ」


 言葉を濁す彼女にアタシが笑顔のままそう言うと、ヒュッと息を飲む音が響いた。初めて会った叔母の顔は真っ青で今にも倒れそうに見える。それでも気丈に振る舞う彼女はやはり“王族”なのだと思った。


「そ、そなたの髪の色ですが……」


「これは……今は染めています。《《あの色》》はとても目立つので。ねぇ、王妃殿下。……真実を知りたくはありませんか?」


 それは、ネイバール国の王族にとって最も罪深い真実のはずだ。例えそれが国王であろうとも。


 アタシの言葉を跳ね除けることも出来たはずなのに、腹を決めたのかネイバール王妃は“王族”の顔つきとなりアタシを真っ直ぐに見据えてきたのだ。


「……全てを教えてください、ライル。


 わらわはネイバール国王の妻である前に王族の一人として、同じ王族が犯した罪を知らねばなりません。 ……わらわの名前はスリーラン。たぶん……いいえ、そなたの叔母です」


「……わかりました」


 アタシはドクターから聞いた話をかいつまんで要点だけを話すことにした。昔話を始めたら長くなるし、とにかく早く話を進めたい。だがあの指輪を見せればだいたいは納得してくるはずだと確信していた。


 これは大きな賭けでもあった。


 なにせ、目の前にいる叔母からしてもアタシは存在していてはいけない禁忌の子供のはずだ。今、外に待機している護衛を呼んでアタシを殺して闇に葬れば全てを無かった事に出来る。彼女にはその力があるのだから。


  でも、アタシはそうならない方に賭けた。もしもこのスリーラン王妃が女でなく男に産まれていれば、確実にネイバール国を変える要人になっていただろうとも囁かれていたそうだ。なにせ、血が狂っている一族の中で《《唯一まともな人間》》なのだ。


「……我がネイバール国の王族は血が狂っていると言われているのを知っていますか?」


「はい」


「髪も瞳も血も、濃ければ濃いほど良いと信じ貫いてきた。その為に奇形なる者や精神のおかしな者が産まれてもさらに濃くもっと濃くと……。

 わらわは珍しく“まとも”だと嫌味も込めてですが言われてきました。ですが、実の兄を愛し婚姻を結んだ時点でわらわもじゅうぶんに狂っていると思っております。 ……ですが、兄はこれまでの歴史の中で最も狂っている。自ら掟を破り、自己保身の為に我が子を脅して真実を隠そうとするなんて……!」


 そしてスリーラン王妃は慈愛の瞳を向け、アタシの手をそっと握った。


「見た目は兄にそっくりでも、中身は全然似ていませんね。そなたは……心の美しい女性に育っております。まさか姪に会えるなんて……」


「あ、実はアタシ、男なんです。だから姪じゃなくて甥です。ほら」


  そういえばその辺の事を説明するのを忘れてたわ。と、着たままだった分厚い踊り子の衣装の上半身をはだけさせて平らな胸を見せた。


 あ、これってセクハラになるのかしら?でもさすがに下を見せるわけにはいかないし、叔母さんだからいいわよね。


 するとスリーラン王妃は顔色を赤くしたり青くしたりしながら立ち上がって叫んだのである。


「……っ!お、男……?!つまり、お、王太子……っ、それを先に言いなさい!!」


 どうやらこれからアタシは、叔母にお説教されるようだった。








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