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守銭奴王女、限界国家指定される

また、暫くお休みになります。

書き溜めたら投稿しますので、よろしくお願いします。

誤字報告、ご感想ありがとうございました

 今まで自分たちの命を繋ぐ食べ物という認識だったダンジョンの魚たちが、突如聖属性の神の使いに変わってしまった。もう、一方的に狩っていい存在では無くなってしまったのだ。

 この事実に迷宮に隔絶された若者たちはパニック寸前である。


『大丈夫ヨー。全部が進化したわけじゃないヨー』


 ハニワたちが言うには、神域であっても進化しない生き物もいるらしい。例えば貝やウミウシ、イカやタコなどの軟体動物は聖属性にはなりにくく、進化するとしても巨大化して魔物に変わることが多いようだ。


「みんな、今から潮干狩りよ!砂浜を掘り返して、貝を獲って獲って獲りまくるのよー!」


 目の色を変えたアリーの号令で、若者たちは食料確保に勤しむことになった。


『潮干狩り、手伝うヨー』


 真っ先に海に戻っていった帝国の若者たちの後をハニワと魚たちが追い駆けていく。アリーは波打ち際に座り込んで砂を掘り返している集団から、神殿のある丘のほうに目を転じた。


「こっちは彼らに任せて、私たちは食べられそうな植物を探しに行こう、ジェイダ」


 返事がない。


「ジェイダ?」


 視線を戻して帝国の少女の姿を探すが、アリーの近くでは黒髪の冒険者が二体のハニワと一緒に浜辺を指差していた。

「「ジェイダなら、滅茶苦茶楽しそうに貝を探しているぞ」


魚に囲まれてジェイダは嬉々として砂を掘っている。アリーに言われた通り、心行くまで海を満喫しているようだった。


「じゃあ…ヴォルフでもいいか」


「でもってなんだよ」


 アリーの反応にさすがに冒険者が不満げに言い返す。


『ヴォルフ様、ぼっちの乙女心分かってないヨー』


 傍に残っていた赤い花のハニワが両手を挙げて溜息を吐いて見せる。


『アリー様、初めての女の子のお友達とキャッキャウフフしたいだけヨー』


 まるで肩を竦めるような仕草にアリーは眉を寄せた。


「人聞きの悪いこと言わないで、私にだって女友達くらい…」


『アリー様、従姉妹は友達違うヨー』


 痛いところを突かれてアリーはぐぬぬと唸る。


「すまん、なんか悪かった」


 真顔で謝る冒険者に彼女は拳を握り締めた。


「仕方が無いでしょ。うちの国の人口は五百人弱よ。しかも、働けるようになればみんな出稼ぎに行って、残っているのはお年寄りとダンジョン管理を任されている子育て中の世代だけなのよ!」


「それはもはや村と言わないか?」


 ヴォルフは衝撃を受けて目を見開く。ランゼリア聖国の衰退具合は噂では聞いていたが、まさかここまでとは思っていなかったのである。国としてはすでに限界なのではないだろうか。そう考えながら思わず呟いてしまう。


「…限界国家」


「し・つ・れ・い・な!」


 迂闊なヴォルフの言葉にアリーが切れる。


「悪い!いや、マジですまん!」


 両手で魔弓を構える少女に、冒険者は深々と頭を下げて謝罪した。


『落ち着け、アリー様。早く食べ物採りに行くヨー』


 鼻息を荒くするアリーを宥めながら、ハニワが背中を押す。


「むきー!限界の何が悪い!」


『ハイハイ、行くヨー』


 赤い花のハニワに引き摺られて去っていくアリーを見送り、ヴォルフはしみじみと呟く。


「あの守銭奴ぶりも貧しい限界国家で育った所以か。しかし、友人の一人もいないとは…」


『ヴォルフ様』


 クイクイと袖を引かれて見下ろすと、紺色の花のハニワが真っ黒な目で彼を見上げていた。


「なんだ?」


『従兄弟は友達じゃないヨー』


 同情するような声色にヴォルフは「ああ?何を…」と言い掛けて口を噤む。


『ボッチはヴォルフ様も一緒ヨー』


 それだけ言い残してアリーたちを追いかける丸い背中に目を向けて、冒険者は思わず冷や汗を拭った。


「何を、何処まで知っているんだ?あのハニワは…」


 彼の呟きは波の音に搔き消された。




 冒険者が少し遅れて神殿近くまで行くと、アリーの機嫌はもう直っていた。むしろ、上機嫌で手招きしている。


「遅いよ、こっちも凄いことになってるよ」


 元廃神殿と生活拠点の間にあった林は、咲き乱れる花々の間に大きく熟した果実がたわわに実り、まるで果樹園のようになっていた。美しい黄色の果実は遠くからも甘い香りを嗅ぐことができる。しかし、それ以上に果実から溢れるような神気にヴォルフは圧倒された。


「まさかと思うが、これ聖黄果(せいおうか)なのか?」


 一般的にはエリクシャという名称で知られており、神域や神気の濃い場所にしか自生しないと言われている伝説の果実である。


「うん、そうだよ。うちの大神殿の庭にも生えているけど、こんな群生しているのは初めて見たわ。ついてるね」


 冒険者は限界国家の異質さに驚く。


「お前…この聖黄果がギルドでいくらで取引されていると思っているんだ」


「庭に生えているくらいだから、高くても銀貨三枚くらいでしょ。近所のおば様たちが冬前に果実酒にして配ってくれるのよ」


 それをぎりぎりまでお湯で薄めて飲むのが毎冬の楽しみだったが、アリーとしては銀貨三枚でも儲けものだった。見渡した限り百以上は生っていそうだ。一つ銀貨三枚として、大銀貨三十枚の大金を手に入れられる。


「お前の限界国家はどうなっているんだ。神域にしか自生しない、伝説の果実だぞ。万能薬エリクシルの原料だし、種は魔力回復薬の材料になる。ギルドが設定した金額は一つ白銀貨一枚だ」


「へっ?」


 聞いたことはあっても、見たことのない金額を耳にしてアリーは固まる。


「白銀貨…ってなんだったっけ?えっと大金貨十枚分、金貨百枚分、大銀貨なら…」


 指を折ってぶつぶつ言うアリーに赤い花のハニワが軽く胴体を当てて正気に戻らせる。


『さすが金勘定早いヨー。聖黄果は神様の食べ物なのヨー』


「じゃあ…私たち、大金貨十枚の果実をおやつ代わりに食べて、ワインの代わりに薄めて飲んで、余った種は家畜の餌にしていたの?」


 通りで近所のお年寄りが元気過ぎて、家畜はあり得ないくらい長生きしているはずだ。


「のーぉおおお!」


 頭を抱えて叫ぶ守銭奴を放置して、ヴォルフは赤い花と紺色の花のハニワに言った。


「これは収穫していいのか?」


『大丈夫ヨー。採っても、採っても、すぐに元通りヨー』


『ヴォルフ様、収穫手伝うヨー。他にも薬草や野草がいっぱいあるヨー』


 紺色のハニワが彼の背嚢を抱えて飛び上がった。


「お、おう。用意がいいな」


 拠点に置いてあったはずのマジックバッグを受け取り、ヴォルフは一人呟く。


「こんなもの、滅多なことじゃ表に出せないぞ。アリーのヤツ、分かっているのか」


 ランゼリア聖国に自生するなどと知られたら、果実一つのために戦争になりかねない。村単位の国民しかいない限界国家など、あっという間に蹂躙されるだろう。


「アリー、聖黄果のことは秘密にするぞ。もちろん、売ることもできないぞ」


「え?え?一攫千金の大チャンスよ。なんで?」


 ようやく我に返ったアリーはヴォルフの真剣な眼差しに身構える。


「これは国レベルでの争いを呼ぶ。ましてやお前の国のことを知られれば滅ぶぞ」


 淡々と言われた言葉にアリーは息を呑んだ。すぐに冒険者の言いたいことは伝わった。


「ジェイダたちにも秘密?」


「あいつらも帝国貴族だ。ひと月足らずの友情よりも、大事なものがあるはずだ」


 冷ややかとも取れるヴォルフのセリフが、浮かれていたアリーの中に染み込んでくる。


「ヴォルフは…どうしたらいいと思う?」


「しばらく鞄の奥に封印するしかないな。もし、戻れたらギルド長に相談する」


「信用できるの?」


 帝国のギルドに不信感を持ち、アリーは眉を寄せる。


「今のギルド長は大丈夫だ。俺の親父の友人で、信頼できるおっさんだ」


 そういえばとアリーは考え込む。


(キリエ叔母さんの旦那さんも冒険者を引退して、どこかのギルド長になったとか聞いたけど…そんな偶然ないよね)


 そんな偶然はあるのだが、今のアリーが知る由もない。


「携帯天幕に呪われて髪が無くなった人だよね?」


 半生の死体に棲みつかれた天幕を思い出して、アリーは少しだけ不安になる。


「あ~、あまり触れてやるなよ。不幸な事故だったんだ」


「それでヴォルフのことは信用していいの?」


 伝説級の果実が自生していることを、何の危機感もなく漏らしてしまったのだ。アリーは黒褐色の瞳を冒険者に向けた。


「寂れた限界国家に止めを刺すのは心苦しいからな」


「寂れた言うな」


 即座に嚙みついてくるそばかすの少女にヴォルフは思わず笑った。


「口止めに今度また、三の森ダンジョンの旅館で酒を飲ませろ」


 アリーは安堵しながらも、渋面を作る。


「ちっ、高くついたわね」


 実のところ、聖王国は神代級の聖遺物で防御されているのだが、それこそ口に出せるものではない。ただ、アリーはヴォルフの気遣いが嬉しかった。


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[一言] 更新ありがとうございました また気長にお待ちしてますね
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