9.決意と難関
ホワイトバレンタインの地域が多いのでしょうか?寒いですね。
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そろそろ物語が動き始めます。更新速度もあげていこうと思っているので、よろしくお願い致します!
「そんな・・・」
がく然とする姉を見つめながら、シルヴァーナはようやく冷静に自分の置かれた立場を考えられるようになっていた。
聖女うんぬんはともかくとして、大神殿に行くという話はシルヴァーナにとってとても魅力的なものだ。
この村の人達が嫌いなわけじゃない。レーティアンヌとシルヴァーナを平等に扱ってくれる、良い人達だ。でも、どうしても自分自身が姉と自分を比べてしまう。姉が何かをする度に自分とはまるで違うと諦める。そんな生活がこの先ずっと続くのだと思うと未来に希望なんてなかった。
しかし、ここで頷けば、姉から離れられる。シルヴァーナの頭の中にはもはや“今すぐ逃げたい”という考えしかうかばなかった。
「聖女様」
「・・・はいっ」
ティーノルッツヘルトのまっすぐな視線に、そんな内心を見透かされたように思えてシルヴァーナは身体を強張らせる。
「どうか、私と共にフォルスト大神殿へいらしてください。このままでは、聖女様の法力が尽きてお命も危なくなります」
真剣な表情で言われた言葉に、シルヴァーナはドキリとした。
命が危ないと言われてどうでもいいと言えるほど達観はしていない。誰だって死にたくはない。ただ、それ以上にこの村から離れたいばかりに、シルヴァーナはこくりと頷いた。
「――はい、わかり、ました」
「ああ、ありがとうございます!あなたのことは必ずお守り致します」
そう言ってティーノルッツヘルトは跪き、床に右手を拳にしてつけて左手を胸に当てて深く頭を垂れる。それはまるで騎士が主人に誓いをたてるような仕草だった。
「っ・・・」
顔が熱い。絶対に真っ赤になっている自信がある。男性にこんな風に跪かれるなんて初めてのことだ。
「シルヴィ・・・」
レーティアンヌが縋るような視線を向けてくる。だが、シルヴァーナの決意は変わらない。
「これで良いんだよ、お姉ちゃん」
――― じゃないと、私はきっと、お姉ちゃんを恨んじゃう。
瘴気の獣に内心を見透かされた時のあれが自分の本心だったとシルヴァーナはわかっていた。このままでは、いつかあんな醜い心をさらけ出して、言葉で姉にぶつける日が必ず来る。
そうなるくらいなら、自分が聖女だなんて未だに信じられないが、彼等について大神殿に行ってしまった方がずっと良い。もしかしたら、この気持ちも大神殿に行ったら浄化されるかもしれない。
シルヴァーナはレーティアンヌのすがるような視線から目を逸らし、足元に傅くティーノルッツヘルトに声をかけた。
「あの・・・顔をあげて、立ってください・・・」
「――ですが」
「秘書官殿、シルヴィさんが恐縮してしまっていますよ。こういう仰々しいのは、今は無しにしましょう」
ジョナタがシルヴァーナの気持ちを代弁すると、ティーノルッツヘルトはハッとして立ちあがる。
「ご迷惑でしたか?・・・申し訳ありません」
「・・・あ、いえ・・・」
迷惑とまでは思っていなかったものの、皆の前で男性に跪かれるという状況はとても恥ずかしかった。だから必然とシルヴァーナの返答は曖昧なものになる。
「ですが・・・私が心から膝を折りたいと思ったのは、貴方で2人目なんです」
「2人、目?」
「はい。1人目は今の上司である、セヴェリオ枢機卿猊下です」
「す・・・枢機卿・・・」
とんでもない人物と並列して語られてしまい、シルヴァーナはちょっと早まったかもしれないと後悔し始める。
「ほらほら、秘書官殿・・・シルヴァーナさんがどん引いてますよ」
苦笑いのジョナタに指摘され、ティーノルッツヘルトはワタワタと慌てだす。
「あ、その。す、すみません・・・あまりにも心地の良い法力に酔ってしまっていまして」
「え、法力で酔うんですか・・・?」
驚いてシルヴァーナが問うと、ティーノルッツヘルトは困ったように笑う。
「いや、私だけだと思うんですが・・・自分好みの法力を感じると、こう、気持ちがうわついてしまうんです。それがまるで酔っ払いの症状だと上司に指摘されて、きっと法力に酔っているんだろうって」
確かに素面でこの行動は恥ずかしいばかりだが、酒に酔った状態と似ているのなら、仕方がないというもの。
村の祭りで男の人達が酒に酔う姿を見慣れているシルヴァーナにはその例えが非常にわかりやすかった。だからすんなりと納得する。
「じゃあ、仕方ありませんね」
「・・・お優しいのですね」
「いえ、私は別に・・・優しくなんか、ないです」
ティーノルッツヘルトが踏みこもうとすると一歩引くシルヴァーナの心。
――― 手強い。
手のかかる上司で懲りているはずなのに、それでもやはり傍で支えたいと思う。
シルヴァーナは自分を低く評価する癖がある。それがわかっただけでも充分だ。ティーノルッツヘルトはとにかく彼女をこの村から連れ出せさえすれば良いと開き直った。
「聖女様・・・」
「あのっ・・・神官様・・・」
さっさと連れ帰ろうとティーノルッツヘルトが声をかけた瞬間、姉のレーティアンヌがその言葉を遮った。
「・・・なんでしょう?」
わずかにティーノルッツヘルトが不機嫌になったのに気付いたのか、レーティアンヌは表情を強張らせながら訊ねる。
「いつ・・・いつ、出発するんですか?その、準備もありますし、両親にもちゃんと説明しないと・・・」
「出来る限り早い方が良いでしょう。ここで時間をとればとるほど、聖女様の法力は垂れ流されるばかりですから」
「・・・でも、そんな、急に・・・」
レーティアンヌの憂い顔は確かに芸術作品のように完成されていて美しい。老若男女問わずに見惚れてしまうのも頷ける。
だが、ティーノルッツヘルトの判断基準は法力の量と質だ。聖女の姉であるから少しは法力を持っているのかと思いきや、レーティアンヌの法力はほぼゼロに近かった。
確かに法力は血筋で決まるわけではないが、育った環境が同じならば同等とまではいかなくても多少の影響はあるはずなのだが・・・もしかしたら試練のために与えられた美貌や知識の対価として法力は取り上げられたのかもしれないと思い至る。
それはともかく、レーティアンヌはシルヴァーナを大神殿に連れて行くための最大の難関らしい。ティーノルッツヘルトはジョナタに視線を送る。
「ジョナタさん、こちらの姉妹のお宅へ案内してください。私が直接ご両親に許可を頂きに伺います」
「わかりました」
すぐに了承したジョナタもまたシルヴァーナを早くこの村から出したいと思っている側だと思い出す。心強い味方だ。
あとは両親さえ納得させてしまえば、本人は行く気でいるようだし、いくらレーティアンヌが反対しても押し通せる。
ティーノルッツヘルトはそう確信して、ジョナタの案内で姉妹の家へと向かった。




