8.眷属
間が空きました・・・。
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シルヴァーナは困惑していた。大神殿から来た神官がシルヴァーナを聖女だというのだ。だが、何かの間違いだと思う。
だって、聖女は姉であるはずなのだ。あんなにも心が綺麗で、誰かを疑うことを知らず、何でもできる美しい女性。これぞまさに聖女ではないか。
否定の言葉を口にしても、自分を見上げる神官のエメラルドの瞳はシルヴァーナから外されることはない。隣にレーティアンヌがいるにも関わらず、だ。
「共に大神殿へ参りましょう、聖女様」
「わ、私が聖女だなんて、あ、有り得ませんっ!」
「いいえ、あなたが聖女様です」
もう1度否定してみるが、神官はにこやかに笑みをうかべたまま、ふるふると首を横に振った。その際にさらさらとアッシュの髪が揺れる。
「そ、そんな・・・っ」
「きゅーん・・・」
大混乱中のシルヴァーナの足元で、元は瘴気の獣であった子犬が小さく鳴いた。
「あ、あぁ、ルーノ・・・付いて来ちゃったのね?」
空に浮かぶ月のように白い毛並みからつけた名前を呼び、シルヴァーナは子犬を抱きあげる。
ティーノルッツヘルトはその子犬を見て驚愕する。シルヴァーナが抱きあげた子犬が報告のあった瘴気の獣であるとすぐにわかったが、それ以上に子犬が持つ法力の量と質に驚きを隠せなかった。
神官が使役する守護獣なんかとはまるで違う。その法力の量は並みの神官を超えていた。しかもその質はシルヴァーナと同じもので極上。
「その子犬は・・・」
「あっ・・・この子は、その、違うんですっ、安全なんです、もう!」
ティーノルッツヘルトの興味が子犬に移ったのを悪く誤解したらしく、必死に子犬を隠そうとするシルヴァーナ。
「ああ、誤解させてしまったら申し訳ありません。安全であることはすぐにわかりましたよ?私は法力の質を感じとる能力を持っているんです」
「――っ!?」
それがどれだけすごいことか、ただの村人であるシルヴァーナでも知っている。その能力を持つ者は神殿の中でとても高位の存在であり、一般人では一生に一度会えるかどうかわからない。
驚きのあまり声を失ったシルヴァーナはぎゅ、と子犬のルーノを抱きしめる。
「ジョナタさんからお話は伺っています。その子犬は間違いなくあなたと同質の法力をまとっています。守護獣なんてレベルではなく、眷属と呼べるものでしょう」
「眷属・・・?」
「守護獣は神獣と契約を交わしたものです。あなたとその子犬の関係はそんなものではありません。聖女の眷属・・・つまり、あなたと命を一にする存在になったということです」
つまり、シルヴァーナが生きている限り絶対に死なないが、彼女が死ねば共に滅びてしまうということだ。おそらくシルヴァーナの体調や心のあり方すら影響するだろう。
そうティーノルッツヘルトが教えると、シルヴァーナは腕の中で自分に甘える子犬をまじまじと見つめてしまう。
「・・・この子が・・・」
「その子犬はあなたが浄化したと聞きました。その時に魂ごと作り変えられたのでしょうね」
「じょ、浄化なんて、私、できませんっ」
「――いえいえ、できていましたよ」
とっさに否定したシルヴァーナの言葉を訂正したのはジョナタだった。
「ジョナタさん・・・」
「私はこの目で見ましたからね。ね、レティさんも見たでしょう?」
ここでレーティアンヌに確認をしたのには理由がある。他の誰の言葉でもシルヴァーナは信じられないだろうが、姉の言葉なら信じると思ったからだ。
それもちろん家族だからではない。シルヴァーナが誰よりもレーティアンヌの素直さを知っているからだ。
「ええ、見たわ・・・シルヴィが真っ白い光に包まれて・・・そうしたら、瘴気の獣がその子犬になっていたの」
レーティアンヌはそこまで言って、ティーノルッツヘルトに視線を向けた。
「神官様。シルヴィが聖女だとして・・・どうしても大神殿に連れて行かなければならないのですか?この子はまだ親の庇護を必要とする年齢なんです」
それは純粋に妹を心配する姉の言葉なのだが、レーティアンヌに魅了されない神官2人にとっては束縛の言葉に聞こえる。おそらく、シルヴァーナにも同じように聞こえているはずだった。
だが、村の者達の意見は一気にレーティアンヌの側へと引っ張られた。
「あの・・・せめて、シルヴァーナが18の成人を迎えるまでお待ちいただけませんかな?」
特にレーティアンヌを特別扱いしていない村の世話役までそんなことを言い出す。おそらく彼もまたシルヴァーナを可愛がっているからこそ、レーティアンヌの言葉に引っ張られてしまったのだろう。
だが、それでは遅い。これ以上の試練はシルヴァーナにとっては悪影響にしかならない。――ジョナタが抱いた危機感を、ティーノルッツヘルトも感じていた。
「聖女様には覚えていただかなければならないことがたくさんありますし・・・今のまま、自覚もなしに力を使っていると、聖女様のお身体に負担がかかります」
それは嘘ではない。シルヴァーナは常に無意識で村を浄化し続けている。今はなにも影響がなくても、いつかほころびができる。聖女の法力とて無限ではないのだから。
「負担って、どういうことですか!?」
ティーノルッツヘルトの言葉に過剰に反応したレーティアンヌは彼につめ寄る。
「この村はとても清浄な気に包まれています。それは奇跡でもなんでもありません。ただ、ここにいる聖女様が常に浄化しているからに他なりません」
「旧跡も浄化されていましたよ」
ティーノルッツヘルトの言葉をジョナタが補足すると、レーティアンヌはジョナタの方へと矛先を変えた。
「シルヴィはっ、私の大事な妹なんですっ!・・・どうやったら負担が減るんです?この村にいたままではダメなんですか?」
「申し訳ありませんが・・・ここではダメですね」
ジョナタはハッキリとそう言った。
シルヴァーナの法力の限界がどこまでかはわからないが、常に使っている状態では近いうちにガタが来るだろう。それだけはなんとしても防がなければならなかったからだ。




