39.枢機卿は拗ねる
その後のシアリーゼの動きは早かった。
シルヴァーナに王都流の身支度をさせ、王都土産を買い込み、シアリーゼ自身がシルヴァーナにつき添うことを両親と婚約者である王太子に認めさせた。
もちろん、護衛として影神官のジョナタと、侯爵家の騎士2名をつけることで納得させたのだが。
そして、枢機卿と聖女が同時に王都を離れるのは難しい為、またもお留守番となったセヴェリオは少し不機嫌である。
「セヴィ、そう拗ねるなよ」
「・・・拗ねてない」
――― いやいや、完全に拗ねてるだろ・・・。
とツッコミを入れたくなるような不貞腐れ具合なのだが、自身の役目をきちんと心得ているらしく、ワガママを言いはしないあたり、神殿で厳しく育てられてきただけはある。
セヴェリオの秘書官であるティーノルッツヘルトも当然お留守番組なのであるが、こちらは拗ねることも無く、ジョナタとシアリーゼがいれば大丈夫だろうという信頼を寄せているようだ。
当の本人であるシルヴァーナは、というと、決意したのもつかの間、あれよという間に準備が整ってしまったため、ほんの少し戸惑っている。
「私、お姉ちゃんとちゃんと話せるでしょうか・・・」
また、心にドロドロとしたものがたまるのではないか、言いたいことを言ったら、姉の顔が歪み、罪悪感にかられるのではないか。
そういった不安が付きまとう。
そんな不安そうなシルヴァーナを見れば、セヴェリオも置いていかれるからと拗ねている場合ではないと気付く。
「・・・今のシルヴァーナなら大丈夫だ。それに、何も姉を傷つけるようなことを言いたいわけではないんだろう?」
「でも、お姉ちゃんにとっては傷つくような言葉になるかもしれないですし・・・」
「だが、今回必要なのは、シルヴァーナが正直に自分の気持ちを伝えること、だろう?」
「・・・そう、なんですけど・・・」
セヴェリオはレーティアンヌを直接知らない。だからシルヴァーナを優先した考えになってしまう。
それがわかっているシルヴァーナはその言葉には素直に頷けなかった。そこにジョナタが口をはさむ。
「シルヴィさん、レティさんは確かに貴方に試練を与えるための存在ですが、それ以前に貴方のお姉さんで、家族です。・・・わかりあうために言葉を尽くすのは大事なことですよ」
「たとえ傷つけても、ですか?」
シルヴァーナは決して姉が嫌いなわけではないのだ。だから、悲しげな表情をされるのは嫌だし、ましてや嫌われたくもない。
「ただやみくもに傷つけるわけではないでしょう?・・・それに、誰もがレティさんのようには思えないんだということを知るのはレティさん自身のためにもなるはずです」
確かに、レーティアンヌは誰もが自分と同じ意見だと思っている節があった。もちろん、レーティアンヌの周りには彼女を称える者ばかりがおり、否定する者はまったくいなかったのだから当然と言えば当然なのだが。
「そうですね・・・確かに、そうかもしれません・・・」
「お互いのことを知るいい機会になるのではありませんか?・・・シルヴィさんは苦手意識があってまともに会話をしようなんて思いもしてなかったでしょう?」
「それは・・・はい・・・」
物心ついた時から既に姉に苦手意識を持っていたシルヴァーナは、会話する時も反論しないように、ただ相槌を打つだけだった。
そんなシルヴァーナの反応を見て、レーティアンヌは素直に自分に同意してくれているんだと思い込み、さらにシルヴァーナは追い詰められるという負の連鎖だった。
ハッキリと嫌だ、違う、と言えたならという場面はいくつかあったが、どうしてもできなかったのだ。
「ケルビム嬢やジョナタがついてるんだ。マズイと思ったら2人に助けてもらえ」
セヴェリオの言う通り、2人きりで話すわけではないのだからと思いなおし、シルヴァーナはコクリと頷く。
「不本意ながら私は留守番だからな・・・うまくいくことを祈っている」
「あ、ありがとうございます。猊下」
まだ少しばかり不機嫌そうなセヴェリオに、再びジョナタがツッコミを入れた。
「・・・猊下・・・まだ拗ねてるんですか・・・」
「・・・拗ねてないと言ってるだろう・・・」
どうも格好の付かないセヴェリオなのだった。




