33.先を見据えて
「はぁ・・・」
ここ最近で一番深かっただろうため息をもらした目の前の男に、シルヴァーナとセヴェリオは揃って身を竦めた。
「その・・・大騒ぎでした、ね」
シルヴァーナが重苦しい空気を取り払うように口を開けば、セヴェリオがこくりと頷く。
「ああ・・・」
「聖女を城に上げずに済むようにした私の配慮が無駄となったな」
ため息をもらした男・・・王太子ダンフォースの言葉に、シルヴァーナは「すみません」と消え入るような声で謝罪した。
「・・・殿下はシルヴァーナを責めているわけではない。まさかの“副作用”に驚いておられるだけだ」
「ですが・・・」
「セヴェリオの言う通りだ。シルヴァーナを責めたつもりはない。・・・うちの爺共がすまなかったな」
「いえ・・・」
シルヴァーナ自身、あれよあれよという間に連れて来られて質問攻めに合い、その質問もセヴェリオが全て捌いてくれて、呆けている間に全てが終わっていた、という感覚で。
緊張するだの、怖いだのと思っている暇もなかったから、王太子に謝られて逆に恐縮してしまう。
「殿下、大臣方にも説明した通り、我々は御使い様の言う通りにしただけであって、今回の件は意図したものではないのです」
「ああ、わかっているとも。・・・まぁ、良い方向の影響で良かったじゃないか」
「そうですね・・・それに、これで大法術を使うことができます」
「それは、今回の件よりも大事になるんじゃないのか?」
王太子の言葉に、セヴェリオは苦々しい表情をうかべる。
「大臣方はそこまで先を見通していなかったようですが、さすがに殿下はお気づきでしたか」
「当然だろう。術の準備をしただけでこの事態だ。術を行使したら・・・もっとすごいことが起こる。
それが、良い方向のものだけならば良いが、寝た子を起こすようなことになったりしたら・・・」
「・・・そ、そんな・・・」
それならば術を行使しない方が良いのか、と思うが、それは御使いの言葉に反抗することになる。
「殿下、あまりシルヴァーナを脅さないでください」
「ああ、すまん・・・まぁ、やるだけやってみるしかないだろう。御使い様がやれというのだから、やった方が良いに決まっているしな」
「そ、そう、ですよね?」
シルヴァーナに縋るように見つめられて、セヴェリオの頬がほんのりと赤く染まる。
それを見逃す王太子ではなく、口の端をつりあげる。
「・・・ふぅん」
「王太子殿下・・・?」
キョトンとするシルヴァーナは、自分への好意には疎いのかまったく気付いていないようだが、明らかにセヴェリオはシルヴァーナに対して恋情を抱いているとわかる。
王太子に気付かれたと察したセヴェリオは、ぎゅと眉間にしわを寄せて首をゆるりと振る。
それを確認した王太子はやれやれと肩を竦め、シルヴァーナに笑みを向けた。
「落ち着いたらセヴェリオに確認すると良い。・・・今は、術の行使に集中した方が良いからな」
「?・・・わかりました」
素直に頷くシルヴァーナを危ういと思うが、王太子が言っても委縮するばかりだろうと思って言葉を控えた。
だが今までとは違い、城に上がる回数も徐々に増えていくはずで、マナーはともかくとして、流行の服だの髪型だの装飾品だのと、女性特有のものを準備することもあるはずだ。
それに、各シーズンのパーティーならともかく、女性のみが参加するようなお茶会などではセヴェリオがべったりと張り付いているわけにもいかない。
「セヴェリオ、シルヴァーナの友人候補は見つかったか?」
唐突に思えて、先を読んだ質問にそれどころではなかったとセヴェリオは首を横に振る。
「いえ」
「なら、丁度いい人材が行儀見習いに行っていた隣国から、つい先日帰って来たんだ。近いうちにそちらに送り込んでやるから、シルヴァーナを引っ張り回してもらえ」
「・・・ああ、あの方ですか」
「アレに慣れれば、他のはどうとでもなるだろう」
「確かに」
男2人で成り立つ会話についていけず首を傾げるばかりのシルヴァーナだが、なんとなく、自分が振り回されそうな予感がして、寒くもないのにぶるりと震えた。
――― な、何だか、悪寒が!!




