対の錠と兵器の不適合
手足を左右に大きく広げさせられた『仰向けの大の字』の姿勢のまま、宙に晒された葵の身体は、止まることなくゆっくりと水平の軸を中心にして旋回を続けていた。
四肢は光に引かれ、指一本、膝一つ、自分の意志で曲げることもできず、ただ晒されたまま宙を巡る。
くるり、くるりとゆったり旋回する無防備な裸体。
胸の重みが横へ流れ、腰の肉が軸に引き回され、太腿の縁が冷たい空気に晒されるたびに、葵の皮膚に薄い粟粒が走る。
「ひぁっ……!? や、やだ……身体が勝手に回っ……あぁっ!?」
首を反らし、唇が震える。拒絶の言葉は吐息に崩れ、喉の奥で潰れた鳴き声だけが宙に落ちた。
「静粛に」
頭上から響いたのは、氷の刃のように冷たく重厚な声であった。
その二文字が落ちた瞬間、回廊の熱が一段、葵の皮膚から剥がれた。
最高権力者である高位宰相ヴァルターが、白銀の魔力衣の裾を優雅にはためかせ、空中を見上げる位置へと歩み出てくる。その細い冷徹な瞳には、品定めを行う冷ややかな色だけが宿っていた。瞳の奥に温度はない。
「第一段階――異界生命体としての肉体構造および健康状態の走査を開始せよ。魔導長、旋回を維持したまま儀式陣を展開しろ」
「御意、ヴァルター閣下」
ヴァルターの命令を受け、回廊を取り囲んでいた高位魔導士たちが一斉に長杖を床へと打ち立てた。
カツン、と甲高い音が回響すると同時に、長杖の先が床を打つたびに、回廊の空気が震え、葵の裸の腕に鳥肌が走る。
空中でぐるぐる旋回し続ける葵の真下の床面へ、巨大な三重の魔法測定陣が眩い蒼白の光を放って浮き上がった。光の輪郭が床を削るような音を立て、葵の裸体を下から照らし上げる。
次の瞬間、しなやかな光の束が、まるで無数の温かい手のひらとなって、旋回する彼女の素肌を直接触れて撫で回すように這い上がり始めた。
掌が皮膚を押し、指先が素肌をなぞり、腋の窪みへ潜り込み、胸の谷間へ溜まる。
「んあぁっ……!? や……回さないで……触らないでっ……!」
言葉は途中で途切れ、喉が鳴る。葵は拒絶を叫びながら、光に撫でられるたびに腰の奥へ熱を溜めていった。
物理的な生体検査である走査の光は、空中で旋回する葵の意に反して全身の皮膚や筋肉、臓器の健康度を直接なぞっていく。
旋回によって胸が横に流れた瞬間には、脇から胸の谷間にかけて光の束が優しく撫で上げ、身体が俯せへとさしかかって二つの豊かな乳房が垂れ下がった瞬間には、その先端で固く収縮した果実の頂を円を描くように撫で回す。
尖った頂が硬直し、光を吸って熱を帯びる。脈打つように胸の奥が焼かれ、葵は空中で小さく息を弾ませた。
さらに引き締まったお腹のくびれから、二本の太ももの内側、太ももの付け根の深くまで――回転する身体へ巻き付く触手のような光の刺激に、葵は空中で背筋を反らせて可憐な喘ぎを漏らした。
光が内側の薄い皮膚をそっと撫でる。身体の奥に熱が溜まり、太腿の付け根がかすかに震える。腰の奥に溜まった熱が一度、大きく弾けた。
旋回と走査の過剰な刺激に、彼女の白磁の肌はほんのりと甘い桜色に火照り、揺れる柔らかな果実の頂が光を反射して艶やかな光沢を放つ。汗が胸の谷を伝い、光の粒を吸い取って走り、腹の窪みに細い筋を残した。
「ふむ……生体構造は人族そのもの。病変も毒素もなく、極めて健康な個体だ」
ヴァルターの冷淡な声が走査結果を告げる。
だが、葵にとって屈辱の真ん中はこれからであった。
心臓が脈を刻むたびに、耳の奥で光の残響が鳴る。まだ熱を持つ裸体に、次の命令が降り注ぐ。
「このまま第二段階の魔力測定へ移行せよ。この女の肉体に刻まれた魔力回路と能力特性、我が国の兵器としての適合度を算出するのだ」
命令とともに、測定陣から放射された数千本もの細い光の針が、空中でゆったりと回転し続ける葵の無防備な裸体へと、容赦なく突き刺さるように伸び広がった。
針先が皮膚を射抜き、皮下の血管を透かし、目に見えぬ魔力経路の隅々に至るまで、冷たい光の束が直接侵入し、体内を粗暴に探られるような不快感が襲いかかる。不快の底に、甘い痺れが混じる。
「あぐ……っ!? あ……んぁぁっ……!」
空中で旋回しながら手足を広げられたまま、葵は喉を震わせて可憐な悲鳴を上げた。腰が跳ね、膝が閉じられず、爪先が宙を蹴る。唇を噛み、鉄の味が喉に滲んだ。
ぐるりと身体が回転し、重力で豊かな乳房が下へと垂れ下がるその瞬間、胸の奥深くの魔力核を光の針が激しく刺激する。下垂した肉感がぷるぷると重々しく揺れ動き、逃げ場のない空中で冷たい測定の光を浴びて、柔らかな頂がプルプルと震えた。胸の底に灯のような熱が走り、胸の谷間から汗が滴る。
太ももの内側を滑る光の針が、体内の魔力流量を計測していく。内腿の最も薄い皮膚が刺され、身体の底に熱が溜まり、葵の膝が細く震えた。
葵の意志とは無関係に、空中で回転し続ける彼女の肉体の構造、魔力のすべてが、冷徹な魔導仕掛けの刻印となって空中に数値化されて浮き上がっていった。光の文字が裸体の輪郭に重なり、滑らかな体のラインをなぞる。
――測定時間、数十秒。
数十秒が、永遠のように葵の身体を焼いた。光の針が体内から引き抜かれる瞬間、内臓の奥から糸を引くような名残が走り、葵は小さく息を弾ませた。
空中へ投射された測定結果のルーン文字を見上げた魔導長が、眉をひそめて不可解そうな声を漏らした。
「……む? これは……何かの測定エラーか……?」
魔導長の喉が鳴る。
「どうした、魔導長。報告せよ」
ヴァルターが眉根を寄せ、冷たく問い詰める。魔導長は焦りを色濃く滲ませながら、何度も空中のルーン文字を指先で確認し、汗を拭いながら声を震わせた。額から顎へ伝った汗が、床に落ちる。
「は、報告いたします……! 召喚されし『対の錠』の測定結果が出ました。……し、しかし、これは……」
「目も当てられぬ数値だとでも言いたいのか?包み隠さず申してみよ」
「はっ……! まず、属性攻撃魔力……『ゼロ』。炎、氷、雷、風……いかなる攻撃魔法の構成回路も存在いたしません。……続いて、魔力保有量におきましては……『ごく普通の一般人・平民と同等レベル』。兵器として運用できるような膨大な魔力など、到底持ち合わせておりません!」
回廊を取り囲む貴族や魔導士たちの間に、波紋のような激しいざわめきが広がった。
「何だと……? 攻撃魔力がゼロ……!?」
「平民並みの魔力量だと!? 我らが国家の全魔力を注ぎ込んだ大儀式で降臨したのが、そんなどこにでもいる一般人の女だというのか!」
失望と侮蔑に満ちた男たちの視線が、空中で旋回し続ける葵の裸体へと一斉に突き刺さる。視線が胸と腰と身体のラインに重くのしかかり、葵の皮膚が冷たく縮こまった。
葵は屈辱と恐怖に全身を震わせ、虚空で手足を歪めながら、必死に男たちの不快な視線から身を隠そうとした。肩をすくめ、顎を引き、胸を腕で隠そうとする。だが、光の拘束は彼女に指一本動かす自由すら与えない。
魔導長の冷酷な報告は、さらに続いた。
「……さらに、召喚者に当然刻まれるはずの固有能力についてですが……判定の結果、『存在しない』と出ました」
「何……!? ユニークスキルすら無いだと!?」
ヴァルターの細い瞳が凶悪に細められた。
「では、その女には何の価値もないというのか!?」
「あ、いえ……! 職業特性の測定結果といたしましては……『ヒーラー(治癒術士)適性』が確認されております!」
「ヒーラー適性……!?」
ヴァルターの声に、一瞬だけ期待の色が混ざった。氷の瞳に薄い光が差す。
「……まさか、伝説の広域・軍隊完全再生術式を持つヒーラーか!?」
「いいえ、閣下……!」
魔導長は首を激しく横に振った。その顔には、隠しようもない落胆と呆れが広がっている。
「術式の適性規模はきわめて平凡……『その辺の町医者や、どこにでもいる一般の駆け出しヒーラーと何ら変わらぬ、ごくごく普通の単体治癒適性』でございます……! 飛び抜けた性能など何ひとつなく、要するにその辺を歩いている一般のヒーラーの小娘と、何ら変わりございません……!」
その報告が響き渡った瞬間、豪華絢爛な宮廷を支配したのは、氷のように冷え切った沈黙であった。
誰の足音も止まり、葵の荒い息だけが床に落ちる。
国家が全魔力を注ぎ込んで執り行った大事業。その成果が――ユニークスキルすら持たず、攻撃力もゼロで、どこにでもいる一般ヒーラー適性しか持たない平凡な小娘ひとり。
その小娘の裸体は、まだ光の針の熱を孕んでいた。
「……くっ……くはははは!」
不意に、ヴァルターの口から乾いた嗤い声が漏れた。乾いた嗤いが回廊に弾む。
「ハズレだ……。完全な失敗ではないか。我が国が全魔力を注ぎ込んだ大事業の成果が、その辺の一般ヒーラー適性しかない小娘だと!? ……おい、魔導長! 他の召喚者はどうなった!? 召喚陣に現れたのは、本当にこの女ひとりだけなのか!?」
ヴァルターの怒声に、魔導長は青ざめた顔で床にひれ伏した。額を床に打ちつける。
「は、はひっ!ただちに召喚陣の次元残滓を解析いたしました! ……し、しかし、召喚陣に降臨したのは間違いなくこの女性ひとりのみでございます……! 他に異界から引き寄せられた痕跡も存在いたしません! 召喚されたのは……この小娘ひとりのみにございます!!」
「失敗……だと……!?」
ヴァルターの顔が、凶悪な憤怒に歪んだ。
「拓海は……どこ……っ!?」
空中で旋回し続ける光の束の中で、葵は涙をポロポロと溢れさせながら、叫んだ。
名前を呼ぶ声は、喉の奥で潰れ、吐息に混じる。涙が頬を伝い、光の針に焼かれた胸を打った。
震える声。見知らぬ異世界で、一枚の服すら与えられず全裸で晒され、最愛の恋人の姿すら見当たらない二十歳の少女の、あまりにも悲痛な叫び。
「拓海も……一緒に巻き込まれたはずなのに……っ! お願い……拓海を返して……! 私を……元の世界へ帰してください……っ!!」
両の手で虚空を掴むが、光が許さない。必死に虚空で手足をあがき、葵は赤く腫らした涙目でヴァルターを見上げた。瞳が熱でうるみ、視界が揺れる。
旋回によって揺れ動く豊満な胸が、激しい感情の昂ぶりに大きく上下し、白磁の太ももが冷たい空気の中で震えている。胸の谷間に涙が溜まり、太腿の内側に汗が走る。
しかし、ヴァルターは葵の悲壮な訴えを、冷酷な目で見下ろすだけであった。
「元の世界へ帰せ、だと?……戯けが。送還の術式など存在せぬ。我が国が求めたのは、国を勝利へ導く圧倒的な『兵器』のみ。……ユニークスキルも無く、攻撃もできず、その辺の一般人と変わらぬヒーラー適性しかない小娘など……我が国においては、ただ飯を食うだけの無能に過ぎん」
蔑みの言葉が、まだ熱を帯びた裸体に冷水を浴びせる。
ヴァルターが蔑むように手を一振りすると、旋回を続けながら葵の手足を虚空に繋ぎ止めていた光の触手が、冷ややかな吐息とともにふっと締め付けを緩めた。光の触手が解け、四肢の重さが急に肉へ戻る。
「ひぁっ……っ!」
回転の運動エネルギーと重力から解放された葵の身体は、受け止めるものもないまま、空中から白磁の大理石の床の上へと落とされる。
腰を床に打たれ、まだ熱を持つ胸が腕に潰れ、息が詰まる。
「う……あ……っ……」
唇が震え、名を呼ぶ息が漏れる。
大理石の感触に触れた瞬間、葵は激しい動悸に胸を波打たせながら、反射的にへたり込んで身体を小さく丸め込んだ。膝を胸に引きつけ、裸の背に汗が伝う。
両腕で豊満な二つの胸を押し潰すように抱きかかえ、旋回と測定で固く小さく閉じたままの果実の頂を必死に覆い隠す。尖った頂が腕に擦れて熱を帯び、胸の重みが腕に沈む。そして両膝をきゅうっと強く密着させ、太ももの付け根を隠した。膝の隙間に汗が溜まる。
「我が国に必要なのは軍事兵器のみ。どこにでもいる一般ヒーラーを王宮に置く意味はない。……おい、この女をただちに国境の開拓街『ルミナ』へ送り届けろ。そこで一般人として自活させるがいい」
冷酷な命令が、裸体の熱を奪う。
「御意にございます。ただちに手続きを執り行います」
杖を引く音が、冷たく響く。
冷酷ながらも無意味な害を加えない決定。
だが、その決定はこの娘を丸裸のまま開拓街へ放る。
数百人の宮廷魔導士や貴族たちは、もはや葵に興味を失ったかのように散り始めていく。視線が裸体から剥がれ、足音が大理石を擦る。
床にうずくまる葵の目の前で、冷たい白磁の扉が無慈悲に閉じられていこうとしていた。扉の隙間が細くなる。
「たく……み……っ……拓海ぁ……っ……!」
名を呼ぶほど、胸の奥が焼ける。
誰もいなくなった冷たい宮廷の床で、葵は自分の華奢な身体を抱きしめ、声が枯れるまで涙を流し続けた。抱きしめた腕の下で、胸が潰れて痛む。
服もない。武器もない。身を守る術も、帰る手段すらもない。
光の針の熱だけが、まだ身体の奥に残っている。
生まれたままの全裸の姿で、少女は開拓街ルミナへの旅立ちの刻限を迎えようとしていた。大理石の冷たさが、まだ熱を失わない肌をゆっくり冷やしていく。
第2話をお読みいただきありがとうございました!
空中で旋回させられ続けたまま生体走査と魔力測定を受け、結果として「ユニークスキルなし・一般レベルのヒーラー適性」と判定されて王宮から出されることが決まった葵。
最愛の拓海とも引き裂かれ、全裸のまま放り出される過酷な運命の始まりです。葵がこの理不尽な状況にどう向き合っていくのか、冷酷な宮廷の空気感とともに楽しんでいただけていれば幸いです。
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