二人の秘密(切なく揺れる距離感)
交易都市での滞在を無事に終えた葵たちは、澄み切った秋風が吹き抜ける街道を、次の目的地である美しい湖畔の街を目指して進んでいた。
「よし! この先にある大きな森林を抜ければ、今日の目的地の湖畔の街が見えてくるぞ。気を抜かずにいくぞ!」
「了解よ、ギルバート。葵、足取りは大丈夫? 疲れていたら遠慮なく言いなさいね」
「あ、はいっ! ミーナさん、全然大丈夫です!」
先頭を歩く頼もしいリーダーのギルバートと、周囲の警戒を怠らないスカウトのミーナ。2年前、見知らぬ異世界に一人召喚されて王宮から冷酷に追放され、右も左も分からずに泣いてばかりいた水野葵だったが、22歳を迎えた現在の彼女は、二人と肩を並べて力強く歩む一人前のヒーラーとなっていた。
2年前の下着同然だったキャミソールワンピから進化させた「冒険者風のミニドレス調魔力衣」は、しなやかに彼女の白磁の肢体を包み込み、冒険者としての洗練された可憐さを際立たせている。秋の陽差しが葉の隙間から漏れ、その縁に柔らかな光が走るたび、葵の足元は軽やかに、けれど胸の奥はどこか熱を帯びて揺れていた。
「葵、荷物は重くないかい? 僕が持とうか」
「ふふ、大丈夫だよ、ルカ。自分の荷物は自分で持てるようになったんだから」
隣を歩くルカが、涼やかな瞳で葵を見つめ、柔らかく微笑みかけてくる。その整った男らしい側顔は、日本に残してきた最愛の恋人・拓海に驚くほど生き写しであり、見つめるたびに葵の胸の奥を甘く締め付けた。
昨夜の星空の下での告白――。「私には日本にどうしても逢いたい大切な人がいるから、今すぐ返事はできないの」と涙を浮かべて返事を先送りにした葵を、ルカは「答えは急がなくていい。君の傍にいて守り続けるよ」と温かい包容力で深く受け止めてくれた。二人の間に生まれたその空気は、気まずさや気まずい沈黙ではなく、互いをよりいっそう尊重し合い、深く慈しみ合うような特別で甘やかな熱を帯びていた。
返事を保留にしているという申し訳なさがありながらも、彼の男らしい優しさと変わらぬ情愛に接するたび、葵の胸の奥は甘くキュンと跳ね上がってしまう。
「がはは! ルカ、葵のサポートをしっかり頼んだぞ! 葵がパーティーに来てくれてから、うちの安定感は段違いだからな!」
「ええ、本当に頼もしいヒーラーになってくれたわ。ルカ、葵をしっかりエスコートしてあげなさいね」
「はい、もちろんです!」
ギルバートとミーナの温かい言葉に、葵は照れくさそうに頬を染めながら小さく頷いた。
「よし、ちょうどいい広場がある。ここで少し休憩にして、水と薪を補給しよう。ミーナ、周囲の警戒を頼む」
「分かったわ、ギルバート。葵たちは水くみをお願いできるかしら?」
「はい! 了解しました!」
街道沿いの美しい木々に囲まれた湧き水場へと、葵とルカの二人は水くみのために向かった。
木漏れ日が柔らかく差し込む静かな水辺。透き通る清流がサラサラと音を立てて流れ、周囲には鳥たちの可憐な囀りだけが響いている。
「冷たくて澄み切った気持ちいい水だね、葵。岩場が濡れているから、足を滑らせないように気をつけてね」
「ふふ、ありがとうルカ。本当に綺麗な水だね、これなら美味しいお水がいっぱい汲めそう」
葵が柔らかく微笑みながら素手を清流に浸し、木製の水筒へと静かに水を満たし始めた。
冷たい水が手首を白く濡らし、苔と岩と葉の匂いが、静かな水辺にひっそりと漂っている。
その時だった、水辺の岩肌を覆っていた滑らかな緑の苔に、葵の履いていた靴の底がツルリと激しく滑ったのだ。
「あっ……きゃああっ!?」
不意に足元をすくわれ、可憐な身体が体勢を崩して冷たい川へとそのまま前傾姿勢で激しく転倒しかける葵。
「きゃあっ……!? やだっ……!」
冷たい川底の岩場へ倒れ込めば無傷では済まない危険な状況だった。
「葵……っ!」
隣にいたルカが反射的に素早く両腕を伸ばし、倒れ落ちそうになった葵の身体を前傾姿勢のままガシッと全力で抱き留めた。
ルカの腕が、背から腰にかけて強く支え、その力強さが布越しに伝わってくる。
水飛沫がふたりの肩に飛び、冷たさと熱が同時に葵の肌を撫でた。
――だが、その不意の衝突と勢いによって。
「あ……んっ……!? ひゃああっ……ッ!?」
ルカの大きな右手が、葵の冒険者ドレスの胸元――そのふんわりと柔らかく豊かな右胸を、手のひら全体でガバッと真っ正面から思いっきり包み込むように掴んでしまっていた。
むにゅっ、と吸い付くような圧倒的な柔らかさと重みが、ルカの大きな手の中に溢れんばかりにすっぽりと収まる。
薄い魔法衣の生地越しに、ルカの男らしくて熱い手のひらの体温が、ダイレクトに葵の柔らかな右胸の先端にまで伝わってきた。
冷たい水に浸されていた指先とは正反対の熱が、皮膚の上をゆっくりと沈み込み、胸の奥の芯までじわりと染み渡っていく。
視界の端で、木漏れ日と水面の光が乱れ、葵の瞳にぼやけた光の粒を散らした。
離れ離れになった最愛の恋人・拓海以外の男性に、こんな風に胸を直接思いっきり触られるなんて、葵の人生で生まれて初めてのことだった。
ドキン――ッ!! と、葵の胸の奥で心臓が破裂しそうなほど大きく甘く鳴り響いた。
「あ……あわわっ……!! ご、ごめんなさい葵……ッ!! け、決してわざとじゃ……っ!!」
自分の手の中にすっぽりと収まった極上の柔らかさと胸の感触に気づいたルカは、顔面を耳の裏まで真っ赤に染め上げ、慌てて弾かれたように手を離すと、深々と頭を下げて狼狽した。
離された瞬間、胸の表面に残った指の輪郭が、冷えた空気に触れてもなお熱を帯びたまま残っていた。
葵の耳の奥にも、彼の声の震えが焼き付いていた。
「い、いいの……っ! ルカが助けてくれたんだもん……っ。こちらこそ、滑っちゃってごめんなさい……っ」
葵もまた、顔全体が爆発したかのように真っ赤に上気し、揉まれた右胸を両手でギュッと抱え込みながら可憐に肩を震わせた。
ルカの手の中にすっぽり揉み込まれた右胸が、彼の手のひらの熱さを覚えて熱く激しく脈打っている。
不可抗力の事故とはいえ、男性の力強い手で思いっきり包み込まれた強烈な感触と衝撃に、葵の身体の奥底が甘く熱く痺れてしまっていた。
「あ、葵……怪我はないかい? 水筒、僕が代わりに全部汲むから、少し休んでいてね。重いから僕が持って帰るよ」
「う、うん……ありがとう、ルカ……っ」
ルカはまだ耳の裏まで真っ赤にさせながらも、どこまでも紳士的に葵の体調を気遣い、重くなった木製の水筒を両手に持って代わりに汲み終えてくれた。
「葵、大きな怪我がなくて本当に無事でよかったよ。君に何かあったら、僕は自分を許せないからね」
「ありがとう……ルカ」
心から自分を心配し、守ってくれるルカの男らしい背中を見つめながら、葵の胸の奥はキュンと可憐に締め付けられていた。
拓海以外で初めて胸を包まれてしまったという甘く刺激的な興奮とドキドキが、葵の胸の奥でいつまでも熱い火種となって燻り続けていた。
◇
宿屋へと戻り、二階の鍵のかかる個室へと一人で入った葵は、カチャンと扉の鍵を閉めると、そのまま木製ベッドの縁にへたり込むように腰を下ろした。
「はぁっ……はぁっ……っ……」
胸の鼓動が、昼間のあのハプニングを反芻するたびに早鐘のように激しく跳ね上がる。
鍵を閉めた音が、やけに大きく響く。
一人きりの部屋で、初めて自分の吐息がこれほど大きく聞こえた。
部屋の空気は、街道から切り離された木と乾いた草の匂いを纏い、窓から差し込む月光が床板の節を薄く照らしていた。
葵は震える指で魔法衣の縁にふれ、スーッと魔力を解いた。
身に纏っていた冒険者ドレスの魔法衣が光の粒のようにほどけ、布の重みが肩から腰から離れていく。
魔法衣がほどけるたび、光の粒が夜気へ溶けていく。
布の消えた肩、腕、腰、膝。その輪郭が月光に浮かび、葵は反射のように両腕で胸を覆い、それから自分の行為に気づいて、そのまま腕を落とした。
残ったのは、ありのままの自分だけ。
素朴な木製ベッドの上で、白磁のように美しい素肌を露わにして可憐に身体をよじらせる。
部屋には誰もいない。衣類を一枚も纏わない姿で、月光とランプの柔らかな光に照らされながら、葵の豊かな胸と引き締まった腰つきが妖しく浮かび上がっていた。
秋の夜気が、裸の肩を撫でるたびに産毛を細く立たせていく。
それでも、葵の肌は冷めきってはいなかった。胸の右側だけ、昼間の熱をまだ記憶しているかのように、じわりと熱を帯びて脈打っている。
ランプの光が、彼女の胸のふくらみに柔らかな影を落とし、月光が腰の線に薄い光の筋を走らせていた。
水辺でルカに思いっきり抱き留められ、その大きな手で右胸をガバッと真っ正面から包み込まれたあの感触。手の中にむにゅりと収まった自分の胸の柔らかさと、ルカの熱い手のひらの体温。
(あんな風に……胸を思いっきり触られちゃうなんて……っ。拓海以外の人に触られたの、初めてなのに……っ)
胸を直接触られた時の強烈な衝撃と、ルカの男らしい手の体温の記憶。
そして、胸を触られて不快に思うどころか、身体の奥がキュンと甘く疼いてしまった自分自身への激しい罪悪感が、葵の全身を強烈に駆け巡る。
(ダメなのに……っ! 私には離れ離れになった大切な拓海がいるのに……っ! なんでこんなに胸が熱くなっちゃうの……っ!?)
拓海への変わらぬ絶対的な愛と、ルカの手のひらで包み込まれた甘美な記憶。
罪悪感と情熱がぐちゃぐちゃに交錯し、葵の体底からは熱い火照りが溢れ出し、白磁の太ももの内側に温かく伝っていった。
その熱は、本人の意思とは関係なく、静かな夜の中でゆっくりと身体を侵していく。
葵は両膝をベッドの上に引き寄せ、指先で自分の胸の縁にそっと触れた。
「んっ……」
触れた瞬間、右胸の先が熱く波打っているのに気づく。
昼間の出来事を思い出すだけで、身体は正直に熱を覚えていた。
指先は胸から腹へ、臍の周りを円を描き、腰のくぼみに沿って下り、太ももの内側をゆっくりと撫でた。
その道筋を辿るたび、皮膚が粟立ち、熱が内側から湧き上がる。
「んっ……ぁあ……っ! 拓海……っ! 拓海ぇ……っ!」
上気した瞳で涙をポロポロとこぼしながら、葵は震える指先をそっと熱を帯びた自らの身体へと伸ばしていった。
熱を帯びた身体に指先が触れた瞬間、昼間にルカに思いっきり包まれた右胸の先端が熱く浮き立つ。
指の腹が、熱を帯びた肌にそっと沿い、温かな熱を確かめるように押す。
最初は触れるだけ。けれど、その熱に触れた瞬間、奥がじわりと脈を打ち、葵の息が止まった。
指の腹が、濡れた皮膚の上を小さく円を描くように往復する。
最初はかすかな摩擦だけが、皮膚の上を細かく擦っていった。けれど、そのたびに身体の奥から熱が湧き、葵の息は短く乱れていく。
「ひぁあっ……っ!? 拓海……っ! 私を抱きしめてぇ……っ! 拓海の手で……いっぱい愛してぇ……ッ!」
可憐な悲鳴を白磁の腕で押し殺しながら、葵は夢中で濡れた指先を小刻みに動かし続けた。
ふぅ……と胸の奥から溢れる甘い吐息が静かな個室に響き渡り、胸の先端の熱さと身体の奥から駆け巡る切ない情念が、葵の華奢な全身を痺れるように揺さぶっていく。
指を滑らせるたびに、腹の底が熱く緩み、腰が自然と沈み込む。
ベッドの木枠が、かさり、と小さく鳴った。
その音すら、自分の身体が夜の中でどれほど熱を帯びているかを告げているようだった。
胸の縁を親指が擦り、熱を帯びた胸の先端が冷えた空気の中で小さく跳ねる。
その刺激が、身体の奥の熱と繋がり、葵は思わず腰を浮かせていた。
「あぁっ……んんッ……!! 拓海ぃ……ッ!」
最愛の人の名を狂おしく叫びながら、葵は可憐な身体を大きく跳ねさせ、涙と熱い火照りに包まれながら甘く激しい胸の高鳴りの果てへと昇りつめていった。
想いが極まった果てに訪れる、甘く心地よい脱力感。
身体が細く痙攣し、涙がベッドの縁を伝った。
胸の先が触れられるたびに敏感に跳ね、葵は腕の下で小さく息を漏らした。
白磁の太ももをそっと重ね合わせ、葵は溢れた汗と情愛の余韻を全身で感じながら、ゆっくりと荒い呼吸を整えていった。
右胸に残るあの温かい手触り。ルカの真っ直ぐな瞳。
拓海への絶対的な愛を誓いながらも、自分を必要としてくれるルカへの愛おしさを消すことができない。二つの大きな愛に揺れながら、葵は可憐なまぶたをそっと閉じ、静かな夢の中へと落ちていった。
深く甘い吐息をつき、ベッドに横たわる葵。
拓海への想いと、ルカへの芽生えつつある特別な感情。二つの想いを胸に抱きながら、葵の夜は静かに更けていった。
第10話をお読みいただきありがとうございました!
今回は、清流での不可抗力の胸触れハプニング、ルカの紳士的なお詫びと気遣い、そして拓海以外で初めて胸を包まれた甘い衝撃の余韻に包まれる、宿屋での甘く切ない一人夜をお届けいたしました。
引き続き、応援をよろしくお願いいたします!




