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24話 標的は王都

「……なんだ?」

「教官、個体の体内に術式が組み込まれています!」


 リゼットが叫んだ。


「体の中に?」

「怪異の体に、誘引呪術の術式が埋め込まれていました。死亡した時に起動する設計になっています!」

「起動すると何が起きる?」

「読み取っています、少々お待ちを……」


 リゼットのレンズ装置が高速で動く。


「……分かりました! 増殖呼び出しです! この個体の死亡を合図に、周辺の怪異群が集結する設計になっています! 半径五キロ以内の怪異が全て……来ます!」

「全員、撤退する! 今すぐだ!」


 報告を受けて大声を上げながら、レオンハルトが走り出した。


「白棺も下がれ! 今すぐだ!」


 部隊の者たちに視線を向け、レオンハルトは離脱を促す。

 すると白棺処刑隊の一名が、黒い装束の人物を拘束しながら後退した。

 そして村の外に出た頃、遠くから音が聞こえ始める。


 複数で多数の怪異が移動する音だ。農地の向こう、街道の両側の暗がりから、何かが動いていた。

 月明かりの中に、無数の影が動いている。


「どのくらいいますか……?」


 細い声でルシアが聞いた。

「とても……数えられません。観測範囲を超えています」


 弱々しい声で、ルシアが返す。


「即時、撤退する! 全員、王都に向かって全力で走れッ!」


 正規部隊の隊長が、声帯を破壊する勢いで叫ぶ。

 そして街道を走りながら、レオンハルトは考えていた。

 今夜起きたことを整理している。誘引呪術が村に仕掛けられていた。


 怪異の体内に起動術式が組み込まれていた。それは偶然ではない。それは計画だ。大型個体は囮。

 本当の目的は、個体を倒させることだ。倒すことで体内の術式を起動させる。


 周辺の怪異を集結させる。そしてレオンハルトは、走りながら王都の方向を見た。

 王都の方角の空が、わずかに変色している。夜明けではない。

 春の夜明けは東から来る。しかし、今見えている変色は北西だ。


「……王都が標的だ」


 低い声でレオンハルトは呟く。


「……え?」


 彼の言葉が聞こえて、ルシアが振り返った。


「今夜の全てが、王都に怪異の群れを向けるための準備だった。村は経由地だ。集結した怪異は王都に向かう」

「それって……」

「黒月血戦の前夜と同じ動き方だ」

「「「なっ……!?」」」


 全員が走りながら顔を見合わせた。


「誰かが、あの夜を再現しようとしている」


 静かに拳を握り固めながら、レオンハルトは下唇を噛み締める。

 街道の先に王都の城壁が見えた。北西の空の変色が濃くなる。


 王都の城壁の上に立つ番犬団の見張りが、警告の鐘を荒々しく打ち始めていた。

 鐘の音が夜の農地に鳴り響く。春の夜に、黒月が近づいていた。

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