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23話 あれが伝説の狩人……

「全員、下がれ! 下がれ! くそっ、間に合わない……っ!」


 その声の正体はリアである。二班を率いて彼女が、広場の入口から来ていた。

 月光色の教官装備、淡い銀金色のハーフポニーテールが乱れている。薄い蒼銀色の瞳が血走っていた。

 ルナティック・ヴェインを両手に持ち、二班の候補生を後退させながら前に出ている。


 しかし、遅かった。大型個体が動く。白棺処刑隊の一名に向けて前肢を振った。

 白棺の一名が吹き飛ぶ。壁に当たり、動かなくなった。


「リア……!」


 レオンハルトが駆ける。リアが大型個体の前に出た。双剣を構え、個体の前肢の動きを受け流す。

 刃が外皮に当たる。火花が散るが切れない。


「外皮が硬すぎる、斬れない……っ!」

「下がれッ!」

「下がれない! 二班が後ろに……」


 その場で戦闘の構えを維持しながら、リアは口元を歪めた。

 大型個体が後肢で踏み込む。地面が大きく揺れた。リアが体勢を崩す。


 レオンハルトが間に入り、ノクス・ハルバードを展開した。鎌状の刃が赤い脈動を始める。

 大型個体の前肢が、レオンハルトに向けて来た。敢えて彼は攻撃を受ける。斧槍の柄で受けた。

 衝撃が腕に駆けてゆく。石畳が割れた。


「……硬い」


 レオンハルトの足が、十センチ沈む。外皮の密度が通常の怪異とは違う。B級の外皮と同等以上だ。


「レオン……ッ!」


 リアが体勢を立て直した。


「術式の光の線、踏んだら能力が封じられる! 避けながら戦わないといけない!」

「ああ、理解している。お前は二班を下がらせろ」

「っ……あなた一人では!」

「下がらせろ!」

「……分かった。死なないでよ!」


 そう言うとリアは、二班を連れて引き下がる。一班が広場の入口で止まっていた。

 後方三十メートルの位置を維持している。全員がレオンハルトを見ていた。


 ルシアがルナ・リボルバーを構えている。しかし、照準を合わせられない。

 光の線が広場を覆っており、弾が干渉を受ける可能性がある。


「撃てません! 術式が邪魔してます!」

「観測します!」


 レンズ装置をリゼットが最大まで展開した。広場全体の術式の配置を読み込んだ。


「光の線に隙間があります! 東側に二箇所、干渉を受けない射線があります! ですが角度が厳しい……」

「角度を教えてください!」

「北東方向、仰角十五度。個体の右眼球の列が狙えます!」

「眼球を狙えば効果はありますか!」

「外皮は硬い。眼球は外皮ではない。可能性はあります!」

「了解ですっ! その情報は……とても有難いです!」


 そう言うとルシアが東側に移動する。即座に彼女は角度を確認した。

 広場の中でレオンハルトが動いている。

 光の線を避けながら、大型個体と距離を取り、攻撃の機会を探していた。


 個体の前肢が来るたびに横に流す。しかし、攻撃できていなかった。

 外皮を斬るには、通常の斬撃では届かない。口で手袋を噛むと強引に外した。


「血界固定、展開する」


 その言葉をレオンハルトが呟くと同時に能力が広がる。広場の術式の光が、能力の展開に反応した。

 青白い光が強くなる。術式がレオンハルトの能力に干渉しようとしていた。引っ張られる感覚がある。

 能力の方向が歪もうとしていた。しかし彼は、それを強靭な精神力で抑える。蓄積が増えるのが分かった。


 いつもより速い速度で蓄積が上がる。術式との干渉が、能力の消費を加速させていた。

 それでも展開を続ける。大型個体の動きが、血界固定の展開により、少し鈍くなった。

 個体内部の魔力循環が固定されて、動作に遅延が生じている。


「今だ……ッ!」


 レオンハルトが踏み込んだ。光の線を三本跨ぐ。能力が一時的に干渉を受けた。

 それでも動きを止めない。ノクス・ハルバードの形態を変えた。

 斧槍から、刃を圧縮した穿孔形態に切り替える。先端が細く、密度が高くなった形態だ。


 外皮を貫通させる為の形である。個体の首元、外皮の境界線を狙う。刃を通した。外皮が割れる。

 黒い血が噴き出した。個体が動きを変える。首元を押さえようとした。

 その動作の隙に、レオンハルトが刃を引いて、次の位置に移動する。


「ルシアッ!」

「はい! 狙っています!」


 甲高い返事を即座に行うルシア。個体が顔を向けた。六つの眼球が、レオンハルトを追う。

 その瞬間、東側からの銃声が一発鳴った。個体の右眼球の列、最も外側の一つに当たる。

 個体が顔を振った。眼球の損傷で視界が乱れる。


「もう……一発ッ!」


 人差し指に力を込めてルシアは引き金を引き、放たれた二発目が右眼球の中央に当たった。

 個体の動きが止まる。一秒だけ。レオンハルトが、その一秒に全てを入れた。

 首元の傷に刃を再度通す。今度は深く切り込む。外皮の内側、体幹の中枢部まで刃を届かせた。


 血界固定を限界まで展開する。個体内部の魔力循環を完全に固定した。個体が停止する。

 四肢が折れた。石畳に倒れる。黒い血が広場に広がった。静寂が訪れる。詠唱の声が止まっていた。

 黒い装束の人物が、広場の中央から動いていない。白棺処刑隊の残り四名が、その人物を囲んでいた。


「……終わった……んですか?」


 銃を下げながらルシアが呟く。


「ああ、個体は止まった」


 倒れた個体の前に、レオンハルトが立っていた。外した手袋を右手に戻す。

 既に蓄積が通常任務の三倍を超えていた。体の内側が常に熱い。


「……す、すごかった。素直に……」


 小声でブリュンヒルダが言った。


「一人で、あの大きさの相手を……」

「ルシアが眼球を撃った。一人ではない」

「でも、あの動き方は……」

「あれが伝説の狩人だ」


 腕を組みながら静かにイリスが言い切る。感情のない言葉ではなかった。

 それは純粋に、目の前で見たものを、言葉にしただけである。だがその時、異変が起きた。


 倒れた個体の体が光り始めた。青白い光である。

 広場の術式と同じ色の光が、個体の外皮の内側から漏れ出した。

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