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18話 中間評価

「惜しいっ!」


 そう言うとルシアは再び走った。振り返る。構えて撃つ。中央から三センチ。


「もう、一回だ!」


 彼女の訓練光景を眺めつつ、腕を組みレオンハルトは指示を飛ばす。

 ルシアは頷いてから再び走った。振り返り、構え、撃つ。今度は中央に命中した。

 彼女は息を荒げながら足を止める。銀灰色のポニーテールが揺れた。青銀色の瞳が的を見る。


「……当たった」

「もう一度やれ。一回は偶然かもしれない」

「……は、はいっ!」


 乱れた息遣いを強引に抑えると、ルシアは再び駆け出す。振り返り、構え、撃つ。

 再び中央に当たった。三回目も中央に命中したのである。


「ふむ、習得したな」


 少し間を置いてから、レオンハルトは呟く。短い言葉だ。


「教官……今、習得したって言いましたね?」


 彼の言葉を受けた瞬間、ルシアの表情が変わる。


「ああ、確かに言った」

「……初めて言って貰いました、そういう言葉」

「事実を言っただけのこと」

「それでも嬉しいです!」


 春の光の中でルシアの頬が上気していた。

 豊かな胸部が、深く息を吸い込んで、それから静かに吐く。白い首筋に汗が光っていた。


「浮かれるな、次の課題を言う」

「はいっ!」

「百五十メートル、移動しながら撃て」

「……また上がりましたね」

「成長したから上げる。以上だ」


 右手を大きく振りながら、レオンハルトは新たな課題を与える。

 そしてバディ連携の確認訓練は、その日の午後に行われた。ルシアとイリスの組み合わせだ。


 四ヶ月間、二人は互いの動きを観察し、パターンを把握し、干渉を減らしてきた。

 今日の課題は、実戦形式の模擬戦。レオンハルトが怪異役を担う。全員が中庭に出た。


「始めるぞ」


 そう言いながらレオンハルトが動く。速かった。

 訓練での動きより明らかに速い。実戦の速度域に近い動きだ。イリスが前に出る。


 双刃曲刀が交差した。レオンハルトの動きを引きつける。ルシアが後退しながら構えた。

 イリスが右に流れると、ルシアの照準線が開き引き金を引く。レオンハルトが止まった。


「当たった!」

「胴体に二発。脱落条件を満たした。……ふっ、連携が噛み合ったな」


 小さく息を吐き捨てるイリス。


「はい、噛み合いましたね! 考えずとも、イリスさんが動く前に、次の位置が分かりました!」


 満面の笑みを晒しながら、ルシアが銃を下げた。


「アタシも、ルシアの照準がいつ通るか、考えなくても分かった」

「それが完成した連携だ。評価する。この組み合わせは実戦で機能する。それを、お前達は証明した」


 二人の顔を交互に見ながら、レオンハルトは素直に褒める。

 イリスの金色の瞳が細くなった。尻尾がコートの内側で一度、強く振れる。

 ルシアは少し目を赤くした。泣きはしない。ただ口元が小さく上がった。


 そして翌週、班対抗訓練が行われる。今回の設定は人質救出だ。

 廃区画の特定の建物に設置された旗を、相手班より早く回収する。一班対二班、最後の対戦形式だ。


 カイルが二班を率いていた。この四ヶ月で、カイルの指揮は洗練されている。

 感情で動く癖が減り、状況を見て判断する時間が、取れるようになっていた。


「二班は前回、分散包囲を使いました。今回も同じ戦術を使う可能性があります」


 作戦会議の場で、リゼットが地図を広げる。


「同じ手を使ってくると思うか?」


 レオンハルトが聞いた。


「カイルは学習します。前回と同じではないはずです。しかし、分散の癖は残る。それを逆手に取ります」

「具体的に言え」

「二班が分散した瞬間を狙います。分散中は連携が薄くなる。その隙にルシアとイリスで中央を突破。私が二班の動きを観測して、分散のタイミングを伝えます」

「ブリュンヒルダとマリアンヌは?」

「囮です。正面から圧力をかけて、二班の注意を引きます。セレスティアは術式で、二班の視界を一時的に阻害します」


 作戦の内容を全員に説明するように、リゼットは落ち着いた声で話す。そして全員が地図を見た。


「やれるか?」

「やりますッ!」


 力強い頷きを見せるリゼット。そして模擬戦が始まった。リゼットの観測が機能する。


「今です!」


 二班が三方向に分散した瞬間、彼女(リゼット)が声を出した。

 ルシアとイリスが中央を走る。二班の前衛が、セレスティアの術式で視界を失う。


 ブリュンヒルダの圧力で後退した。その間に中央が空く。イリスが目標の建物に先着した。

 旗を回収する。制限時間まで、十五分残っていた。結果発表の後、カイルが一班の前に来た。


「完敗だ。視界阻害は、全くの想定外。分散する前に対策すべきだった」


 清々しいほどに、爽やかな表情のまま、カイルが口を開く。


「次は対策してくるんだろ?」


 淡々とした口調でイリスが返す。


「ああ、当然だ。だが今日は負けた。それは素直に認める」

「それでいい」

「ヴォルフェン、お前との一対一、まだ申し込みは有効か?」


 カイルはイリスを見た。


「当然、有効だ」

「来月、申請する。覚悟しておけ」


 そう言うとカイルは二班の元へと戻る。


「カイルの野郎、成長していやがるな」


 小声でブリュンヒルダが言った。そして翌日、ヴィクトリアが一班全員を呼びつける。

 区隊長室は本部棟の二階にあった。石造りの部屋、天井が高く、窓が大きい。

 執務机の上に書類が整然と並んでいる。壁に王都の地図と番犬団の階級表が貼られていた。


 ヴィクトリアが、一班の前に立つ。

 漆黒のポニーテールが背中に流れており、深い琥珀色の切れ長の瞳が全員を見渡した。

 黒と深紅の軍装が室内のランプの光を受け、長い黒コートの裾が床に触れている。


「四ヶ月の訓練期間の中間評価を行う」


 全員の顔を見渡しながら、ヴィクトリアは重厚な声を放つ。全員が一斉に前を向いた。


「一班は教育隊の中で最も連携完成度が高い。個人の適性と集団行動の両立ができている。この段階での評価としては十分だ」

「「「ありがとうございます!」」」

「礼は早い。これは現状の評価だ。今後の課題がある。各自に実戦装備の強化を認可。標準支給品から個人適性に合わせた装備への切り替えを許可する。武器庫での選定を来週中に行え」


 腕を組みながらヴィクトリアが全員を順番に見た。


「……実戦装備の、強化ですか?」


 細い声でルシアが呟く。

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