7話 教官同伴での外出
「なんだ、全員で来たのか?」
「一班として外出する際は、教官同伴の申請をするよう言われたので」
リゼットが代表して言った。
「六名、これで全員か?」
「全員です。一人でも欠けると班として動けません。ちなみに男性たちは宿舎で、ポーカーをやるそうで待機です」
「ふん……理屈が正しい」
そう言うとレオンハルトは机から立ち上がる。黒の狩人外套を羽織り、腰に夜哭きを下げた。
「よし、行くぞ」
女性たちを引き連れて彼は歩き出す。そのまま本部の門を出て、王都の目抜き通りに進む。
日曜の昼、市場が賑わっていた。食料、布地、道具、怪異の体組織、様々な屋台が並んでいる。
市民が行き交い、石畳に足音が重なっていた。一班が通りに出た瞬間、変化が起きる。
さりげなく市民が道を開けた。視線が向く。狩人外套を着た一団を見て、表情が変わった。
「あの外套、番犬団だ……」
「ありゃぁ、新人だろ? 随分と若そうだな」
「でも、外套を着てる。もう前線に出てるんじゃないか?」
通りがかった男二人が、小声で会話を交わす。
「見られてますね」
レオンハルトに、小声でルシアが言った。
「外套を着ている限り常に見られる。慣れろ」
「慣れる方法はありますか?」
「前を向いて歩くことだ」
正面を向きながら、淡々と足を進めるレオンハルト。
最初に立ち寄ったのは、市場の端にある武器屋だ。
石造りの建物の一階に構えており、外壁に各種の武器が展示されている。
剣、槍、短刀、銃。店の内部は天井が高く、壁に沿って棚が並んでいた。
武器の金属の臭いと油の臭いが混じり、武器整備室と似た空気が漂う。
「おや、番犬団の新人さんか。こりゃぁ、珍しい。いつもは古参しか来ないからねぇ」
店主の老人が、一班を見て目を細めた。
「見学させてもらえますか?」
柔らかな口調で、ルシアが尋ねる。
「勿論だとも。無断で触らなければ自由に見ていい。ただし――――」
そう言いながら老人がレオンハルトを見た。
「あ、あなたは……確か……黒獅子の方ですか?」
「ああ、そうだ」
「……やはり。王都奪還の夜、家族が助かりました。本当に、ありがとう。礼を言う機会がなかった」
深々と頭を下げる老人。
「礼は必要ない。仕事だった」
少し間を置いてから、レオンハルトは返す。
「例え仕事でも、貴方の助けが無ければ今の店はなかった。新人さんたち、素晴らしい教官に恵まれたねぇ」
微笑ながら老人は、一班の女性たちへと、温かな眼差しを注ぐ。
するとルシアが老人とレオンハルトを交互に見た。
一方でブリュンヒルダが、陳列された巨槌を見つめている。
「これ、触ってもいいか?」
「番犬団の御方なら、お好きに」
「ふむ……ドレッド・バシリカの方が重いな」
ブリュンヒルダが槌を片手で持ち上げた。上下に腕を動かして、念入りに重量を確認している。
全員が武器屋で様々な物を見て満足すると店を出て、今度は市場の中ほどにある食料の屋台を見て回った。
「これは、上層区でしか見られない種類ですわ。このような場所にも、ございますの?」
干し果物の屋台の前で、徐にセレスティアが立ち止まる。
「ああ、市場には何でもある」
愛想のない干し果物の店主が静かに口を開く。
「おいくらですか?」
「銀貨二枚」
「上層区でしたら五枚はいたしましたわ。随分とお安いのですね」
小さき鞄から、動物の革を使用して作られた、高級な財布をセレスティアが取り出した。
「流通の違いだ」
「上層区は仲介が多い。ここは直接買い付けなので安い。合理的な消費をするなら市場の方が正しい」
人差し指を立たせて、横からリゼットが得意気に語る。
「わたくし、いつも上層区で購入しておりましたから、存じ上げませんでしたわ」
「世間知らずなのです」
「……リゼット、もう少し言い方というものが」
「事実を言っています」
「ですが、配慮というものがございますでしょう?」
「改善します」
淡々と返すリゼットの表情は、真顔のままで何一つ崩れない。
昼食は目抜き通りから、少し入った場所にある酒場『灰爪亭』で取った。
外壁は煤けた赤茶色の煉瓦積みで二階建て。看板の下に番犬団の紋章が描かれている。
窓から橙色の光が漏れており、扉を開けると煙草の煙と食事の臭いが迎えた。
一班とレオンハルトが入ってきた瞬間、酒場が少し静かになる。
「番犬団だ。……あれ、黒獅子じゃないか?」
カウンターに居た常連らしき男が振り返り、レオンハルトを見て立ち上がった。
「本物か?」
「外套が違う。あの黒さは古参だ」
酒場で飲んでいた数人が振り返る。
「番犬団の方、奥のテーブルをどうぞ。新人さんたちも。番犬団の方々には、常日頃からお世話になっているので、料理は全て半額にしております」
軽い身のこなしで、素早くカウンターの奥から、店主が飛び出してきた。
「そ、そうなんですか……?」
突然の勢いに、圧倒されているルシア。
「王都奪還の時、うちの店が残ったのは貴方たちのおかげです。だから当然の事をしているだけです」
そう言うと店主は、レオンハルトたちを奥のテーブル席へ、丁寧に案内する。
そして、一班が奥のテーブル席へと腰を落ち着かせた。
「ほんと、すごいですね。どこに行っても」
イリスに小声で、ルシアが話し掛ける。
「……複雑だ」
「えっ?」
「アタシは番犬団の服を着ていても、獣人だから普段は冷たくされる。……でも、今日は違う。黒獅子が隣にいるからだ」
「……それは」
「別に怒ってない。ただ複雑だと思っただけだ」
「……でしたら! あなた自身の実力で、そういう扱いを変えてやりましょうよ!」
少し考えた末にルシアは、人差し指を立たせて笑みを晒す。
「ふっ、随分と簡単に言ってくれるな」
鼻で笑うように軽く返すと、そのままイリスは前を向いた。
尻尾がコートの内側で一度、静かに揺れる。やがてテーブルに料理が運ばれてきた。
黒麦のパン、厚切りの肉と野菜の煮込み、濃いスープ。
普段の食堂での食事より、格段に量が多く香りがある。
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