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4話 教官の身の上と幼馴染

「……それで、教官はどうなんですかね? 教官が狩人を目指した理由、知りたくないですか?」


 話題の矛先を、急に変えるように、リゼットが呟く。


「ああ、知りたい」

「そう言えば、聞いたことないな」

「聞いても答えないと思いますよ」


 肩を竦めながらルシアが言い放つ。


「聞いてみましょう。最悪、答えてくれなくてもいいですし」


 真顔のままリゼットは淡々と話すが、その声は僅かに弾んでいる。すると全員が顔を見合わせた。


「誰が聞きに行くんですか……?」

「ルシアさんが行けばいいと思います」

「なんで私なんですか!?」

「あなたが一番話しかけやすい雰囲気を作れます」

「それは褒めてるんですか……」

「はい、褒めています」

「……分かりましたよ。はぁ……行ってきます」


 少し間を置いてからルシアは返すと、仲間に背を押されるように席を立つ。

 そして彼女は足を進めて、教官室の前に着くと扉を軽く叩いた。


「入れ」


 短く端的に返すレオンハルト。ルシアが扉を開けた。彼が自分の席に座っている。

 黒珈琲のカップを持ち、書類を見ていた。

 漆黒色の前髪が目元まで垂れており、血紅色の瞳がルシアを見た。


「何だ?」

「少し……聞いてもよろしいでしょうか?」

「用件を先に言え」

「教官が狩人を目指した理由を聞きたいと思いまして……」

「ふむ、なぜ聞きたい?」


 レオンハルトはルシアを見た。一秒、二秒。


「みんなで話していて。それぞれの理由を話したので、教官のことも知りたいと思いました」

「それは必要な話か?」

「必要かどうかというより……知りたいんです。教官のことを、もう少し」

「番犬団に拾われた。選択肢がなかった。以上だ」


 カップを机上へと静かに置くレオンハルト。


「それだけですか?」

「ああ、それだけだ」

「もう少し……」

「お前たちが知る必要はない」

「……教官、怒ってますか?」


 扉の前でルシアは少し止まった。


「怒っていない」

「……なら、いつかもう少し話してくれますか?」

「さっさと部屋に戻って眠れ」


 レオンハルトは彼女へと鋭い視線を向ける。するとルシアは慌てて教官室を出て扉を閉めた。

 食堂に戻ると、全員が結果を待っているようで、表情が緩んでいたり白い歯を晒したりしている。


「どうだった?」

「番犬団に拾われた、選択肢がなかった。それだけ言ってくれました」

「そ、それだけ……」

「はい、それだけです」


 表情を凛とさせたまま、小さく頷いてルシアは返す。テーブルが少し静かになった。


「……でも、本気では怒ってなかったです。いつか話してくれるかもしれません」

「その根拠は?」

「……私の勘です」

「とても非合理です」


 リゼットが呟く。しかし、彼女の口元は少し上がっていた。

 そして翌日の昼休み、食堂に二班が入る。


「明後日の班対抗、また一班と当たるって聞いたぞ」


 一班のテーブルの近くに来て、カイルが立ったまま言った。


「そうみたいですね」


 冷静にリゼットが返す。


「今度は負けない。絶対にだ」

「そう思うなら、今のうちに対策してきては?」

「お前に言われるまでもない。既に対策済みだ」

「では、当日まで楽しみにしています」

「ヴォルフェン、お前に一対一を申し込みたい。いつかやらせてもらえるか?」


 一班のテーブルを一度見渡して、カイルはイリスに目を向けた。


「ああ、いつでも」

「覚えておく」


 そう言うとカイルが、二班のテーブルへと戻る。

 イリスは前を向いたまま、尻尾がコートの内側で一度、力強く振れた。


 そして夕方、訓練棟の廊下でリアがレオンハルトを捕まえる。

 月光色の教官装備、淡い銀金色のハーフポニーテール。薄い蒼銀色の瞳が、少し鋭い光を持っていた。


「二班の今週の訓練評価、置いといたけど読んだ?」

「ああ、全部読んだ」

「そう、なら分かってるわよね。カイルが変わってきてる。指揮を正し学び、一班と互角になってきた」

「ふん、一班も変わっている」

「どっちが上だと思う?」

「今は引き分けだな」

「へぇ、私はそう思わない。二班の方が、状況対応力が上がってきている」

「一班は連携の完成度が上がっている。それで補っている」

「どっちの班が実戦で生き残ると思う?」

「両方生き残らせるのが俺たちの仕事だ」


 少し間を置いてから、レオンハルトは答えた。


「それは答えになってない」

「答えを求めている質問じゃないだろ」

「……あなた、最近一班に距離を置きすぎてない?」


 リアは少し唇を引き結んだ。


「距離は適切だ」

「ノクターンが懐いている。それは見えているでしょう?」

「ああ、見えている」

「放置するの?」

「放置ではない。適切な距離を保っている」

「その適切が冷たすぎると言っているの」

「お前には関係ない」

「ある。あなたの班の状態は訓練全体に影響する」

「お前は自分の班の心配をしろ」


 リアに若干の睨みを利かせるレオンハルト。


「勿論よ、あなたに言われるまでもない。ただ私は、あなたの心配もしてる」

「必要ない」

「十年以上、そう言い続けてる」

「十年以上、必要なかった」

「……班対抗、手を抜かないでよ。まあ、私の二班が勝つのは決定事項だけども」


 少し間を置いてから、リアは煽るように口元を緩めた。


「お前は勝ちたいのか?」

「当たり前じゃない。私は負けず嫌いなの。知ってるでしょう?」

「ああ、知っている。十年以上、知っている」

「なら気合いを入れなさい」


 そう言うとリアが廊下を歩き去る。外套の裾が揺れた。レオンハルトは、その背中を一秒だけ見る。

 それから廊下を歩き出した。夜の鐘が、遠くで鳴り始めている。

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