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22話 次は負けない

「分かれましたね。ルシア、側面の三人を止めてください。正面は引き込みます」


 窓から様子を伺いながら、リゼットが通信魔法を使い指示を出す。


「了解です!」


 そう言うとルシアは、側面に回る三名の先頭を狙う。

 雪の中を走っている。動く目標だ。風が左から来ている。

 一発目、先頭の候補生の肩に命中。


「肩、使用不可」


 命中箇所を見て報告しながら、先頭の候補生が動きを変えた。しかし、その足が止まることはない。


「思ったより効いてないですね……」


 相手の状況を見据えながら、ルシアは小言を吐く。そして二発目、同じ候補生の腕に命中。


「腕、使用不可。一名、実質戦力外」


 腕を見ながら自己申告を行い、二班の候補生は真顔のまま速やかに、その場から離れる。

 そして、二班は残り二名が散った。正面では、カイルが廃屋の入口に近づいている。

 するとイリスが物陰から飛び出た。


「よぅ、来いよ!」


 廃屋の入口に向けて走り込みながら、彼女は好戦的な笑みを晒す。

 二班の一名が、イリスを追う。廃屋の入口に入った瞬間、彼女が横に跳んだ。


 追ってきた二班の候補生が、ブリュンヒルダの視界に入る。彼女が槌を振るう。

 模造槌が廊下の壁に当たり、石の破片が飛ぶ。二班の候補生が咄嗟に後退した。


「当たってないぞ」

「壁を割ったんだ。へへっ、そっちに行けなくしてやったぜ」

「……ちっ」


 二班の候補生が退路を確認する。確かに壁の破片が、通路を半分塞いでいた。


「ヴォルフェン、もう一人来ます」


 通信魔法を使用して、リゼットが声を届ける。イリスが二階への階段を駆け上がった。

 そして追ってきた二班の候補生の前に、マリアンヌの盾が堂々と展開される。


「ここは通れませよ!」


 それは穏やかな声だ。マリアンヌの盾は、廊下の幅いっぱいに展開され、正面突破の隙間がない。

 二班の候補生が横から崩そうとした。しかし、マリアンヌが盾ごと動く。

 槍の穂先が二班の候補生の胴体を突いた。模造槍の鉄芯が当たり、候補生が後退する。


「一、胴体一発です」


 凛とした声を出しながら、彼女は報告を口にした。そして、ついにカイルが廃屋の中に踏み込む。

 だが正面には、セレスティアが立っていた。淡いプラチナブロンドの髪が、ランプのない薄暗い廃屋の中で、窓から差し込む雪の光を受けて白銀に輝いている。


 深い紫銀色の瞳が、柔らかな微笑みを浮かべて、カイルを見ていた。

 胸元の聖血魔術回路が微かに光る。


「はじめまして、一班のセレスティアですわ」

「……邪魔をするな」


 カイルがレイピアを構えた。


「それは無理な、お願いですわね」


 不敵な笑みを浮かべて、セレスティアもレイピアを構える。そして二人のレイピアが交差した。

 だが、カイルの方が体格が上で力で押せる。対してセレスティアは半歩下がった。

 しかし下がりながら、カイルの剣の軌道を逸らす。反撃の刺突が、カイルの側面を突いた。


「胴体、一発ですわ!」

「くそっ……! だが、まだ動けるッ!」

「もちろんですわ。あと、一発ですの」

「うるせぇ! くらいやがれぇぇぇぇえ!」


 叫びながらカイルが、怒涛の勢いで踏み込んだ。しかし、セレスティアが優雅に横に流れる。

 カイルの動きが一瞬遅れた。その間にイリスが、二階から降りて来る。

 双刃曲刀が交差した動きで、カイルの背中を二本同時に直撃させた。


「背中、胴体二発。脱落ですわね」


 まるで付着した血を振り払うように、レイピアを手元で巧みに回すセレスティア。


「……この俺が……負けた……だと」


 握り締めていたレイピアを地面に落とすと、カイルは呆然とした態度を晒して動きを完全に止める。

 そして模擬戦の結果は、一班の旗防衛成功で終わりを迎えた。


 制限時間まで旗は守られたのである。二班は旗のある二階に辿り着けなかった。

 両班が外縁区域の中央に集まる。雪が降り続けていた。全員が防具を外し、白い息を吐いている。


「結果は一班の防衛成功だ。以上!」


 腕を組みながら全員の前にガレスが立つ。


「以上……だけですか」


 カイルが言った。


「なんだ? 何か言いたいことがあるなら今言え」

「……一班が勝ったのはフォーメーションと罠のおかげだ。俺達は実力で負けたわけじゃない」

「お前は、フォーメーションと罠を組める班が、弱いと思っているのか?」

「……っ”!」


 カイルは口を閉じる。


「フォーメーションは実力だ。罠は頭の実力だ。お前が言っている実力とは何だ? 個人の武器の強さだけか?」

「……違います」

「では何が足りなかったか、自分で考えろ。それが次に繋がる」


 そう言うと足を進めて、その場からガレスは退いた。


「これより、今回の模擬戦の評価を伝える」


 レオンハルトが一班の前に立つ。全員が前を向いた。


「連携は機能した。各自が役割を理解して動いた。それは良い。ただし、問題が二つある」

「どこですか?」


 即座にリゼットが聞いた。


「ノクターンの狙撃は、一名を実質排除した。しかし、残り二名を仕留められなかった。そこで殺れていれば、側面からの圧力が更に下がっていた」

「もう少し……速く撃てれば……」

「速さじゃない。予測だ。散る前に次の動きを読め」

「はいッ!」

「二つ目。ヴォルフェンが廃屋に引き込む動作の際、出口を一つ残しすぎた。逃げ道を残すことで、相手に選択肢を与えた。詰める場面では完全に詰めろ」

「……分かった」

「以上だ。全員、良くやった」


 そう言うとレオンハルトは表情を僅かに緩める。その短い言葉を全員が受け取った。


「なぁ、おい今の聞いたか? あの無愛想な教官が、アタシたちに良くやったって言ったぞ」


 小声でブリュンヒルダが呟く。


「ああ、聞こえてる」

「へっ、照れるなよ」

「照れてない」


 真顔のままイリスは返すが、尻尾だけは左右に揺れていた。


「……次は負けない」


 二班の仲間たちに向けて、カイルが低い声で言う。

 だが彼の声は一班の所まで届いており、それを聞いてイリスが前を向いた。


「聞こえてる」

「聞こえてるなら答えろよ」

「次は負けるなよ。張り合う相手は強い方がいい」

「……お前、獣人なのに大した口を利く奴だな」


 一秒だけ黙ると肩を竦めながらカイルは返す。

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