↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/47

21話 模擬戦

 ――そして訓練が始まり五週間目の朝、雪が降った。

 王都に今季初めての雪。夜明け前から降り始めた細かい雪が、中庭の石畳を白く覆っていた。

 空は灰白色で、雪雲が低く垂れ込めている。雪粒は細かく、風が吹くたびに横に流れた。


 街灯の橙色の光が、雪の白さの中に滲んでいる。

 石畳の黒ずんだ赤茶色が雪に隠れ、中庭が珍しく清潔な白に見えた。


「今日の午後、班対抗の模擬戦を行う」


 午前の号令を終えた後、ガレスが両班の前に立つ。中庭が静まった。


「場所は訓練区画の外縁区域だ。一班対二班。各班が攻撃側と防衛側に分かれ、旗の奪取を目標とする。旗を先に奪った班が勝ちだ。木製の模造武器を使う。だが模造武器とはいえ芯は鉄だ。防具を着けろ。それでも骨折の可能性はある。手加減の必要はないが、殺すな」

「……本気でやっていいのか?」


 カイルが言った。二班の前列、体格のいい二十歳の男である。


「手加減した方が怪我をする。本気でやれ」

「よっしゃ! 日頃の訓練のストレスを発散させてやるぜ!」


 そう言うとカイルは、隣の者と目を合わせた。

 一班の方では、イリスの尻尾がコートの内側で一度、鋭く振れる。


 そして午前の残り時間で、各班が作戦を立てた。

 一班は訓練棟の隅の部屋に集まる。石造りの小部屋で、窓から雪の降る中庭が見えた。

 全員が輪になり向き合う。


「どっちが攻めるんですか?」


 ルシアが聞いた。腰まで届く銀灰色の髪をポニーテールに纏めており、青銀色の瞳が前を向いている。


「くじで決まった。一班が防衛側だ」


 扉の外からレオンハルトが言った。全員が一斉に振り返る。


「作戦立案に俺は口を出さない。ただし、訓練の安全管理のため同行する。以上だ」


 腕を組みながら、淡々とした口調で、レオンハルトが告げた。

 すると全員が小さく頷いて話題を作戦へと戻す。


「防衛側なら、まず旗を何処に置くかを、決める必要があります」


 リゼットが言った。氷のような青い瞳が、頭の中で地図を展開しているような動き方をする。


「訓練区画の外縁区域の地図は貰いました。石造りの廃屋が三棟、開けた広場が一つ、木が数本。旗を置くのは廃屋の二階が最適です。外縁が壁で守られており、侵入経路が限定される」

「でも籠城すると動きが取れなくなりますわね」


 冷静にセレスティアが言った。


「籠城じゃなくて罠です。侵入経路が限定されるということは、来る方向が分かるということです。待ち構えられる」

「それいいな! まあ例え、正面からぶつかったとしても負けはしないが、頭を使った方が面白い!」


 豪快に右腕を回しながら意気揚々と、ブリュンヒルダが口を開く。


「ブリュンヒルダさん、罠の設置と突撃、どちらが得意ですか?」


 穏やかにマリアンヌが聞いた。


「そりゃぁ、もちろん! 突撃だッ!」

「では、突撃役でいきましょう。敵を中に引き込んで、そこにブリュンヒルダさんを当てる。そして、私が後ろを守る」

「誘い込むのは誰がやる?」

「速い人がいいですわね」


 手を自身の顎下に当てながら、セレスティアは呟く。すると全員の視線がイリスに向いた。


「……アタシか」

「金色の目は暗闇でも見える。廃屋の中なら有利でしょう」

「……わかった、やる。だが誘い込む前に、外で一体仕留めていいか?」

「仕留める機会を伺いつつ、中に引き込むなら構いません」

「では、ルシアは外から狙撃できる位置を確保してください。二班が分散しようとした時に止める役です」

「分かりました。でも雪で風が読みにくいかも……」

「何発か試し打ちする時間を取ります」

「リゼットは?」

「全体の状況把握と、展開が崩れた時の修正です。未来視は短距離なので、中の戦闘に割り込む形が効率的です」


 視線を全員に配りながらリゼットは自身の魔眼、時間断層視(クロノ・スリット)のことを絡めつつ話しを纏める。そして全員が同時に顔を見合わせた。


「……ふん、まとまってるな」


 静かにイリスが吐き捨てる。


「当然です。まとまっていないと負けるので」


 平坦な口調で、リゼットが返す。そして午後の一つ時、訓練区画の外縁区域に、両班が集まる。

 雪は降り続けており、地面に五センチほど積もっていた。足跡が残る。

 隠れる場所も、動いた跡も、雪が全て記録した。


 廃屋の石造りの外壁は雪を吸わず、白く縁取られている。

 空気は一段と冷たく、吐く息が白い霧になって消えた。


「ルールを確認する。今回の模擬戦は、旗の奪取を目標とする。模造武器で相手を当てた場合、その部位は使用不可とする。胴体に二発当てられた場合は脱落とする。教官は監視のみで介入しない。制限時間は一時間だ。では、防衛側は先に配置につけ」


 両手を自身の腰に当てながら、両班の前にガレスは立つと、張りのある声を響かせる。

 そして、一班が一斉に走り出して、廃屋へと向かう。

 廃屋は三棟が近い距離で建っており、中央の棟が最も大きかった。


 二階建てで、石造りの壁の一部が崩れているが、構造は保っている。

 内部は木の床が軋んでおり、窓の枠が外れかかっていた。

 かつて何かの倉庫だったと思われる痕跡がある。一班は中央棟に旗を設置した。


 二階の奥、窓のない壁際である。ルシアは廃屋から離れた雪の積もる石垣の上に伏せた。

 七十メートルの距離を確保できる位置だ。彼女はルナ・リボルバーを構え、風の方向を確認する。


「雪で風が変わる。前髪で読む」


 自分に言い聞かせるようにルシアは呟いた。イリスは廃屋の外、物陰に隠れた。

 金色の瞳が雪の白さの中で光る。尻尾がコートの内側で静止していた。


「……来る」


 低い声でイリスは呟く。ブリュンヒルダが廃屋の中で槌を構えた。廊下の角を曲がった先、入口に向けて。マリアンヌが二階の階段口で盾を構えた。リゼットが窓の割れ目から外を確認する。


 セレスティアは中央に立ち、レイピアを抜いていた。二班が動いてきたのは、五分後のことである。

 カイルを先頭に、九名が二手に分かれていた。六名が正面から、三名が側面から回り込む動きだ。

最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。

宜しければ評価とブックマーク登録をお願い致します。

活動の励みとなり更新が維持出来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。