最強のパッシブスキル『神の寵愛(強制)』
大聖堂での「唾吐き事件」から数日。
普通なら大逆罪で市中引き回しの上、獄門行きのはずが、今の俺の扱いは「生き神様」だ。歩くだけで人混みが割れ、民衆が五体投地で平伏する。
そして、あのポンコツ女神が授けてくれた「神の力」が、俺のドM人生を完膚なきまでに破壊しに来ていた。
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固有スキル:【神の寵愛(常時発動)】
効果1:全状態異常・全ダメージを『祝福』へと変換する。
効果2:半径100メートル以内の敵意を持つ者に『猛烈な罪悪感』を与える。
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「変換しなくていいんだよぉぉぉ!!」
俺は王城の庭で、絶望の咆哮を上げた。試しに自分の頬を思い切り叩いてみた。普通なら「パチン!」と小気味良い痛みと赤みが走るはずだ。
だが、俺の拳が頬に触れた瞬間、パァァァ……と聖なる光が溢れ出し、肌がつやつやのプルプルになった。ダメージが回復魔法に変換されやがった。とても30代のハリツヤじゃねえぞ。
「サ、サトー様……! 自らの体を打ち据えることで、我ら騎士たちの『怠慢』を身に受け、代わりに癒やしを与えてくださるなんて……!」
周囲で見ていた騎士団員たちが、光の余波を浴びて「腰痛が治った!」「長年の古傷が!」と泣き叫んでいる。
「どいつもこいつも……ッ! 誰か、誰か俺を本気で殺す気でかかってこい! アイリス! お前ならできるだろ! あのムチをもう一度……!」
俺は藁にもすがる思いで、隅で見守っていたアイリス王女に駆け寄った。だが、アイリスは顔を真っ青にしてガタガタと震えている。
「む、無理よ……。あなたに近づくだけで、自分がどれだけ卑しい存在か突きつけられている気分なの……! あなたを傷つけようとするなんて、赤ん坊を階段から突き落とすような罪悪感が襲ってくるのよぉ!」
これが効果2。敵意や攻撃心(Sっ気のある感情も含むらしい)が、自分自身への強烈な精神的なダメージとなって跳ね返る仕様らしい。
俺を攻撃しようとする奴は、全員「自分なんて生きていてごめんなさい」という鬱状態に陥るのだ。
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「詰んだ……。完全に詰んだぞ……」
俺は城のバルコニーで、遠くの魔王城(と思われる不気味な山)を眺めていた。この世界は狂っている。
最弱でいたいのに最強。蔑まれたいのに崇拝。俺が「死にたい」と言えば「死を超越した悟り」と解釈され、自分を「ゴミ」と称せば「世界の真理を突いた謙遜」と崇め奉られる。
その時。バルコニーの影から、不穏な黒い霧が立ち上った。
「……見つけたぞ。神に愛されし忌々しき勇者よ」
現れたのは、カーミラをも凌ぐ禍々しい魔力を放つ、鎧の騎士だった。
「魔王軍第一部隊長、虐殺公・ゼノンだ」
騎士は罪悪感など微塵も感じさせない、冷酷な鉄の意思を宿した瞳で俺を睨みつけている。
(……これだ。こいつなら、女神の加護すら突き破って俺をボコボコにしてくれるかもしれない!)
「待っていたぞ、魔王軍! さあ、俺のこの無防備な体に、お前の自慢の必殺奥義を叩き込んでくれ!」
俺は両腕を広げ、無防備な胸を差し出した。ゼノンはフンと鼻で笑い、漆黒の大剣を振り上げた。
「潔いな。ならば望み通り、その傲慢な魂ごと、塵に返してくれよう……! 『絶望滅殺・終焉斬』!!」
漆黒の斬撃が、俺の首筋目がけて真っ直ぐに放たれた。来る! ついに、女神の自動回復すら追いつかない一撃が――!
ガキィィィィィン!!
凄まじい衝撃波が王城を揺らす。だが、俺の首に当たった大剣は、俺の肌を傷つけるどころか、激しい火花を散らして粉々に砕け散った。
「なっ……!? 私の魔剣ドンドルドが……砕けただと……!?」
見れば、俺の首筋にはキラキラと輝く虹色のエフェクトが舞っていた。
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変換成功:極大ダメージを『極上のマッサージ効果』へと変換しました。
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「あああああ……肩こりが……長年苦しまされた肩こりが一瞬で消えたぁぁぁ……。って、ちがーう!ふざけんなよぉぉぉ!!」
俺は極上のリラックス感に身を震わせながら、あまりの理不尽さに涙を流した。一方のゼノンは、自らの最強の剣を粉砕された衝撃と、俺の涙(悲しみの)を見て、愕然と膝をついた。
「バ、バカな……。私の全力の攻撃を……マッサージだというのか……。しかも、敗北した私を罵ることもせず、ただ静かに『この程度の攻撃しかできないのか』と悲しみの涙を流すとは……」
「違う! これは悔し涙だ!」
「……完敗だ。勇者サトー。貴殿の絶望的なまでの『強さ』、このゼノン、骨身に染みたぞ……!」
ゼノンはその場で自害……しようとしたが、俺の周囲に漂う「神の寵愛(強制発動)」のせいで、何度喉を突いても傷が塞がってしまい、結局泣きながら投降した。
こうして、魔王軍最強の騎士は、勇者の「慈悲深い涙」によって瞬時に軍門に降ったという伝説が生まれた。
「俺は……俺はただ、ゴミのように扱われたいだけなんだぁぁぁ!!」
俺の叫びは、もはや人類の勝利を告げる福音として、世界中に鳴り響くのだった。




