表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

最強の聖剣と、神をも恐れぬ大冒涜

 魔王軍幹部のカーミラが泣きながら夜空の彼方へ消え去った翌日。王都は、建国以来の特大のお祭り騒ぎとなっていた。


「聞いたか!? 勇者様が、あの残虐非道な『拷問処刑人』を指一本触れずに浄化されたそうだ!」

「ああ! 自らの体を差し出し、魔族の罪すらも許そうとした底なしの愛に、悪魔すらも涙して改心したらしいぞ!」


 違う。ドン引きして逃げられただけだ。


 ふかふかの天蓋付きベッドで丸まりながら、俺は外から聞こえる民衆の歓喜の声に耳を塞いでいた。唯一の希望だったカーミラ嬢に逃げられ、俺のメンタルはボロボロだった。あの棘のチクチク感、最高だったのに……。


 そこへ、勢いよく部屋の扉が開いた。アイリス王女と騎士団長だ。


「サトー! 素晴らしい戦果ね! お父様――国王陛下と、教皇様があなたをお呼びよ!」


 「さあ、勇者様! 大聖堂にて、あなたに相応しい『最強の力』が授与されますぞ!」


 最強の力?

 

 嫌な予感しかしない俺は、騎士団長に両脇を抱えられ(STR1なので振りほどけるわけもなく)、王都の中心にある巨大な大聖堂へと連行された。


 ◆


 ステンドグラスから神々しい光が差し込む大聖堂。

 祭壇の前には、国王と、豪華な法衣に身を包んだ白髭の教皇が待ち構えていた。


「おお……よくぞ参られた、真の聖者よ」


 教皇が震える手で、祭壇の上に安置された一つの木箱を開ける。中に入っていたのは、眩い光を放つ一本の美しい剣だった。


「これぞ、建国より伝わりし伝説の武具。持つ者に無限の力と、あらゆる敵を一撃で葬る覇気を与える『聖剣デウスエクスマキナ』です。さあ、勇者様。この剣を振るい、魔王軍を滅ぼしてくだされ!」


 周囲の神官や騎士たちが、固唾を呑んで見守っている。


 冗談じゃない。

 

 そんなチート武器を持たされてたまるか。敵を一撃で倒せる? つまり、俺が攻撃される前に戦闘が終わってしまうということだ。そんなことドMに耐えられるわけがない。


「……いらねえよ、こんなゴミ」


 俺は冷たく吐き捨てた。さあ、怒れ教皇! 国宝級の伝説の武器をゴミ呼ばわりされたんだ!「この不敬者め! 異端審問にかけろ!」と叫び、俺を火あぶりにでもしてくれ!


 大聖堂が、水を打ったように静まり返る。教皇は目を見開き、プルプルと唇を震わせた。そして――


「ゴ、ゴミ……ッ! 伝説の聖剣すらも、武力でしか解決できぬ『愚か者の道具』だと仰るのですね……!」


「へ?」


「おお、神よ! 見ましたか! 彼は力による支配を完全に否定された! 真の平和は、剣ではなく対話と慈悲によってのみもたらされると! 我らがいかに、力という名の慢心に溺れていたか……!」


 教皇がその場に泣き崩れ、国王までもが「ああ、恥ずかしい! 己の武力を誇っていた自分が恥ずかしい!」と頭を抱え始めた。


「待て! 違う! そういうことじゃない!」


 俺は焦った。このままでは、俺の不敬がすべて聖なる教えに変換されてしまう。何か、誰が見ても絶対に許されない、決定的な大罪を犯さなければ!


 俺の視線の先に、祭壇の奥にそびえ立つ巨大な大理石の彫像が映った。どこかで見たと思ったら、俺を転生させたあの女神の像だ。


(これだ……! 神の像を冒涜すれば、流石のこの世界の連中もブチギレるはずだ!)


 俺は聖剣を無視してズンズンと祭壇を登り、女神像の足元に立った。そして、大きく息を吸い込み、女神像に向かって中指を立てて絶叫した。


「こんな女神、役に立たないクソアマだ! 俺の人生を狂わせた元凶め! ペッ!!」


 俺は女神像の足元に、思い切り唾を吐きかけた。

 

 やった。やってやったぞ。神への最大の冒涜。背後から「ひっ……!」という悲鳴が聞こえた。勝った。これで俺は死刑囚だ。地下牢で毎日ムチ打たれる日々が約束された!


 俺が歓喜の笑みを浮かべて振り返ろうとした、その瞬間だった。


『――ああ……なんという、尊き姿……』


 突然、大聖堂に神々しい声が響き渡った。女神像は眩い光を放ち、その大理石の瞳から、ポロポロと本物の涙が溢れ出したのだ。


「め、女神様が顕現されたぞぉぉぉぉッ!?」

「奇跡だ! 奇跡が起きた!!」


 神官たちが次々と床に額をこすりつける中、女神の声は涙声で震えていた。


『勇者サトー……あなたはあえて泥をかぶり、私のような未熟な神にすら厳しい言葉を投げかけることで、民の神への盲信を戒めようというのですね……。その唾すらも、私にとっては甘露……。あなたのその謙虚さ、愛しています……』


「お前もそっち側かよぉぉぉぉぉ!!?」


 俺を転生させた張本人すらも、ポンコツの勘違い女神だった。俺の絶望の叫び声は、光の粒子に包まれながら大聖堂にこだました。


『勇者サトーの偉大な心構えに敬意を表し、特別に聖剣すら霞むほどの神の力を授けましょう』


「いらねえって!俺は最強になんて、なりたくねーんだよぉぉぉッ!!!」


 この日。俺はついに「勇者」の枠を超え、神にすら愛される『生き神様』として認定されてしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ