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屈辱の「聖王都」入城

 騎士団に無理やり神輿(みこし)のような豪華な馬車に乗せられ、俺は王都へと連行された。本来なら捕虜として鎖に繋がれ、馬に引きずられる展開を期待していたのだが、現実は非情である。


「ああ、見て! あのボロボロの布を纏ったお姿……! まるで世界の苦しみを一身に引き受けておられるようだわ!」

「なんと慈悲深い眼差しなんだ。あの御方に比べれば、金銀財宝を飾る我らはなんと強欲で浅ましいことか!」


 沿道を埋め尽くす民衆が、俺が通るたび道端にひれ伏し、涙を流して祈りを捧げている。

 

 違う。俺が求めていたのは、生卵を投げつけられたり「街を汚すな!」と石を放られたりする、そんな虐げられる光景なんだ。


「……あ、あの、団長さん。一人くらい俺を罵倒してくれる人はいないんですか? 『この無能が!』とか、『死ねばいいのに!』とか」


 隣で馬を走らせる騎士団長に、最後の望みを託して尋ねてみる。すると彼は、目を見開き、感極まったように鼻をすすった。


「くっ……! どこまで我らを試されるのですか! 『悪意を向けてくれ』と自ら仰ることで、我らの中に眠る醜い『差別心』を浄化しようというのですね! おお、神よ……聖勇者サトー様の徳は底がありませんな!」


「会話が成立しねえ……!」


 ◆


 やがて、白亜の城へと到着した俺は、豪華絢爛な玉座の間に通された。そこにいたのは、この国の王……ではなく、小さい体で堂々と座る高慢そうな美少女だった。


 金髪縦ロールに、見下すような冷たい瞳。これだ!これだよ!

 

 彼女こそが、俺を「このドブネズミが!」と罵り、冷たい地下牢にぶち込んでくれる救世主に違いない!


「あなたが、噂の勇者サトーですか……。フン、実に見窄(みすぼ)らしい姿ね」


 王女様が扇子で口元を隠しながら、ツンとした声を出す。キタキタキタ! その蔑むような視線! ゾクゾクするぜ!


「そうです! 俺は最低最悪の無能!クズ!家畜以下! 女王様! 今すぐ口汚く罵るか、せめて奴隷として家畜小屋に繋いでください!」


 俺は最高の笑顔で(ドM特有の粘着質な笑みだが)進言した。

 

 さあ、怒れ! 「私に話しかけるなんて生意気よ!」とか言って、その高貴なつま先で俺をグリグリと踏みつけてくれ!


 だが、今回も俺の想像とは異なり、王女の頬はみるみる朱に染まっていった。


「な、なんてこと……! 王族である私に対し、あえて『自分を痛めつけろ』と言うことで、権力に溺れる私の傲慢さを指摘するなんて……! これが、真に『愛』を知る者の言葉なのね……!」


「……は?」


「わ、分かっています。あなたが求めているのは、甘っちょろい賛辞ではない。……っ。この、……バ、バカ……っ!」


 王女は羞恥に震えながら、消え入りそうな声で俺を「バカ」と呼んだ。すると周囲の家臣たちが、一斉に雷に打たれたように叫んだ。


「素晴らしい! アイリス王女殿下が、勇者様の意図を汲んで『試練』を与えられた!」

「ああ、なんという高度な精神的交流だ! まるで聖者同士の問答を見ているようだ!」


 王女は目に涙を溜めながら、俺の手を両手で握りしめる。


「サトー様……私、決心しましたわ。あなたがそこまで自分を低め、世界のために尽くそうとするのなら……私は、あなたの『妻』となり、その献身を生涯支え続けることを誓います!」


「ちょ……、ふざけんな! 俺の求めてた罵倒は、もっとガチのやつで……!」


「『照れ隠しの拒絶』まで計算通りなのですか……!? ああ、抱いて! 今すぐ私を抱き締めて、その無力さという名の偉大さを教えてくださいませ!」


「……もう、殺してくれ」


 俺の呟きは、「生への執着を捨てた究極の解脱(げだつ)」として宮廷書記官によって金文字で記録された。


 最弱のステータス。なのに、最強の評価。

 

 俺が求めている「ゴミのような扱い」への道は、遠のくばかりであった。

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