第4章 社畜馬、炎上と賞賛
「おい、これ見たか?」
「……社畜馬って、うちの馬じゃねぇか……?」
朝の社内――
シルクステート本社のエレベーター前が、妙なざわつきに包まれていた。
原因は、Twitter(現X)で突如バズった一本の動画だった。
《社畜の鏡!中央競馬界の“シルクの社員馬”が根性の2着!》
「勝てなくても走る」「誰も見てなくても走る」「予算削減されても走る」
→ これもう完全に“会社の犬”ならぬ“会社の馬”だろwww
そこには、先日の阪神で2着に入ったステイゴナファイトの直線映像。
字幕やナレーションが加えられ、まるで社畜ドラマのヒーロー扱いだった。
「この馬、たぶん毎朝定時でトレセン出社してる」
「年功序列どころか実力で上がってくる熱い奴」
「上司(鞍上)に逆らわないけど、言われなくても動く系」
「まさに“ステイゴナファイト”って社名じゃん。抗わずに闘う、それが俺たちの仲間」
リポスト数:3万。
いいね:12万。
YouTube転載:85万回再生。
社内の一部では、笑いながらも画面を見せ合う光景があった。
「……これ、まじでうちの馬?」
「ていうか、なんでこの馬のこと、そんなに知ってるやついんの?」
「誰かが裏でネタ仕込んだとか?」
社内でもっとも驚いていたのは、加賀谷瑛士本人だった。
「……え、ちょっと待って、何が起きてるのこれ」
いつものように早朝の調教リポートを確認していた加賀谷は、突然の着信に気づいた。
「おい加賀谷、お前、Twitterのバズ、見たか?」
相手は広報部の同僚だった。
「いや、まだ……というか、何がバズったんです?」
「“ステイゴナファイト”だよ。お前の馬。完全に“社畜の星”扱いされてる」
加賀谷は呆然としながら検索し、その画面を開いた。
社畜馬。努力の塊。勝てなくても全力。
……自分が数か月前に、ひとりぼっちで信じ続けた馬が――今、笑われながらも愛されている。
(変わってきた……この空気、チャンスだ)
加賀谷はその日のうちに、社内プレゼンを一本仕上げた。
タイトルは――「ステイゴナファイトをブランド資産に」
・現代企業に求められる“共感ストーリー”
・馬が走るだけで社名が拡散されるという広告価値
・不動産事業の堅実さ × 社畜馬の熱さという意外性のPR効果
・ステイゴナファイト=“頑張る誰かの象徴”にできる
「話題のうちに、打ち出すべきです。
我々が“ただの中堅不動産企業”から、“夢を応援する会社”になるきっかけになります」
上層部の反応は半々だった。
が、ひとりの役員が言った。
「この会社には、泥臭くても真っ直ぐなものが足りなかったかもな」
数日後――。
社内イントラネットに、新しいバナーが掲載された。
【社員応援ページ:がんばれ、ステイゴナファイト!】
みなさんの応援メッセージを募集しています!
最初は冗談半分だった。
けれど、総務課の女性が書いた一通から、空気が変わった。
「今日の仕事、うまくいきませんでした。でも“勝てなくても全力で走る馬”を見て、明日も頑張ろうと思えました」
やがて、1通、2通、5通、10通……
社員たちから寄せられる応援と共感の声。
「今の自分と重なります」
「社名、初めて誇れる気がした」
「ステイゴナファイト、ありがとう」
それは、単なる人気馬でも、成績馬でもない――
会社の「気持ち」を背負った“象徴”の誕生だった。
その週末、札幌競馬場・1勝クラス戦。
ステイゴナファイトは――4馬身差の完勝を遂げる。
「社畜馬、昇格。次は重賞か!?」
SNSには、歓喜のコメントが溢れた。
社員食堂のテレビに、そのレース映像が映っていた。
加賀谷は、誰にも気づかれないように、小さく呟いた。
「ありがとう。俺も……走り続けていいかな」
Stay Gonna Fight
社畜だって、夢を見ていい。




