第3章 勝ち上がりへの道
「……掲示板、確保。上出来だ」
中山競馬場・第7レース、1勝クラス(旧500万下)。
ステイゴナファイトは、5着に粘り込んだ。
9番人気。パドック解説は一言も触れなかった。
それでも最後の直線、ジリジリと脚を伸ばし、しぶとく掲示板を確保した。
「前走はフロックじゃない」
加賀谷は、確信に近いものを感じていた。
だが、現実は依然として冷たい。
会社の予算会議で、競走馬部門の“不要論”は続いていた。
「だからさぁ、勝ったって言っても未勝利だろ?こっちは不動産。馬じゃ土地は売れない」
「それよりAI査定システムに投資したほうがリターンあるって」
資料の末尾に「競走馬維持費:年間5000万円」と書かれているだけで、場が凍る。
そして追い討ちのように、経費精査で「飼葉代」「輸送費」「装蹄代」が次々に削られ始めた。
「ウッドチップを減らして節約できないか? 水も再利用できるだろ?」
「……馬は家電じゃないんですよ」
加賀谷は、思わず声を漏らしてしまった。
だが、誰も笑わなかった。
一方、現場では違う“変化”が起きていた。
調教師の森下が、調教後に珍しく加賀谷に電話をかけてきた。
「加賀谷さん、ちょっといいか。あの馬……“勝つこと”を覚えてきてる」
「えっ?」
「自分が競馬場で何をするか、分かってきた馬の目だ。行きたがる気持ち、今までの倍以上ある」
「じゃあ……もう一度、勝てますか?」
「いや、まだ足りない。でも“惜しい2着”は近い。馬にとって、それは立派な成長だ」
次走、阪神競馬場。
ステイゴナファイトは2勝目を目指して出走した。
前半はいつものように後方。直線入り口でようやくスパート。
だが、先頭との差は4馬身以上――。
実況:「ステイゴナファイト、ここから追い込んでくるが……届くか!?」
鞭に応える脚。じりじり詰める。
最後の50メートル――ギリギリ2着。
勝ちきれない。それでも、確かに前に進んでいた。
着差、0.2秒。
「これで獲得賞金が860万円。来期の飼葉代は……なんとか」
加賀谷はエクセルのセルをにらみながら、慎重に計算する。
調教師から送られてくる請求書に、社内の目は厳しい。だが、“黒字に近づいている”ことを示せればいい。
営業部の後輩がぽつりと聞いてきた。
「なんかさ、うちの馬、強くなってない?」
「……ああ、なってるよ。ちゃんと走ってる」
競走馬を“会社の事業”として見れば、数字はシビアだ。
だが“会社の夢”として見るなら――
その一歩は、確かに希望の色をしていた。
Stay Gonna Fight。




