第19話 優希のある朝
デートを終えて数日が経つが、その間もメールや電話で連絡を取り合い、お互いの思いを積み重ねていく二人だった。そんな他愛のない話しを、似非カフェで慎から聞かされ、いじっては笑っていた。優希はそんな話を慎から聞くことができて、心の底から嬉しく、幸せだった。
ある朝に目覚めカーテンを開けると空模様がよろしくない一日に眉をひそめる男がいた。
優希だった。今日は撮影だってのに、これじゃ駄目じゃないかな・・・昨日の予報は晴れだったはずなのにな・・・等と考えながら、スマホで今日の天気を見てみると、この後すぐ雨が降りそうな予報になっていた。TVをつけると、ちょうど天気予報の時間だったらしく、気象予報士の男性が急に天候が変わった事を説明していた。まぁ、あくまで予報だからな・・・TVを眺めていると、ドアがノックされ呼びかけられた。
「お兄ちゃん?起きてる?朝ごはん出来たってさ~!」
そう言いながらドアを開け入ってきた。妹は身支度を終え、高校の制服に身を包み肩甲骨あたりまである髪を、三つ編で一つに纏めていた。
「おっ!起きてたんだね~えらいね~。」
小馬鹿にしたようにからかってくるが、いつもの事だったので軽くスルーしてリビングに向かった。席に着き、テーブル上の朝食を口に運んでいると、
「お兄ちゃん。最近ご機嫌だよね~?どうしたの?」
「そうか?」
意識していなかったが、周囲には案外すぐわかってしまうんだろうと、苦笑した。
「うん。この間まで、ぶつぶつ文句ばっか言ってたもん!今日も撮影でしょ?いつもなら、天気予報が当たらないってどういうことだよ!とか言ってブツブツ言っててうざかったもん!」
俺のモノマネをしているのか、腕を組んで壁にもたれながら空を見ていた。
「それ俺のマネか?」思わず突っ込んでしまった。
「へへ~、そうだよ~?こんな感じなんだよ~?」
「うっそだ~そんなキザじゃないだろ~?」
「慎君に聞いたら分かるよ~?こんなんだって!そういや慎君最近こないね?なんで~?来年受験だから、勉強教えてくれないかなぁ?あの人、国立大学だったでしょ?」
そういやそうだった・・・あいつ意外と勉強できる奴だったな・・・しかし・・・慎の名前を出して頬を赤くするなんて可愛いやつだ。しかし、お前の思いは実らんぞ?彼女できたしな。
「おぉ、そうだったな。でもな、奈美よ。あいつ彼女できたから、忙しいと思うぞ?」
それを聞いた奈美はというと、何度も瞬きをし
「へ・へぇ・・・そ・そそうなんだ。ついに、慎君にに彼女でできたんだ・・」
明らかに動揺している姿を見ていて可愛らしいやら、可哀そうやら入り混じった思いになるなこれは。昔から慎にアプローチしていたが、慎は全く気付かないのだが、健気にまだ思い続けていたのか。
「そうだな、お前国立目指してたもんな。あいつ教えるのうまいから、志望校に近づきそうだしな。聞いといてやろうか?」
それを聞くと、うって変わって目が輝き大きく何度も頷き
「絶対だよ?いつ聞くの?いつから来てくれるの?善は急げということで、今聞け!さぁ聞け!早よ聞け!」
「そんな、お前・・「だから今聞いとくれよ~、もう学校行かないと行けないんだからさぁ~?」
俺の話を遮り、催促される。俺から見てもこいつ可愛いから、告白とかされてるのは、妹の友人から聞いてるのだが、すべて断っているようだ。ほんと健気だねぇ・・・はぁ、仕方ないな。携帯を手に取り、慎に電話をしてみると
「オッスオラ優希!朝から悪いな。いきなりだけどさ、頼みがあるんだが、バイト代出すからさぁ、奈美の勉強みてやってくれね?まぁ家庭教師だな。」
「おはようさん!お~、そうかそういや奈美ちゃん来年受験かぁ~。でも、俺なんかでいいのか?他にもっと、良い人いるんじゃね?」
謙遜はいいが、度を過ぎると嫌味になるんだぜ・・・慎・・・お前主席入学したの俺知ってるんだぜ?その言いぐさは他の学生が全員敵になるぞ?などと考えていると、奈美が小声で
「プッシュプッシュ!ごり押し兄ちゃんお願いよ~!」
などと言いながら、力士のツッパリのようなジェスチャーをしていた。それを見て、思わず笑ってしまい電話を奈美に渡した。驚きながらも、電話を受け取った奈美は嬉し恥ずかしそうに
「おはようです!そして、お久しぶり!慎君、私を国立に連れてって!」
お前それ古い映画のタイトルのオマージュじゃねぇかと小声で突っ込みを入れるが、奈美は気にせず話している。
「あははは、朝から元気だなぁ。奈美ちゃんは!わかったよ、俺でいいならその話しお受けしましょう。スケジュール確認したら、また連絡するね?そうだ、優希に伝言するのも効率悪いから、奈美ちゃんの連絡先をメールしといてくれる?優希にアドレスと番号聞いてくれる?」
これでもかという笑顔で
「は~い!わっかりましたぁ!せんせ~い!お兄ちゃんに聞いて、すぐ連絡先送ります!よろしくお願いしますね!じゃ、またね~!お兄ちゃんに戻します。」
じゃぁまたなと電話を切り奈美に視線をやると、 ひゃっほ~うとジャンプをした瞬間に、天井からぶら下がっている照明に頭をぶつけ、うずくまっていた。
朝から賑やかなやり取りを見ていた母は、穏やかな笑顔で
「慎君に見てもらうなら、安心よね~!奈美、頑張りなさいよ~?イ・ロ・イ・ロね・・・?」
さすがは母だ、奈美の気持ちはよく分かっているようだった。
奈美は顔を真っ赤にしながら、
「えへへ~何の事かなぁ~?おっと、こんな時間だ!学校にいくね~いってきまぁす!あっ、お兄ちゃん。慎君の番号とアドレス私の携帯に送っといてね!できるだけ早く!いや今すぐだ!じゃお願い!」
まくしたてるように話し、家を飛び出していった。俺は、いってらっしゃーいと玄関先でハンカチを振りながら見送ってやった。
近所の主婦に、「おはよう。仲がいいわね~。」と声を掛けられ
「おはようございます。朝から、騒がしくてすいません。」と頭を下げると
「元気でいいじゃないの。こっちも朝から、元気になるわよ。そういえば奈美ちゃん、来年受験ね~?どうするの?」
「あ~ちょうどその事で、家庭教師を誰にするかで話ししてたんですよ。」
「あらもしかして、赤坂さんとこのお孫さん?」
「そのもしかしてですよ。」
なら安心よね。などと言われ、適当に話をして家の中に戻った。
「あんたも、今日は仕事だったっけ?天気悪そうだけど大丈夫なの?」
ちょうどメールが来ており、スタジオ撮りに変更すると連絡が来ていたので、返事をする。
「あぁ、スタジオで撮影に変更だってさ。午前中に終わるから、そのあとそのまま学校に行くよ。」
「はいはい。でも、学費自分で出すって言ってたけど、大丈夫?それぐらい出せるんだよ?仕事で入ったお金は、自分で使っていいんだよ?」
大学に行く事に有用性を見つけられなかった俺は、あえて大学には行かず、調理師免許を取得するため、専門学校に行く事にした。正直、慎と同じ大学に行く事もできただろうが、行って遊んでしまい留年してしまいそうな自分が想像できたので、調理師免許を取るという目標設定をした。ただ、成績がいいのに大学に行かないことに教師及び両親、特に父親は難色を示したが、最終的は理解をしてくれた。そんな恩にどう報いたらいいのかと考えている時にスカウトされ、モデルで収入を得ることができるようになったのをきっかけに、学費はできる限り自分で出そうと心に決めたのだ。
「うん、ありがとう。でも学費払ってもまだ遊べるだけのものもらってるから、大丈夫だよ。だから、浮いたお金で、父さんと旅行でも行っておいでよ。厳しいときは、お願いするしさ。」
「そう・・・わかったわ。だけど、無理しちゃだめよ?体壊したら元も子もないんだから。」諦めた表情で優希を諭していた。
「ありがとう。そういや、こないだね、慎と仕事やったんだよ。」
「あら、そうなの?慎君、前みたいに撮影のお手伝いしてたの?」
優希はニヒヒと笑いながら
「違うんだよ、今回はモデルとしてだよ。そして、慎の初彼女と三人で撮影したんだ~いや~楽しかった。そして嬉しかったんだよ~」
などと、熱く語っていると、母は嬉しそうに話を聞いてくれた。慎が高級車に乗ってきたことに、驚いていたが、持ち主が左衛門さんと分かると、あぁ~と納得していた。さすが爺さんだ。
「それで、優希はこのところずっとご機嫌なのね~。でも、あの慎君がね~?嫌がって、やりそうにないんだけど、彼女さんにいいとこ見せたかったのかな?」
「いや、撮影後に付き合う事になったようだけどさ。撮影時は彼女のほうが、乗り気で慎を強制的にさせてたようにも見えたけどね。でも、撮りはじめると、慎すごかったんだぜ?」などと熱く慎の事を語っていると、
「ほんと、あんた慎君大好きだよね~。そんな友達がいてよかったね?」
その言葉を聞いて
「・・・・うん・・・」
顔が熱くなるのを感じながら、頬を掻いていた。
「じゃぁ、現場に行ってきます。今日は、学校終わった後も撮影のスケジュールがあるから、悪いけど晩御飯いらないよ。」
「了解。気を付けて行ってらっしゃい。慎君と一緒に映った雑誌が出来上がったら、もらってきてね?」
今回の仕事は、ぜひ見てもらいたいから、絶対もらってくると返事をし準備を完了させ家を出た。
さぁ、今日も一日頑張ろう!そして、素晴らしい一日になりますように!
そう呟きながら、スタジオに向かった。
今回は、新たに妹が出てまいりました。
優希の妹らしく可愛らしくもてるという事にしましたが、僕ももてたかったなぁ・・
などと考えてしまいます。
読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き読んでくれると、嬉しいです。




