第8話 重圧
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歩き出すその先には、優希は険しい表情で、慎を見つめ続けていた。優希をしっかりと視界に捉えながら、間違っても、優希の評価が下がることにならないよう精一杯やろうと肝に銘じながら優希と合流する。
「よろしくお願いします。迷惑にならないよう精一杯やります。ご指導よろしくお願いします。」
友人とはいえ、ここでは初心者という事もあり、表情を引き締めて優希に頭を下げる。仕事とプライベートはある程度分けなければならない。特に、自分は初心者なのだから、甘えすぎてはいけないと自分の戒めでもあり、この考えに間違いはないと慎は、信じている。
「あぁ、邪魔にならないようにな・・・。慎、これは仕事だ。金額が多い少ないの問題じゃなく、ギャラをもらう以上プロの端くれになったという事だ。でも、それが分かっているから俺に頭を下げているんだろう?」
優希は、険しい表情を崩さず言い放ったが、その後すぐに台無しになった。険しい表情から一転、いつもの人懐っこい笑顔で、
「まぁ、そこまで重い表情すんなって、お前初めてなんだから仕方ないけど、俺はお前に期待してるんだぜ?でなきゃ、久保さんに頼まれても俺が断ってたよ!前に言ったろだろ?お前は、自分で思っている以上にポテンシャルあるんだから、思いっきりやろうぜ。それと、今回この話しを受けてくれてありがとう。久保さんだけじゃなくこの仕事は、俺にとっても、楽しみだったことだから。」
首に腕を回し、軽くヘッドロックをかけてくる優希だった。これには、慎の気持ちは昂り、そのやり取りを出番待ちの鏡は、羨ましそうにそして、嬉しそうに見ていた。
久保からの合図が視界に入ると、
「じゃ、始めようか!」
「あぁ、よろしく頼むよ。先輩!」
背中を軽く叩かれ歩き出す。新しい自分の世界が広がるの事をまだ理解できずに、足を踏み入れ始めるのだった。
慎と優希が何やら話しているのを、見ていた鏡であったが頭を下げている慎をみて、ほんと真面目な人なんだなぁと感心していた。そんな慎だからこそ、自分自身を卑下するような事はしてほしくないと考えていたのだが、優希に背中を叩かれ歩き出す慎の表情を見て、見惚れてしまっていた。あれ、なんか変だなと思いながらも、深くは考えずまずは目の前で始まる事に集中することにする。
メインは当然、優希なので久保はカメラ近くに優希を配置、少し斜め後ろに慎を配置させることにする。慎には、フレーム外に一旦配置させ、合図とともに歩きながらフレームインして、優希をの方向に向いてもらうよう指示し、優希には慎を見返すように指示をする。二人は頷き配置に付いた。
「じゃまず、リハーサル行くよ。はい。」
久保からの左手が上に上がった。合図を見て、二人は動き出した。
リハーサルを終え、動きを確認し久保から二人に要望がでた。
「優希、赤坂君を見るときに挑発的な態度を出してみて欲しい。赤坂君は、それを受け止め臨戦態勢に入るようなイメージでの動きをしみてくれるかな。」
「「わかりました。やってみます。」」
ハモッた二人は顔を見合わせ、微笑みながら頭を掻く。指示を画像・映像という形にする為、動き出した。
そして再び、配置につき合図を待つ目を少しだけ閉じ、自分の中に水面を思い浮かべ、その水面が波立たないようにする。自分の顔が映るほどの状態になったところで、ゆっくり目を開き久保を視界に入れた瞬間合図があった。
二人は、堰きった様に動き出し優希は喧嘩を売るように、それでいて人を嘲るように慎を斜に見る。その表情を見た瞬間に、左手で口元を隠しながら優希に対し体を斜にし、やや後方に体重をかけ、迎撃体制をとった。
その澱みのない動きに、鏡は綺麗・・・と呟き見惚れていた。それは、周囲のスタッフたちも同様だった。
慎にとって口元を隠すということは、相手に呼吸を読まれないようとする癖であった。二人が対峙すると、久保のカメラマンとしての琴線に触れたのか、一心不乱にシャッターを切っていた。
視線は、優希から外さない。戦闘が始まれば、視線を外せばそれは負けを意味する。今までそう教わってきた、師である爺さんからそう教わってきた。優希も、こちらを視界から消えないように体を移動させる。
二人は、戦闘態勢に入っていた。幼い頃から優希もまた、慎とともに祖父を師として、稽古をしてきた。
挑発する優希、それを受け流しながら、日本刀の刃のような鋭い空気を纏いながらゆっくりと優希に近づく。糸を張るような、薄氷の上を歩くような空気が周囲に広がった。久保以外のスタッフは、そのあまりの重圧に息を呑み、動くことができないでいた。久保は、すごいぞすごいぞと興奮しながら、シャッターを切っていた。
そんな中、鏡は美しいと思ったのは、抜き身の日本刀のようなんだ。神に奉納する為、刀鍛冶が持てる力を注ぎ込み打った、神聖な太刀なんだと、思い始めた。
慎と優希が同時に歩み寄った瞬間
「OK!よかった~言うこと無しだ~!」
と久保からの合図が入り、二人が纏っていた空気が柔和な空気へと変化した。それを周囲は感じ取り、一斉に息を吐き出した。
「なんだったんだろ~すごい空気が重たかったよね~。」
「ほんと、あの二人の撮影が始まった途端にね~。」
こんな会話でざわついていた。
鏡の隣で撮影を観ていた堀が、鏡に語りかけた。
「久保さんの見立てに間違いはなかった様だね。すごいよ、赤坂君あんな凛々しくて、抜き身の刀みたいな空気を表現できるなんてさ。鏡さん、彼はどうして今まで優希君という友人もいて、チャンスもあったのに挑戦しなかったんだろうね?」
興奮しながら嬉々として話す堀に鏡は、そうですね、なんででしょうかね。と適当に回答したが、 鏡は彼は自身の評価を相当下に見ていて、被害妄想に近いからだろうなと、勝手に考えていた。
しかし、すごかったなぁ・・・優希君も迫力あったけど、慎君が周囲に影響を与えるほどの圧力を持っていたことに驚いた。二人が対峙して、ぶつかり合ったからこそではあるだろうが、それでもまだ成人していない二人がこれだけの力を持っていたことに心底感心した。
二人は、久保の下に移動しており、話していた。そして、慎が鏡に向かって大きく手を振っていた。鏡も負けじと大きく手を振り返しながら、二人の下へ向かう。
どうやら、次は優希と私での撮影を始め、それが終わると三人での撮影を行い終了とのことだった。
「慎君すごかったよ~、おねぇさんびっくりだ~。」
と肘で慎の腕を突付きながら、茶化していたが、本当は見惚れていた自分が恥ずかしいのを隠すためだった。
え~、おだててもなにもでませんよ~?ってか、いつ僕弟設定になったんですか、と照れながら頭を掻いている慎を見ていた久保が
「いや、本当によかったんだよ。なんていうのかな、優希を切り裂くような眼差しと佇まいなんて、クールの一言だったよ。ありがとう。」
「久保さ~ん、僕は?」
「優希も相変わらず素晴らしかったよ。ただ、赤坂君が実際ここまでできるなんて思わなかったから、予想以上の相乗効果に感動しているんだよ。」
優希も満足そうに笑っていた。
「じゃぁ、時間ももったいないし次の撮影に入ります。準備よろしく。鏡さん、足元に気をつけて移動してね。」
久保に声をかけられ、わかりましたと頷き移動する。
さぁ、次は私だ!慎君ほどじゃなくてもやり切ろう。
心に決め、一歩を踏み出した。
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