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第7話 施無畏《せむい》

 撮影が始まった。先ほどまでの、柔和な空気から一転して張りつめた空気へと変わるのを肌に感じる。

 切り替えがすごい、堀さんや久保さんの表情が一瞬で変わった。優希もいつもの、だらしない表情が凛として存在感が際立ってくるのが分かる。相変わらずだなと思いながらも、進行の妨げにならないように周囲に気を配ることにする。

 鏡に視線を向けると、真剣に撮影を観察し少しでも、邪魔にならないように、妨げにならないように身に着けようとしているようだった。その真剣な表情に見惚れてしまっていた。一方の慎はというと、以前手伝いをしたこともあった為、ある程度の工程などは大まかには理解していた。だが、それはあくまでスタッフとしてなので、どうしたもんかと腕を組んで悩んでいた。それを見かけたスタッフの一人が、後輩らしき人に指示をだし、慎に声を掛けてきた。


「悩んでるねぇ。以前うちの撮影手伝いに来てたよね。」

 声をかけてくれたのは、半田さんという女性だった。以前の見学?時のスタッフの一人だったらしい。


「いやぁ、以前は見学にきただけなのに、突然スタッフのお手伝いする事になって、指示をこなすだけで精一杯でしたから、その節はご迷惑をお掛けしました。」

 軽く頭を下げ、半田と向き合い話しを続け、正直な気持ちを話す事にする。


「スタッフとしての動きは、以前お手伝いをさせていただいたので、わずかですが分かるんですが、モデルとなると、立ち振る舞いが全く想像できないんで不安と、畏(おそ)れが混じってるんですよね・・・」

 そうなんだよ、言葉に出すと改めて思うんだけど、これなんだよなぁ立ち振る舞いがわからないんだよなぁと沈痛な表情になる慎だった。その表情をみた彼女は、クスクスと口元を隠しながら笑っていた。


「ふふふ、まぁわかるよ?その気持ち。でも、前に手伝いに来た時も本当はモデルをさせてみようかって話し、あったんだよ?」

 苦虫を潰したような表情で見返し

「マジですか・・・そんな話し初耳ですよ・・・あっでも、よく暇なら見学来いって優希がしつこかったのって・・・」

「まぁそういう事だね。前は、トラブルがあったから有耶無耶(うやむや)になっちゃったけど、最初は本当に見学できてもらってたのよ。でも、赤坂君の所作っていうのかな、立ち振る舞いや纏っている空気っていうのかな。久保のイメージに嵌(は)まったみたいのよ。だから事あるごとに、優希君に声かけてもらってたのよ。まぁ優希君は、ああいう子だから、ノリノリで任せてください。なんて言ってたけどね。」

 そんな事があったのかと考えながら、あの後のことを思い返してみると実際、まぁよく誘われてたな授業やバイトやらで本当に都合つかなかったってのはあるけど、普通に誘われたら断ってただろうなぁと考える慎であった。


「それに、今回はあんな高級車を被写体にできるっていうのと、一緒にいたオノカガミさんね。あんな子がモデルやってないのは、もったいないよ?久保からしたら、やっと待ちかねた被写体である赤坂君が来てくれたのと、思いもよらない高級車、さらにさらに超絶美女!喜びが氾濫してしまったということだね。気持ちが先走りすぎて、上手く伝わらなかっただろうけどね。」

 こぼれるような笑顔で嬉しさを表現されて、慎は気恥ずかしくなり指でうなじをポリポリと掻いてしまう。


「そこまで、想われ待ってくれていたという事なら、ここでできる限り応える努力しないと恥ずかしいですね。ありがとうございます。何がどこまでできるかわかりませんが、前向きにやります。ご心配をかけてしまい申し訳ありませんでした。」

 感謝の気持ちを精一杯込めて彼女に伝えると、がんばってねと手を振りながら颯爽(さっそう)と持ち場へ戻って行った。

 話しを受けた以上、やれるだけのことはやろう、前向きに考え優希の撮影風景を参考にする為、観察し頭に叩き込むことにする。鏡と目が合い、その真剣な眼差しからやる気が伺えた。これは負けられないなと、肩を竦めた。

 そして観察した内容を、目を閉じイメージする。ポーズに至るまでの、手の動き、指の動き、関節の角度それを実際に体でトレースをしてみせる。体はイメージどおり動いているのは、今までやってきた稽古の感覚でわかるが、これはあくまで個人的なものなので、実際第三者から見たときの意見はわからないので、確認をしなければならないと考え、慎はさっき話していた半田に声をかけた。だが、手が離せないのですぐ傍にいた堀さんに見てもらってとの事だった。堀は、やる気になった慎を見て嬉しそうに快諾してくれた。


 イメージした内容をトレースする慎、それが余りにも寸分たがわぬ流れだった為、感嘆の声を堀が出した。

「うん。いいね。今やってる撮影を頭に入れてイメージしたとおりに、体がついていってるね。でも、今のはあくまで、優希一人での撮影だから参考程度として捉えたほうがいいね。二人もしくは三人一緒の撮影も入る予定らしいからね。まぁ、久保さんのイメージを形にする事になるから、立ち位置や歩く方向などは指示されるから、まずは自分の思ったように体を動かせばいいよ。気に入らないなら、要求がくるから修正しやり直しをする。これの繰り返しだね。」

 堀さんいわく撮影手法は、カメラマンによって大分と違うらしいが、久保さんは簡単な設定だけをモデルに伝え、最初はモデルの好きなようにさせるスタイルとのことだった。


「ただ、強いて言えば表情が硬いね。体を動かすことに集中しすぎているので、強張っているよ?ほら、眉間に皺が。」

 そう言いながら慎の眉間を指差す。


「私も、どうでしょうか。」

 やり取りを見ていた慎と堀の間に、鏡が割って入ってきた。

「うん、じゃあやってみようか。」

「はい。お願いします。」

 そう言って、堀をカメラマンに見立てポーズをし始める。その姿は、堂に入っており優雅で舞いを舞っているようだった。そう、これは神楽(かぐら)みたいなんだと、神聖な空気が流れ込むような感覚を覚えたのは、慎だけではなく、堀も同様であった。


「どうでしょうか?」

 少し肩で息をしながら、堀に感想とアドバイスを請う鏡は美しいと表現するに相応し姿だった。


「赤坂君と同じだね、見たイメージを形にする能力は高いねぇ。でも、さっき赤坂君にも言ったけど、複数人数で撮影するのとは勝手が違うから、参考程度にするということと、やっぱ表情だよね。緊張するなってのは、難しいだろうけど、少し息を鼻から抜いてみるだけでも違うと思うよ?」

「僕には、そこまでの助言なかったんですけど・・・」

「やっぱ、女性はひいきしちゃうよねぇ~」

 あっけらかんと答えられると、反論のしようもない慎だった。


「わかりました。ありがとうございます。少し緊張をほぐすために、ストレッチでもしてみます。」

 汗でメイクが落ちないように気をつけてね、と朗らかな笑顔で鏡に注意を促す堀は、この子達本当に初めてなのか?と苦笑しながらも、いい人材を見つけることができたなと顔をほころばせた。


 そして、優希のソロ撮影は一旦終了し、慎たちが優希と同じ舞台に立つことになった。

 もう畏れるな、後ろを見るな、先を見て前に進もう。

 慎は、そう呟き足を踏み出した。

話の展開が遅くて、自分で苛立ちを覚え始めています。

そんな、文章を読んでいただき本当にありがとうございます。


作者は、剣道をやっていて、高校の剣道場に「施無畏」が掲げられていたのを思い出し、書いてみました。

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