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先輩が僕をエスパーに育て上げようとしている事象 「ねぇ。私は今、何を考えているでしょう?」  作者: 団田図


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第8話 防衛対策録とオカルト委員

 六月の初旬。

 放課後の図書室は、本来であれば僕にとって最も論理的で平穏な空間であるはずだった。


亀岡かめおか先輩! この返却された本のデータ入力、完了しました!」


 貸出カウンターの横で、分厚い丸眼鏡を押し上げながら元気よく報告してくるのは、今年図書委員に入ってきた一年生の鈴木若葉(わかば)さんだ。小柄な体格に似合わない彼女の大きなリュックには、常にダウジングロッドや謎の石が詰まっているらしい。彼女は自他共に認める、重度のオカルトマニアであった。


「処理速度と正確性は申し分ないね。ご苦労様、鈴木さん」

「若葉でいいですよ! それより先輩、さっきから熱心にそのノートに何を書き込んでいるんですか? ムム……ッ! 表紙に『エスパー育成防衛対策録』って……!」


 若葉がリュックを揺らしながら、僕の手元に身を乗り出してきた。

 隠すような機密情報でもないため、僕はタイピングの手を止めて息を吐いた。


「実は最近、非常に厄介で非科学的なトラブルに巻き込まれていてね。一つ年上の先輩が、僕のパーソナルスペースを物理的に侵略し、未知の超能力を開花させるための高度な精神攻撃――読心術や透視能力のテストを強要してくるんだ。これはその観測データと、僕の物理的な防衛策をまとめたものだよ」


 僕が極めて客観的な事実を述べると、若葉さんの丸眼鏡の奥の瞳が、尋常ではない光を放ち始めた。


「そ、それってまさか……二年A組に編入してきたという、あの真乃極まのぎわ先輩のことですか!?」

「情報が早いな。その通りだが」

「やっぱり! 私、オカルトネットワークの噂で聞いたことがあるんです! 真乃極まのぎわ先輩、海外の特殊なカリキュラムを受けていたって……。それ、絶対に本物の『超能力開発機関』の極秘訓練ですよ!」


 若葉は鼻息を荒くして、自分の制服のポケットからメモ帳とペンを取り出した。


「いいかい、若葉さん。超能力などというものは物理法則を無視した完全な妄想だ。彼女はただの痛い勘違いをしていて、僕はその非科学的な実験のモルモットにされているだけだ」

「なるほど! 亀岡かめおか先輩のような超・論理的な脳に、あえて非論理的な負荷をかけることで、未知のシナプスを強制接続しようとしているんですね!? 凄いです、真乃極まのぎわ先輩……本物の超能力開発者だったなんて!」


 完全に話が通じていない。僕の論理的な説明は、彼女の強固なオカルトフィルターを通すと、すべて超常現象の肯定へと変換されてしまうらしい。非科学的な妄想に取り憑かれた哀れな後輩の目を、なんとか物理で覚まさせなければならない。


 +++


「よぉ。お二人さん、随分とサイケデリックな話で盛り上がってんじゃん」


 ひょっこりと図書室のカウンター裏に顔を出したのは、悪友の佐藤健太だった。首にワイヤレスイヤホンをかけたまま、いつものようにニヤニヤと薄笑いを浮かべている。


「佐藤先輩! 聞いてください、亀岡先輩が今、政府の極秘エスパー育成計画の被検体に選ばれてるんです!」

「声が大きいよ、若葉さん。健太、ちょうどよかった。お前からもこの後輩の目を覚まさせてやってくれ。超能力など存在しないと」


 僕が呆れながら助けを求めると、健太はニヤついていた口元をスッと引き締め、なぜか真顔になって僕の隣に立ち、声を潜めた。


「いや、頼斗。俺も情報通として色々と裏のルートから耳に入ってんだけどよ……今回ばかりは、マジで気ィ抜かない方がいいかもしれねぇぞ」

「……どういう意味だ?」


 健太は図書室の周囲を警戒するようにチラリと視線を巡らせてから、重々しい口調で語り始めた。


「真乃極先輩がいた海外の学校って、表向きは普通の学校だけど、裏では軍事目的の『超能力兵士サイコソルジャー育成プログラム』が行われてるって、ダークウェブの掲示板で見たことがある」

「なっ……!?」


 僕より先に、若葉さんが息を呑んでメモ帳に猛烈な勢いでペンを走らせる。

 健太の奴、何を根拠のない都市伝説を語っているんだ。そんなもの、確率的に考えて存在するはずが……。


「お前みたいなガチガチの理系脳は、能力を引き出す『触媒』として一番狙われやすいらしいぜ。先輩のあの不自然な密着や、答えのない問いかけ……どう考えても、普通の女子高生がやる友達付き合いじゃねぇだろ? あれは完全に、お前の脳波をハッキングするための『儀式』だ。もし完全に洗脳されたら、お前、記憶を消されて海外の施設に飛ばされ……っと、これ以上は」

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