第42話 光るプレゼント
「えっ……私に、プレゼント?」
真乃極さんが期待に目を輝かせながら箱を開ける。
中から出てきたのは、透明なアクリル樹脂でコーティングされ、内部の基盤が透けて見える、サイバーチックなピンク色のウサギの置物だった。
「……実家の神社で、ウサギ年に親父が大量入荷して余っていた不良在庫です。LEDが内蔵されており、スイッチを入れると無駄に七色に発光します。質量と体積のバランスが悪く、インテリアとしての実用性は極めて低いですが……」
僕が淡々と事実を述べると、真乃極さんはそのサイバーウサギを両手で大切そうに包み込み、パァッと顔を輝かせた。
「すごい……! すごく可愛い! 私の好きなパステルピンクだし、ウサギだし……! しかも光るの!? これ、私の一番の好みのものだよ!」
彼女は満面の笑みで僕を見上げ、目をキラキラとさせた。
「頼斗くん、やっぱり私の心の中が読めてるんじゃない? これこそ、本物のエスパーだよ!」
「……違います。非科学的な超能力など存在しません」
僕は呆れたように息を吐き、そして、今日一番の穏やかな笑みを浮かべた。
「これは僕が『エスパー育成防衛対策録』の観測データを何度も読み返し、あなたの嗜好性を統計的に処理した結果の事象です。すべては、物理と論理の賜物ですよ」
「ふふっ、そっか。頼斗くんの論理の結晶なんだね」
真乃極さんはサイバーウサギを胸に抱き寄せ、とびきり甘い笑顔を向けてくれた。
窓の外では、いつの間にか白い雪が舞い始めている。
エスパー特訓という名の壮大な勘違いから始まった僕たちの関係は、今、すべてのバグを修正し、完璧な答えへと辿り着いたのだ。
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冷たい北風が吹き抜ける、カフェの入ったビルの裏路地。
俺、佐藤健太は、自販機で買った温かい缶コーヒーを両手で包み込みながら、少し離れた窓ガラス越しに店内の様子を窺っていた。
「やれやれ。あのポンコツ屁理屈君も、ついに年貢の納め時ってわけっすね」
「ええ。私たちの完璧な『裏包囲網』の完全勝利よ」
隣に立つ三年生の高橋沙紀先輩が、アンダーリムの眼鏡を指で押し上げながら、口角をニヤリと上げた。
窓の向こうでは、頼斗と真乃極先輩が向かい合って座り、何やら怪しげな光るウサギの置物を挟んで楽しそうに笑い合っている。あの頼斗の野郎が、あんなに穏やかな顔で笑うなんて、明日は狛犬でも暴れるんじゃないか。
「しかし、頼斗のやつ、告白する時も絶対小難しい数式とか並べ立てたんでしょうね。真乃極先輩が泣きながら抱きついてた時は、正直ヒヤヒヤしましたよ」
「間違いないわね。でも、凛があんなに幸せそうな顔で笑ってるんだから、それで十分じゃない」
沙紀先輩は手元の缶のコーンポタージュを見つめ、少しだけ目を細めた。
その横顔には、親友の長すぎたすれ違いがようやく終わったことへの安堵と、ほんの少しの寂しさが混じっているように見えた。
「……これで、俺たちの任務も完了っすね」
「そうね。大成功のクリスマス作戦だったわ」
俺たちは顔を見合わせ、軽く息を吐いた。
俺の、さくらへの想い。沙紀先輩の、俺への想い。そして、さくらの沙紀先輩への想い。
俺たちの青春は、見事なまでにすれ違い、そして綺麗に散ってしまった。
でも、だからこそ、あの不器用すぎる親友二人の恋を、どうしても形にしてやりたかったのだ。
「ま、俺たちの恋は実りませんでしたが。この完璧なお膳立てをやり遂げた情報収集能力と実行力は、誇ってもいいんじゃないっすか?」
俺がおどけて言うと、沙紀先輩はクスッと笑い、自分の缶を俺の缶コーヒーに軽く押し当てた。
「そうね。私たちは最強の失恋コンビだったってことにしておいてあげる」
「異議なしっす。それじゃあ……」
俺は缶を少し持ち上げ、冷たい冬の空に向かって宣言した。
「俺たちの、綺麗に散っちまった青春と」
「不器用な親友たちの、遅すぎる春に」
コツン、と。
冷たい裏路地に、温かいスチール缶同士がぶつかる小さな音が響いた。
「乾杯」
初めて飲んだブラックコーヒーは、思ったより苦く、けれど胸の奥をじんわりと温めてくれるような、不思議な味がした。
窓の向こうの温かい光と、舞い散る白い雪。
俺たちの少しだけほろ苦いクリスマスは、最高のハッピーエンドの脇役として、静かに更けていった。




