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先輩が僕をエスパーに育て上げようとしている事象 「ねぇ。私は今、何を考えているでしょう?」  作者: 団田図


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第41話 論理的告白

「そ、それは……! 単なる観察の記録です! あなたが僕に仕掛けてくる未知の超能力実験に対する、防衛のための物理的かつ客観的なデータであって、決して非論理的な感情の表れでは……!」


 僕は早口で専門用語を並べ立て、必死に言い訳を構築しようとした。

 しかし、真乃極先輩はノートを胸に抱きしめ、首を横に振った。ポロポロとこぼれ落ちる涙が、彼女の頬を伝って白いニットに吸い込まれていく。


「違うよ。頼斗くんは、ずっと私のことを見てくれてたんだね。私がパステルピンクが好きだって言ったことも、ウサギの小物を集めてることも、全部……」


 彼女の声は震えていた。

 僕が『魔術的触媒』として警戒し、記録し続けてきた彼女のパーソナルデータ。それが結果として、僕が彼女の一挙手一投足を誰よりも細かく観察し、記憶していたという決定的な証拠になってしまっていた。


「私の本当の気持ち、もう……分かってるよね?」


 真乃極先輩は潤んだ瞳で、僕を真っ直ぐに射抜いた。

 その言葉が聴覚器官から脳に到達した瞬間、僕は最後の抵抗とばかりに論理の盾を構えようとした。


「……なるほど。これが読心術テレパシーの最終試験ですか。僕にあなたの思考を完全にトレースしろと」


「違うっ!」


 静かなカフェの店内に、彼女の強い声が響いた。

 真乃極先輩は一歩前に踏み出し、僕のパーソナルスペースを完全に突破して、目の前に立った。


「エスパーなんかじゃなくていいから、あなたの口から自分の気持ちを伝えて」


 その言葉に、僕の思考回路は完全に停止した。

 超能力の否定。彼女自身が、これまでの不可解なアプローチの前提を自ら覆したのだ。

 つまり彼女は、僕を覚醒させるための育成者でも、精神攻撃を仕掛けてくる超能力者でもなかった。ただの、恋する一人の女子高生だったということだ。

 そして僕は、その不器用で遠回りな好意を、すべて『物理的な攻撃』や『非科学的な実験』だと勘違いし、全力で論破し続けてきた、どうしようもないポンコツだったのだ。


 『防衛のためだ』と言い訳しながら、本当は誰よりも彼女の笑顔や香りを求めてデータを集めていた自分の矛盾に、僕はついに白旗を揚げた。


 僕は大きく息を吸い込み、限界までオーバーヒートしている脳内コンピューターを再起動させた。

 もう、逃げ道はない。僕の細胞の隅々までが、彼女という存在によって完全に書き換えられてしまっている。


「……事象A。あなたの顔を視覚野に捉えると、僕の心拍数は医学的な平常値を大幅に超過し、自律神経に深刻なエラーが生じます。事象B。あなたが他の男子生徒と接触しているのを観測すると、僕の扁桃体へんとうたいが過剰反応し、不快指数が異常な数値を叩き出します」


 僕は震える声を必死に抑え、これまでノートに書き連ねてきた無数の仮定とデータを口に出していった。


「事象C。あなたの声、あなたのシャンプーの香り、あなたの体温……それらすべての要素が、僕の強固だったはずの論理的思考を破壊し、未定義のバグを引き起こし続けてきました。僕はこれまで、これを急激な気温の変化や、未知のシナプスの形成などという物理的な要因で説明しようと試みてきました」


 真乃極先輩は、涙をこぼしながらも、僕の言葉を一つも聞き逃さないように、じっと僕を見つめている。


「しかし、すべての変数を代入し、何度シミュレーションを繰り返しても、導き出される結論はたった一つしかありませんでした」


 僕は中指で眼鏡のブリッジをスッと押し上げ、彼女の大きな瞳を真っ直ぐに見つめ返した。


「……僕は、君のことが好きだということです。確率0%の絶対的な真理は、君というイレギュラーな存在によって、完全に崩壊しました」


 極めて論理的で、そして身も蓋もない告白。

 それが終わった瞬間、真乃極先輩の目から再び大粒の涙が溢れ出した。

 しかしそれは、先ほどの不安げな涙とは違う。花が大きく咲き誇るような、とびきり甘くて、幸せに満ちた笑顔とともにこぼれ落ちた涙だった。


「……っ、遅いよ、頼斗くんのバカ……!」


 真乃極先輩はノートをテーブルに置き、僕の胸元に飛び込んできた。

 質量約四十八キログラムの衝突。しかし、僕の体は少しもよろけることなく、彼女のすべてを完璧に受け止めていた。

 彼女の腕が僕の背中に回り、温かい体温が直接伝わってくる。


「私も、頼斗くんが好き。ずっと、ずっと大好きだったよ」


 胸に押し付けられた顔から、くぐもった声が聞こえる。

 ドクン、ドクンと、お互いの心臓の音が重なり合って、激しいビートを刻んでいる。

 もはや、この心拍数の上昇を物理現象で説明する必要はなかった。僕たちは、この非論理的な感情の渦の中で、完全に一つに溶け合っていた。


「……泣かないでください。脱水症状による電解質の異常を招く危険性があります」


 僕が不器用に彼女の背中に腕を回してそう言うと、真乃極さんは「もう、そういうところも好き」と泣き笑いしながら、さらに強く僕に抱きついた。

 クリスマスの静かなカフェで、僕の果てしなく長い防衛戦は、完全なる敗北――いや、最高の幸福という形で幕を下ろした。


 +++


 落ち着きを取り戻し、向かい合って座り直した僕たちは、出された温かい紅茶を飲みながら、これまでの壮大な勘違いについて答え合わせをしていた。


「つまり、あの『私が今、何を考えてるでしょう?』という問いかけは、僕からの論理的なアプローチを待っていたと?」

「うん。頼斗くんって理屈っぽいから、少し難解なパスを出した方が食いついてくれるかなって思って……」

「非効率極まりないですね。僕はてっきり、精神感応のテストかと」

「もうっ! だいたい頼斗くんが、私の言うこと全部『テレパシー』だの『超能力』だの変換するからいけないんだよ!」


 真乃極さんは頬を膨らませて抗議するが、その顔はどこまでも嬉しそうで……とてもかわいい。


「あっ、そうだ。実は今日、あなたに会うことができたら渡そうと思っていた物理的物体があります」


 僕は学生鞄をごそごそと漁り、小さな箱を取り出してテーブルの上に置いた。

 本来なら、健太の呼び出しが偽のタスクだと判明した時点で帰宅するつもりだったが、心のどこかで彼女に会えることを期待して、鞄に忍ばせていたのだ。いや、本当は会いたかったのだ。


「えっ……私に、プレゼント?」

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