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先輩が僕をエスパーに育て上げようとしている事象 「ねぇ。私は今、何を考えているでしょう?」  作者: 団田図


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第10話 掃除時間のサイコキネシス

「ねぇ、今、私がどうしてほしいか分かる?」


 その瞬間、僕の脳内コンピューターはフル稼働を開始した。

 彼女は現在、椅子に両手を添えているが、持ち上げるための十分な物理的エネルギーを出力していない。それにもかかわらず、「どうしてほしいか」と僕に要求してきた。


 導き出される結論は一つ。

 『僕に、椅子へ触れずに未知の力で机の上へ移動させろ』――すなわち、念動力サイコキネシスの発動要求だ!


 なんて無茶な要求だ。質量約三キログラムの物体を、物理的接触なしに重力に逆らって持ち上げるなど、ニュートン力学を根底から覆す行為だ。そんな非科学的なことができるわけがない。

 ここはあまり時間をかけると、僕が念力発動するために気を練っていると思われしまう。僕は、ただちに彼女の肉体的負担を軽減するための最適解を実行した。


「……仕方ないですね」


 僕は彼女の手からサッと椅子を取り上げ、自らの腕の筋力を用いて軽々と机の上に乗せた。

 さらに、彼女がその後に机を移動させる手間も省くため、机の端を掴んで教室の後ろの指定場所まで一気に運んであげた。


「これでいいでしょう。体調不良時に無理な物理的労働を行うべきではありません。念動力を発動させるなどという非効率な実験は、また健康な時にしてください」

 

 そう告げて振り返ると、真乃極先輩は目を丸くして立ち尽くしていた。

 しかし次の瞬間、彼女の頬の毛細血管が一気に拡張し、沸騰したように赤く染まった。その表情の意味を、僕は察することができなかった。


「っ……! 頼斗くん……ありがとう。すごく、優しいんだね……」


 彼女は両手で顔を覆い、体温を急上昇させている。

 なぜだ。僕は彼女の『超能力テスト』に見事不合格となったはずだ。それなのになぜ、彼女はこれほどまでに喜んでいるのか。

 僕の彼女への感情は依然、残念なクラスメイト程度ではあるが、目の前の事象を前に、彼女の心中が気になり始めていた。


 +++


 掃除が終わり、放課後の静けさが戻った教室。

 僕は自席に座り、真新しいキャンパスノートを開いた。表紙には『エスパー育成防衛対策録』と記されている。

 ペンを手に取り、先ほどの不可解な事象をデータとして記録していく。


『事例:念動力サイコキネシスの強要と、その後の生理的反応について』

『対象物である椅子の質量は約三キログラム。彼女は「私がどうしてほしいか分かる?」という曖昧な言語トリガーを用いて、僕の脳の未開拓領域を刺激し、念動力を発現させようと試みた』

『結果として僕は物理的な筋力で解決を図り、実験は失敗に終わった。だが特筆すべきは、その直後の彼女の反応である』

『彼女の顔面は著しく紅潮し、体温の急激な上昇が観測された。これは術の失敗による魔力(あるいは精神エネルギー)の逆流現象としての錯覚か、あるいは室温の局所的な自然上昇によるものと推測される』『結論:彼女の実験は失敗したが、僕への精神的執着(観察対象としての執着)は依然として高い。引き続き、強固な論理的防衛が必要である』


 完璧な考察だ。僕は満足してノートを閉じ、カバンにしまった。

 僕のような非科学を否定する変人に、あんな美人の帰国子女が友好的な感情を向けている確率など0%だ。この揺るぎない真理がある限り、僕の防衛線が突破されることは絶対にない。


 +++


 放課後の帰り道。

 駅前のカフェで、私はアイスティーのストローを弄りながら、目の前で身悶えしている親友を冷ややかな目で見つめていた。


「あああっ! もう、どうしよう沙紀! 頼斗くんが、私の椅子をスッと持ってくれて……さらに机まで運んでくれたの!」

「はいはい。それで? あんたはどういうアプローチをしたわけ?」

「亀岡くんが幼馴染の子と楽しそうに話してるのを見て、ちょっと嫉妬しちゃって……。だから、『ねぇ、今、私がどうしてほしいか分かる?』って聞いたの! 私だけを見てほしいっていう乙女心を込めて!」


 私は無言でこめかみを押さえた。

 まただ。この頭脳明晰なはずの親友は、なぜ恋をするとここまでポンコツになるのか。


「……あのねぇ、凛。あんたのその『どうしてほしいか分かる?』って言葉、あの理屈っぽい亀岡くんに絶対違う意味で伝わってるわよ」

「えっ? そ、そうかな? でも彼はすごく優しく椅子を片付けてくれたよ?」

「それは彼が、あんたのことを『体調不良でフラフラしている哀れな先輩』だと思ったからでしょ。あんたの意図した『私だけを見て』なんてメッセージ、一ミリも届いてないと思うわよ」

「うぅ……でも、あの時の頼斗くん、すごくスマートでカッコよかったんだもん……!」


 完全に恋の病だ。何を言っても無駄らしい。

 私は大きくため息をつきながら、窓の外の景色を眺めた。

 私が亀岡くんの悪友である健太くんに抱き始めた小さな感情も含め、この学園でのすれ違いの連鎖が解ける日は、まだまだ遠そうだ。

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