返してくださいー前編ー
―総合リサイクルショップ 店長 西岸さん(仮名)の話―
「ご高齢の方が買取に持ってくる物って、値段が付けられない物が多いんです」
西岸さんの経験上、長く自宅に保管されていた物なので、シミやニオイ、経年劣化などあるものが多いのだそうだ。
「『ほとんど使ってないんです』って言葉は信じちゃダメね。そう言う人が持ち込む物に限って使用感が強いの。プロと素人が判断する状態の違いだってあるし」
特に顕著なのが、ぬいぐるみや人形類だと西岸さんは言う。
「布だからホコリやニオイを吸ってるの。古い家のニオイが染みついちゃって、少なくとも店に出せる状態じゃないわね。それに日焼けて色褪せもよくあるの。……ちょっと前にね、人形の買取があったの。60代後半くらいの歳かな、男の人が持ってきて…」
その男性は、半透明のゴミ袋3つ分の人形やぬいぐるみを買取に持って来た。
普段から西岸さんの店はぬいぐるみの買取が多い。
ぬいぐるみや人形は、嵩張って捨てたくなっても、いろんな意味で捨てづらくて処分に困るのだろう。店は処分の代行のようなものだと西岸さんは認識していた。
実際、買取で来るぬいぐるみは店でも廃棄処分になるような状態の物が多いそうだ。
なのでぬいぐるみの買取は一点一点ではなく、袋の中の確認もそこそこに「まとめていくら」で安めの金額で買取することになる。
60代後半の男性が持ち込んだ人形やぬいぐるみも例に漏れず、どれもシミや汚れがあり店頭に出せるような状態では無かった。
袋の中の人形のひとつに顔や手足が布で髪の毛が毛糸の、昭和の時代によく見られた女の子の人形があった。
やはりそれも布部にシミがあり店頭に出せる状態ではなかった。
「まとめての買取で100円になります」
西岸さんは男性にそう告げ、男性も了承し買取が成立した。
買取後、西岸さんはそのまま縛って袋ごとバックヤードの廃棄置き場に捨てた。
翌日の事だった。
開店と同時に店に一本の電話が掛かってきた。
電話の主は前日の買取の男性だった。
「昨日の買取の中に間違って売ってしまった人形があるので返していただけませんか」
このような電話は店としては大変困る。すでに店頭で値札が付いている場合もあれば、処分して廃棄業者が持って行ってしまっている場合もある。
今回の場合は後者だった。
その旨を話したのだが男性はなかなか引き下がらなかった。
「本当ですか?本当に処分したんですか?返してもらわないと困るんです」
困ると言われてもこちらも困る。
気持ちの面では返してあげたくても物理的に不可能だ。
「申し訳ありませんがお返しは致し兼ねます」
同じ説明を再度丁寧に説明して、電話を切った。
その日の午後…。




