師団長
結局、金筬姫は縄と会ったようで、縄にも謝罪した。縄は跪きながらそれを否定した。中途半端な態度で縄は松助に負けて更にこの間の事件の原因にもなった。元帥は縄を降格させなかったが、縄はまだ責任を感じているらしい。縄がそれを話した。
十月。現世では秋だが温暖化で暖かい日が続く。俺は高麻呂部隊長に呼ばれた。高麻呂は、
「元帥がお前を師団長に昇格させたがっているそうだ」
俺には意外だった。昇格するほどの事をしたのだろうか。むしろ失態ばかり続いていた気がする。俺が黙っていると高麻呂は、
「補陀落様の件でお前は頑張ったからな。松助様の件でも苦労しただろう」
俺は、
「そうでしょうか。それに俺に師団長が勤まりますか」
高麻呂は苦笑いして、
「彦左衛門が引退したがっているんだよ」
彦左衛門は俺の直属の上官だが、そんな事は知らされていない。相変わらず、事務仕事を面倒臭がっていたし、むしろ先日の件では戦闘に直接参加できて楽しそうだった。負傷しているのに笑顔だった。
高麻呂は、
「あいつはお前をいちいち誉めないけれど、信頼しているよ」
「はあ」
俺が間抜けな相槌を打つと高麻呂は、
「俺もお前を信用している。更に仕事に励めよ」
俺は敬礼すると、
「有り難き御言葉です」
高麻呂は一度ニコリと笑みを浮かべたが、気まずい顔をして、
「今度の出雲会議で補陀落様方が正式に謝罪なさるそうだ。お前も会議に参加しろと元帥がおっしゃっていた」
俺はまた敬礼して、
「了解しました」
俺は高麻呂の執務室から出ると、翠に言霊飛ばしをした。昇格の件と出雲会議出席の件。翠は驚いた様子ですぐに返事をした、
「昇格出来て良いけれど、大丈夫なの?」
「そりゃあ緊張はするけれど、仕方ない。それに松助に会ってみたいし」
俺は持ち場に戻って部下達の訓練の監督をした。
その日の夕方に帰宅すると、縄がいた。縄は、
「話は皆から聴いた」
俺は蒸したサツマイモを翠と縄に出すと、翠は三人分の茶を注いだ。縄は軽く礼を言うと、
「お前の事だから大丈夫だろうけれど、松助様達には慇懃になってくれ」
「ちゃんと謝る相手を嘲るつもりはない」
俺が言うと縄は、
「御二方を呼び捨てにすべきではないよ」
俺は今更だと思った。松助も補陀落も気にしていないだろう。特に松助はまだ百数十歳のはずだ。俺の半分以下だ。むしろ縄も皆も気を遣い過ぎている。
「出雲会議では無礼が命取りになるでしょう」
翠が言った。俺は、
「俺は多分、黙りっぱなしだと思うから大丈夫だ」
縄は、
「しばらくは時々祝詞隊の基地に通って作法の確認をすると思う」
「ああ」
俺は返事した。縄は宙を睨みながら呟いた、
「御二方の罰がもし重かったら、金筬姫様はどうなるのだろうか」
金筬姫も巻き添えを食らうのだろうか。そうでなくても新しい夫に厳罰が下ったら、針の筵どころではない。俺も不安になってきた。
俺は時々、祝詞隊の基地に通いながら、彦左衛門から仕事を引き継いでいった。忙しい。けれどもそんな俺を翠は支えてくれる。翠も仕事が有ったけれど、俺の帰りが遅く俺が疲れていると俺の分の家事もした。二人共忙しければ近所の老婆達に頼んだ。
師団長の次は部隊長、部隊長の次は元帥。だから俺は部隊長達にも元帥にも会うようになった。特に出雲会議での打ち合わせで顔を合わせる機会が増えた。元帥を含めて十五人の部隊長達は男女が半々、現世か楽土の出身地も半々で構成されていた。釣り合いが取れていると思う。




