謝罪
現世ではセミが騒ぐ八月。俺達は補陀落の件から立ち直り、また仕事で忙しくなった。特に案内隊は忙しい。盆には楽土から現世に戻りたがる霊体達を誘導しなければならないからだ。現世で友人や親戚がまだ生きている場合の霊体が優先される。次に盆祭りをしっかり行っている所の出身者。どちらでもない者は強く希望する場合、生前から今までの経歴を調べた編纂隊から選ばれる。
八月の半ばは天皇が玉音放送を流した歴史的瞬間でもある。日本以外では九月の始まりが終戦記念になる場合が多い。
俺達戦闘隊も忙しい。盆の刺激を受けて悪霊達が活発化するからだ。俺は七月半ばから自分と部下達に通常よりも更に訓練を課して準備していた。部下達は真面目に取り組んだ。病み上がりだけれども休んでいられない。
翠と縄のいる刑務隊も暇ではなかった。戦闘隊が連れてきた悪霊の受け入れだけではなく、既に牢獄にいる囚人達の更生をしなければならない。盆になると囚人達も現世に戻りたがり、暴れ出す者も出てくる。刑務隊はそれを説き伏せたり抑えたりする。説得や音楽で魂を鎮められれば良いが、それでも囚人が暴れると力で捩じ伏せる。翠は部下達と一緒に刺股で荒ぶる囚人を抑え、笛で落ち着かせていく。
翠は仕事でたまに負傷して帰ってくる。俺はそれを手当てしながら、
「大丈夫か?俺がぶちのめしてやろうか?」
と、尋ねると、翠は困った顔をして、
「余計なお世話。更生が一番の目的だからね」
翠も抵抗したり抑えたりしてはいるものの、隊員を傷付ける囚人を俺は軽蔑する。だが翠は囚人を罰するよりも更生を重視している。隊員を傷付けた者は罪が重くなって種木にさせられるか、その期間が長くなる。
俺も負傷する。医療隊で治療を受けるが、包帯や絆創膏を代える時に翠が手伝ってくれる。家事も翠が負担する。翠は、
「死んだら元も子もないから無茶しないでね」
と、心配する。俺は、
「大丈夫だ。それに誰かを犠牲にして生き残るより死んだ方がマシだ」
翠は溜息を吐く。
今回の盆では俺は怪我をしなかった。翠は囚人に蹴られて脇腹に痣が出来たが、医療隊の治療で二日以内に回復した。
盆が明ける日の朝。俺と翠は玄関から大きな霊圧を感じて目を覚ました。翠が俺より速く着替えて扉を開けると、金筬姫が立っていた。翠は金筬姫の前で跪いた。俺も跪く。金筬姫は、
「謝りに来たので頭を上げて欲しい」
俺達は言う通りにした。金筬姫が悲しい顔をしている。俺と翠は立ち上がり、金筬姫を中に入れようとしたが、金筬姫は動かず、
「松助と補陀落様が皆に迷惑をかけてしまった。私も松助に霊力を少し与えていた」
俺は、
「貴方は松助達に強制されたのでしょう」
金筬姫は俯き、
「あの時、強く拒まなかった」
俺は、
「御自分を責めないでください。台風は阻止できましたし」
金筬姫は顔を上げて、
「今度の出雲会議で改めて神々にお詫びする」
翠は俺と金筬姫を交互に見やって会話を聴いている。俺は金筬姫に、
「貴方ではなく、松助達が詫びるべきではありませんか?」
「そのつもり。私も一緒だ」
金筬姫が答えた。俺はふと気付き、
「縄に会いましたか?」
金筬姫は気まずそうに
「彼に会わせる顔がない。貴方が伝えてくれないか」
俺は、
「いいえ。お会いになって下さい」
金筬姫は一瞬、翠に振り向いた。翠は頭を下げる。金筬姫は、
「邪魔して悪かった」
と、言い残すと踵を返して立ち去った。
翠が溜息を吐いた。金筬姫の霊圧が高くて少し疲労しているようだ。俺は言霊飛ばしで縄に今さっきの事を伝えた。




