再びの決闘
現世では大時化だった。しかし外交隊と土木隊の尽力により台風はだいぶ弱まっている。異国の者達も協力している。現世の人間には人工衛星を通して、弱くなった四つの台風が太平洋北西部をぐるぐる周っているように見られる。結界は半径三千キロの大きさで、日本列島が丸ごと入るほどだ。その中には人の住んでいる島が沢山有るが、その島々にも更に結界が張られている。
人間達はこの異様な台風を人工衛星の他に潜水艦や海底の計測機で調べている。すぐに神霊の業だとは分からないが、俺達の存在は気付かれるわけにいかない。
祝詞隊と捜索隊は結界に近寄り、台風を操っている者を雲の上から探した。霊格にもよるが、俺達霊体はジェット機ぐらいの速さで飛び回れる。けれどもビルほどの波が暴れまわり、空はどす黒い。荒れた大海原から見つけるのは至難の業であったが、グアム島から六百キロほど西側に離れた地点で反応があった。フィリピン海の東側だ。祝詞隊と捜索隊はそれを追跡しながら言霊飛ばしで俺達に教える。
元帥が、
「入れ!」
と、号令をかけると、俺達は一斉に結界の中に入った。戦闘隊と刑務隊の百二十人。ビイイン。全身の肌が突き刺さるような霊圧を感じる。臨戦態勢でなければ怪我していただろう。
迷っていた四つの台風が俺達に勢いよく向かってくる。部隊長の高麻呂と戦闘隊の六十人が互いに背中を合わせて刀の柄を握り、居合の準備をする。残りの六十人の俺達は海面に降りていく。
ドオオン。ドオオン。下から何かが沢山飛んでくる。俺達はそれを斬り伏せていく。砲弾だ。しかし、現世のものではない。俺は斬ったり避けたりしながら更に降りていく。数多の大波が襲ってくる。ブワン。俺が直撃する前に波が砕けていく。縄が大きな芭蕉扇で煽いで波を砕いているのだ。敵味方を認識しているので、芭蕉扇の風が俺に当たっても俺は平気だ。俺は更に降りていく。
船室を囲む四つの鳥居のある大きな木造の船が見えた。ビリビリビリビリ。鳥肌が立った。霊圧は益々高くなっている。あの船が台風を生み出し、操っているのだ。舳先付近の甲板には松助が立っていた。俺は舳先の正面から千歩ほど離れた所で止まった。縄の煽ぐ風と波が相殺されて、俺と船の周りは凪に近かった。
俺は刃先を船に向けてかまえた。肌を通り越して魂近くまで霊圧が刺さってくるようだ。しかし、この霊圧は松助のものではない。船から出ている。
松助が薄ら笑いしながら、
「よく来たな」
俺は刀をかまえたまま、
「その船は何なんだ」
松助は抜刀しながら怒鳴った、
「補陀落様だ!」
衝撃波の様な斬撃で斬られる前に俺はそれを刀で斬り伏せた。松助は補陀落から飛び降りて海面に着地した。俺は海面を蹴り、松助に向かって跳びながら刀を上から下へ振り下ろした。松助も斬撃を斬り伏せる。
俺と松助は刀で宙を薙ぎ払い、斬撃で斬り合いを試みた。海面は抉れ、何度も割れた。衝撃波が走り轟音が響く。それでも互いに退かず、俺と松助の距離が少しずつ近くなる。
斬撃を相殺したり避けたりしても、無傷ではなかった。既に両腕も両脇腹も両足も何ヶ所か負傷している。傷口に雨水や海水が入ってしみる。痛いが少しの油断が命取りになる。松助も同様に傷を負っているようだ。
ギィン。ついに刃が交わる。両腕だけでなく身体を支える脚も傷で痛む。脇腹も痛い。しかし俺は力を振り絞って松助を刀ごと押し倒した。松助は後ろへ跳んで退いた。俺も一歩退きながらかまえる。
松助は険しい形相で刃先を俺の胸に向け、突進する。俺は半歩横へズレながら松助を刺す。手応えと同時に激痛が走った。左脇腹を斬られて血が飛び散った。どくどくどく。高くなった脈拍に合わせて更に流血していく。奥まで届いてなかったので死にはしなかったが、危険だ。俺は勢いよく後へ飛び去る。
松助は既にかまえているが、松助も左脇腹が斬れている。俺もかまえながら、経を唱えて止血を始めた。松助が再度突進してくる。俺はそれを刀で下から上に勢いよく薙ぎ払う。ガシャン。松助の刀が当たって弾かれる。俺は更に松助を上から下へ袈裟斬りにする。先程よりも手応えがあった。
松助は驚いた顔をしながら海面に膝を付けた。海水と血の飛沫が飛び散る。バチャンボチャン。松助の刀が折れて、海面を叩きながら沈んでいった。
松助は海面に座り込み、俯いた。痛みで顔が歪み、斬られた胸と脇腹を押さえている。俺は刀を振って血を飛ばした。松助は、
「早く斬れよ!」
と、怒鳴った。だが俺は先程から様子をうかがっている補陀落に振り向き、刃を向けた。雨はまだ降っている。




