決闘
俺達は楽土から戻った後、縄の家で喧嘩した。外は雨が降っていた。
「何故、金筬姫様から求婚されたと言わなかったんだ」
俺が詰問すると縄は怜悧な声で、
「松助様を刺激するわけにはいかない」
俺は両手で拳を握り、
「お前、松助を本当はバカにしているだろ」
縄はギロリと睨む。俺はかまわずに、
「金筬姫様をも大事にしてないだろ」
縄は高めの声で、
「金筬姫様は松助様を誤解なさってるだけだ」
俺は、
「二人の気持ちをお前は踏みにじってる」
縄は右手で拳を作り、
「じゃあ、どうすれば良かった?」
俺は縄の目を見据えながら、
「半月後には松助が来る。その時に決闘しろ」
縄は目をそらす。俺は、
「松助は金筬姫様を、金筬姫様はお前を好いている。お前だって就任式前に俺に打ち明けた」
縄はゆっくりと俺に振り返り、
「金筬姫様の誤解が解ければ松助様と結婚なさる」
「誤解、誤解、て何だよ!」
俺は怒鳴る。縄は呆れた顔で、
「金筬姫様は松助様に利用されそうになっていると思い込んでいらっしゃるが、お前の言う通り、松助様は金筬姫様を本当に慕っておられる」
「お前は引き際の良い男を演じているだけだろ」
俺の声は意外と冷たかったと思う。縄は目を丸くして怒鳴った、
「お前は妻帯者のクセに何故、俺の立場が分からない!」
俺は、
「妻帯者だから分かるんだよ。二人の為にもお前自身の為にも、決闘しろ」
縄は大きな溜息を吐いた。俺は立ち上がりながら、
「二人から逃げるなよ」
と、言い残して部屋を後にした。外はまだ雨が降っていた。
約半月後。俺は百合ヶ原に座っていた。そろそろ金筬姫と松助が来る。楽土は広いけれど、二人は百合ヶ原に来るような気がした。俺は翠に家で待機するように頼んだ。二人の霊圧は非常に高い。
「あら、また貴方なのね」
後から鈴の鳴る様な声。金筬姫だ。俺は振り向く。金筬姫は微笑んでいる。俺が跪こうとすると金筬姫はそれを制し、
「縄との婚姻は諦めた方が良さそうね」
笑顔のままだがどことなく憂いを帯びている。前回よりも落ち着いており、霊圧を下げている。俺は尋ねた、
「松助がまだお嫌いですか」
金筬姫は少し驚き、
「あの男を呼び捨てにするの?」
確かに海神の下僕として縄は気を遣っていた。俺は、
「はい。祝呪隊を馬鹿にしていたので」
ゾク。高い霊圧が突然右側から感じた。俺が振り向くと、
「金筬姫様から離れろよ」
低い声。松助だ。金筬姫は俺と松助の間に入り冷たい声で、
「私、貴方のそういった態度が気に入らない」
松助が気まずそうに俯く。金筬姫は、
「仕方がない。私はどなたとも結婚しないことにした」
松助が目を丸くして、
「海神様と白瀧様のお決めになった縁談ですぞ」
「私が拒めば反故になる」
金筬姫が言い返すと松助が目を吊り上げる。金筬姫は、
「そんなに怒りをぶつけられると、益々私は嫌になる」
松助は歯をむき出しにした。俺と目が合い、
「この間の続きだ!」
と、怒鳴った。霊圧が更に上がって松助から風が立つ。草が揺れる。金筬姫は、
「彼は関係が無い」
と、止めようとしたが、松助は抜刀した。俺は金筬姫の腕を掴んで俺の後ろに下がってもらった。松助が飛び上がって斬りかかる。すんでのところで俺は腰に差していたナタで受け止める。両腕がビリビリしびれる。一歩下がる。
松助も後ろに下がって体制を立て直すとすぐに俺の右脇腹をめがけて刺そうとした。俺は避けながらナタで刀を薙ぎ払った。松助の体勢が少し崩れる。俺も松助の右脇腹を切り裂こうとした。しかし、避けられて後から背中を斬られそうになった。俺はしゃがんで避けながら、また松助の腹を狙う。
金筬姫は近くに生えていた木の後ろに隠れている。俺は一瞬、それを確かめると、霊圧を上げながら攻撃を繰り出した。先程よりも速く動けるようになった。だが、松助も俺の斬撃をかわしながら斬り込もうとする。
刃を刃で受け止めても、松助は足払いしたり腹や胸を蹴りかかってくる。足が当たって倒れるが、斬られる前に刀をナタで弾いて隙を見て起き上がる。蹴られた所がズキズキ痛み、呼吸が乱れるが、俺も何度か松助を蹴飛ばして斬りかかる。
切り傷の痛みと蹴られた苦しみが松助の殺意で麻痺している。油断していたら本当に殺される。
「もう、止めなさい!」
金筬姫が大声で叫ぶ。しかし松助は肩で息をしながら、
「では、俺と結婚してくれますか?」
俺はナタをかまえる。だいぶ刃こぼれしている。松助は短く笑い、
「よくもまあ、そんなもので耐えているな」
俺はナタをかまえたまま、松助を見つめる。松助はどう出るか。だが、松助は刀を下ろし、
「もう一人はどうした。怖気ついたのか」
俺は、
「分からない」
松助は刀を大きく振ると鞘に入れた。俺が訝ると松助は、
「これ以上、お前と戦う理由はない」
俺はまだナタをかまえたまま、
「金筬姫様はあんたを拒んでいる」
「そうだな。今日はお前の頑張りに免じて諦めてやる」
と、言って立ち去ろうとした。




