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冬空  作者: 加藤無理
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就任式

 俺は次の休日に金筬姫について調べた。歴史を編纂する編纂隊の同僚に頼んで資料を集めてもらった。同僚も縄の恋に薄々気付いている様子だが、俺達は敢えて話題にしなかった。


 金筬姫は桐生(きりゅう)の白瀧姫の末裔(まつえい)の一人だ。神としては若く、現世では服飾産業を見守っている女神だ。全国各地で様々な名前で祀られている。容姿端麗だが婚姻の記録は無い。現代の環境汚染に服飾産業が関わっている事に心を痛めている。服飾産業は国や地域を越えて行われているので、外国の神々との取引も行っている。


 縄が金筬姫との婚姻を諦める要素は特に見当たらなかった。金筬姫が縄を受け入れる可能性は有る様に思える。結婚しても部隊長は務まるはずだ。逆に金筬姫が縄を拒んだとしても縄はしばらく苦しむだろうが立ち直れるだろう。縄は弱くない。


 俺は縄に想いを金筬姫に告げるべきだと助言しようとしたが、止めた。今は部隊長就任式前の大事な時だ。しかし放っておくわけにもいかない。


 勤務中のある日、俺は戦闘隊の連隊長として今は刑務隊の師団長である縄に敬礼しながら、

「師団長。部隊長の就任を快くお待ちしております」

 その時の俺の顔は無表情だったと思う。恋愛が成就すれば理想だけれど、縄自身が拒んでいる。縄には就任式に集中してもらうしかない。縄は穏やかな声で、

「ありがとう」


 旧暦の正月。現世では一月の終わりから二月の始まりにかけてだ。就任式が始まる。祝呪隊はその準備で忙しくなった。どの部隊も通常業務を行う者達と、式の準備をする者とに分かれた。俺は縄の幼馴染(おさななじみ)だったので、後者に配分された。俺達は高麻呂(かたまろ)部隊長の元で潔斎したり祝いの演奏を練習したり酒を用意したりした。


 式は刑務隊の基地の近くにある丘で行われる。遠目で祝呪隊以外の者も見られるようにしている。


 祝呪隊の総責任者である元帥が百数十年も変わっていないので、そのすぐ下の部隊長も簡単には変わらない。早くても十数年に一人が変わるぐらいだ。


 今の刑務隊長は鎌倉幕府が開幕した時代に生きた僧侶だ。名は宋真(そうじん)。宋真は数年後には成仏する事がほぼ決まっている。見た目は七十代の老人だが、足腰はしっかりしている。すっかり成仏して楽土から居なくなる前に代替わりを済ませるのだ。


 二月の始まり。どうしても仕事が外せない者以外は全員、丘に集まった。祝呪隊の総員は四十万前後だ。そのうち、三十万人ほどが参加している。丘の麓にも楽土の者達が囲むように様子を見に来ている。


 霊力と霊格の差が大きすぎると霊力の小さい者は不調をきたす。だからそうならないように俺達は透明な結界を張っている。


 頂上には元帥が立っている。その正面に俺達は向かい合って並んでいる。その間には宋真と縄が立っている。宋真は俺達の左側、縄は右側。


 宋真は右手に刀、左手に銅鏡を持っている。首には勾玉をかけている。宋真が両手をゆっくり上げる。刀と銅鏡が持ち上がる。宋真はおもむろに舞を始める。銅鏡と刀が太陽を反射してて眩しい。俺は大きくまばたきをした。けれども宋真の舞は厳かで優美だ。


 縄が静かに跪き、両掌を宋真に向ける。宋真は舞を終えて銅鏡と刀を渡す。縄がしっかり握ると宋真は勾玉を縄の首にかけた。


 縄も舞を始める。勇壮だ。無表情だが気迫が伝わってくる。宋真よりも動きは速く激しい。俺は縄を目で追う。


 舞が終わる。縄は俺達に向きながら刀の刃先と銅鏡の表面を空に向けた。静かに両腕を下ろすとゆっくりと元帥に振り向く。元帥に刀と銅鏡を手渡す。


 俺達は順番通りに演奏を始める。まずは祝詞隊から。俺は戦闘隊の番になると太鼓を叩いて式を祝った。


 長い演奏が終わると、麓から様子を見に来ていた者達が拍手した。俺達は皆に敬礼した。式は無事に終了だ。


 

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