第七十九話
第七十九話です。
砦には半日も掛からずに到着することができた。
それだけ純魔の魔力によって強化された魔馬の力が凄かったということもあるけど、何気にその魔馬たちが全力で引いた上で壊れなかった馬車もすごかった。
正直、乗り心地は最悪の一言に尽きたけど、それはしょうがないことだろう。
地形的な問題で馬車が止まったのは砦を建設する渓谷から少し離れた地点なので、先に到着していたフィルゲン王国の騎士と冒険者の方に馬車に乗せた物資を下ろすのを手伝ってもらいながら、砦へと向かう。
『土魔法使いは土台を、石魔法使いは支柱を作るんだ!』
『刃物系の形態変化型の魔法使いは木材の調達! 風魔法持ちはその木材の運搬を頼む!』
『時間がない! 綺麗に作る必要はないが手を抜くなよ!!』
あらためて見ると、魔法って凄いと思う。
元の世界では沢山の時間をかけて作るものが、あっという間に形になっていっている。
渓谷の間に建造されていく砦。
そこには多くの人が集まり、互いに協力しながら作業をしている。
「カイト、あれ」
「ん?」
リーファが指さす方向を見れば、そこには組み立て式の弩弓のようなものがある。
大型の魔具なのだろうか? 映画とかで見るそれとは違って、少し機械的に見える。
僕とリーファと一緒に来ていたジェフさんは、感嘆の声を零す。
「ほう、魔獣用の城塞兵器ですか」
「あれも魔具なんですか?」
「はい。あれならば、巨獣にも攻撃を届かせることが可能でしょうね」
たしかに僕の身長よりも大きい杭を打ち出すだろうから、威力はとてつもないものだろうな。
組み立てられていく弩弓を見た後、馬車から持ってきた物資を下ろした僕とリーファは、一旦ジェフさんと別れて、急造で作られたテントの中に移動することになった。
ジェフさん達は、部下の人達と共に砦作りを手伝うらしい。
「まだ作戦会議にまで時間はあるけど、どうする? 砦作りを手伝って良いならそっちに行くんだけど」
「いや、おぬしもリーファも魔法での建造には向いていないので、やめておいた方がいいだろう」
「……でも」
「手伝いたい気持ちは分かるが、そちらはその道の者達に任せるべきだぞ?」
……たしかに僕の魔法じゃ力にはなれないか。
肉体強化ならまだ手伝える余地はあるけど、魔力も相応に食ってしまう。
「それよりも、私達はいざという時のために待機していた方がいいだろう」
「ん? いざという時ってどういうこと?」
「それは――」
リーファの問いかけにシフが答えようとしたその時、外で誰かの悲鳴が聞こえる。
それに伴い、複数の獣のような唸り声が響いたことで、ほぼ同時に動き出した僕とリーファはテントの外へと飛び出す。
声は砦の方から聞こえてきた。
あの唸り声からして、ただの獣じゃない。
「魔物の襲撃か!」
「やはり来たか! カイト、リーファ、私達はベヒモスにより生態系を狂わされた魔物への対処だ! 砦に被害が出ないようにするぞ!」
「ああ!」
「うん!」
帽子へと変身したシフを被り、棍棒へと変形したライムを握りしめた僕はリーファと共に砦の方へと駆けていく。
建造中の砦にはパニックに陥っている人々が、ヘンディル王国とは色の違う一頭のグリフォンと緑色の人型モンスターに襲われていた。
グリフォンは知っているけど、あの小さいのは……?
「ゴブリンだ! 狡猾で頭が回る厄介なやつだ!! 囲まれたら厄介だぞ!!」
「あれがゴブリンか……!」
砦にいるのは戦える人ばかりじゃない。
砦を建造するためにやってきた人もいれば、ブロンズの冒険者もいる。
いやそれ以前に、グリフォンというモンスターを相手に太刀打ちできる人の方が少ない。
「カイト、あのグリフォン落とせる?」
「ああ!」
「じゃあ、お願い。あとは私がやる」
腰からボトル型の魔具を取り出したリーファを見た僕は、すぐに腰から矢を取り出し弓へと変形したライムにつがえる。
そのまま立ち止まった僕は、空から人々を襲っているグリフォンへ向けて電撃を纏わせた矢を放つ。
矢は右の翼のど真ん中に直撃し、付与された電撃がグリフォンの身体を痺れさせる。
「ギ、ギギャッ!」
「リーファ!」
「うん!」
リーファがボトル型の魔具のボタンを押すと、金色の純魔の魔力が溢れだし彼女を包み込む。
魔物の力の一端を解放させた姿となったリーファは、影を伴いながら地面へと降り立ったグリフォンへと向かっていく。
———今の彼女ならグリフォンくらいわけなく倒せるだろう。
僕は、ゴブリンに襲われてる人を助ける。
「ギャギャギャ!!」
「うぅ! このっ!!」
今にもゴブリンに押さえ込まれようとしている人の元へと駆けつけ、ゴブリンの胴体に棍棒での突きを繰り出し、吹き飛ばす。
「大丈夫ですか!」
「あ、ああ! ありがとう!!」
「ここは僕に任せて! 怪我をした人たちを!!」
「わ、分かった!!」
冒険者だろうか? 急いでこの場から離れる褐色肌の少女を見送ったあと、ライムを剣へと変形させながらゴブリンの大群へと向かっていく。
このまま騎士達が来るまで時間を稼ぐ。
「シフ、火炎を!」
火炎付与により剣が炎を纏う。
それを大きく横薙ぎに振り回し、前方に炎を放ちゴブリンを焼き尽くしながら、手近な一体を斬りつける。
当然、他のゴブリンも黙っているはずもなく襲い掛かってくるが、瞬時にライムを槍へと変形させ薙ぎ払う。
そのまま眼前に集中している五体のゴブリンを視界に収めながら、低く槍を構える。
「シフ、肉体強化を! スノウさんの攻撃パターンを再現する!」
「おう!」
全身に力が漲ると同時に、前へと飛び出し高速での三連突きを放つ。
それらは三体のゴブリンの急所へと叩き込まれ、絶命させる。
「ギャ、ギィィ!!」
奥から飛び出してくる一体に柄の部分を叩きつけ足払いをかけ、回転と共に放った振り下ろしを首へと叩きつけ、首をへし折る。
そして強い踏み込みと共に、最後の一体に掌底を叩き込むと同時に―――、
「食らえ!!」
魔具製の手袋に電撃を流し、とどめを刺す。
吹き飛ばされそのまま動かなくなったゴブリンを確認した僕は、そのまま次へと目を向ける。
「肉体強化をしてようやく形になるか。やっぱり、まだまだ遠いな」
「だが、着実に力は付いている。今でも十分に進歩しているぞ」
一瞬のうちに五体を倒した僕に、威嚇をしてくるゴブリン。
まだ十体以上いるけど、この調子なら僕だけでもなんとかできるだろう。
神経を研ぎ澄まし、槍を構える。
「カイト君、避けて!」
僕へと掛けられた声。
その声に従い、すぐさま後ろへと下がると側方から鉄砲水を思わせる勢いで、水が飛び出し、ゴブリンの群れを飲み込んだ。
全てのゴブリンを飲み込んだ水はミキサーのような回転をしながら、空中に浮かび上がり球体へと変化する。
水を放った者―――、チサトは両手で水を操りながら僕を見る。
「今だよ!」
「そういうことか! シフ!!」
「おう」
球体へと掌を触れさせそのまま電撃を流し込む。
水を通して電撃が拡散し、一纏めにされたゴブリンが感電していく。
全てのゴブリンの身体から力が抜けたのを確認した僕は、水から手を離し下がる。
「ありがとう。助かった」
「どういたしまして」
チサトが魔法を解くと、水はゴブリンと共に地面へと落ちる。
……仕方ないとはいえ、始末するしかなかったか。
いや、甘いことも言ってられない。
思考を切り替えてリーファの方を見れば、血まみれで倒れ伏したグリフォンに止めをさしている彼女の姿が見える。
怪我もしていないようだし、良かった。
「チサトは今、到着したのか?」
「そうだね。魔物に襲撃されてるって聞いたから急いできたの」
なにはともあれ助かったな。
彼女がいなければ戦いが長引いてたし、何が起こるか分からなかった。
戦いが終わって胸をなでおろしていると、ふと、チサトがいつもの変装ではなく、茶色がかった黒髪と眼鏡のかけていない素顔でいることに気付く。
「……あれ、変装はしてないの?」
「うん、今は勇者としてここにいるから」
「……だとしたら、カイトがここにいるのはまずいのでは?」
そうシフが言うと、ハッとした表情を浮かべた彼女が周りを見ると、そこにはグリフォンとゴブリンの襲撃に対処しようとしていた騎士達と、冒険者達がこちらを伺っていることに気付く。
フィルゲン王国の勇者といる謎の男。
しかも、この国に出回っている人相書きと似ているとなれば、色々とややこしいことになりかねないかもしれないな。
「……しまった。ごめん、カイト君」
「いや、いいんだ。それより今から僕のことをジェイコブと―――」
「カイトっ!」
咄嗟に偽名を名乗ろうとした僕の名を、これでもかと大きな声で呼びながら駆け寄ってきたリーファ。
手に持ったボトル型の魔具を僕へと手渡した彼女は、かなり上機嫌な様子だ。
「これ使えるねっ! いつでも変身できるよっ!」
「リーファ……」
「ん、どうしたのチサト?」
額を押さえるチサトに首を傾げるリーファ。
とりあえず、彼女が渡してくれた魔具に魔力をチャージさせた後に、彼女の肩に手袋に包まれた右手を置く。
「ん、どうしたの?」
「……シフ、ビリビリ電気ショック」
「は? え? うぇ!? あばばば!?」
とりあえずリーファの肩に手を置いた僕は、最近開発したお仕置き用の技、ビリビリ電気ショックを彼女へとかけるのであった。
リーファよ。
バレてもいいとは言ったけど、僕のことじゃないからね!?
スノウの動きを一時的に再現するという地味にやばいことをやってのける主人公でした。
まあ、何度もその身で食らってますし。




