第八十話
第八十話です。
思いもよらないタイミングで、勇者であるチサトと僕達になんらかの繋がりがあることが周囲にバレてしまった。
まだはっきりとはバレていないけれど、変装をしていない勇者としてのチサトと普通に会話していた時点で、周りからすれば「誰だ、あいつ」的な反応をされるのは当然のことであった。
「ま、今はそんなこと気にしてる場合じゃないか」
巨獣という危機が迫っているのに体裁とかを気にしている場合じゃない。
いずれはバレることなんだから、気にするだけ無駄だ。
そう自分に言い聞かせながら、合流を果たしたチサトと共に行動する。
「チサト、ここのギルドから金の冒険者は来ているの?」
魔物の襲撃の後、注目を集めてしまったために人目のつかないテントの中へ移動した僕達。
ようやく、落ち着いたところでリーファがチサトにそんな質問を投げかけた。
フィルゲン王国の金の冒険者。
確かにリックさん並みの実力者が集まれば、頼もしいことこの上ないな。
「昨日の魔物の襲撃のあとに各砦に合流したところだよ。といっても、金の冒険者は七人しかいないけど」
「そうなのか……? それじゃあ、黒の冒険者は?」
「いない、らしい。そもそも黒の冒険者自体、秘匿された存在らしいし」
フィルゲン王国ならもしかしたらって思ったけど、黒のランクの人はいないか。
というより、金の冒険者の人が7人か。
「チサトは金の冒険者の人達についてはどれくらい知ってる?」
「第一の砦に三人、第二の砦に三人、第三の砦に一人配備されたけれど、真面目な人達だから心配はないと思う」
「「「……真面目?」」」
「なんでそこで首を傾げられるか分からないんだけども」
脳裏に浮かぶのは、僕達を棒で叩いてしばきまくるスノウさんと、魔物のことになると瞳孔を開きながら延々を喋り続けるセラさんと、基本アバウトなリックさんの姿が思い起こされる。
「多分、こっちとそっちじゃギルド内でのランク付けの基準がちょっと違うのかもしれないね。こっちは純粋な実力とギルドへの貢献度で変わってくるから」
「うむ、恐らくヘンディル王国の基準は、変人具合だな。私達に訓練を施した三人の金の冒険者は皆、程度は違えど変人揃いであったからな」
「へ、へぇ……」
引いた様子を見せるチサト。
否定したいけれど、リックさん達が変わり者なのは事実なので何とも言えない。
あとそう言っている僕達も、同じ変わり者なのも自覚している。
「チサトさん、ここにいましたか」
「メル? どうしたの?」
「ヴェルガ様がお呼びですよ。あ、リーファ様もお呼びするように言われております」
「ん、分かった」
勇者二人を呼ぶということは作戦会議か何かか。
僕は行かなくてもいいのかな?
「カイト、留守番してて」
「ああ、分かった。ちゃんと説明とか聞いてくるんだぞ」
こくりとリーファが頷くと、チサトと共にテントから出ていく。
その場に残った僕は、特に何もすることがないので先ほど戦闘に用いた手袋へと目を向ける。
「実戦では問題なく使えたね」
「そうだな。高い威力の電撃を通しても問題なかったし、ハクロを重ねての応用もできるかもしれないな」
「試してみるか」
半透明のオオカミ、ハクロを呼び出し手袋をはめた右手へと纏わせる。
ひゅんひゅん、と風切り音を立てながら手の周りを風が渦巻く。
「この上に、電撃付与。弱めにね」
「うむ」
手袋からは嵐のように風と電撃が迸る。
相手と密着した状態でハクロを放てば、敵を吹き飛ばすこともできるし。
火炎付与バージョンで放てば、中距離の相手にも有効な攻撃にもなる。
そして――、
「ハクロ、もう一つ試したいことがある」
「ウォン?」
少し前から試してみたかったことがあった。
可愛く首を傾げるハクロに苦笑しながらも説明をした僕は、了承してくれたハクロの頭に手を乗せるのであった。
●
結果的に言うのなら、僕の目論見は成功した。
その代わり、危うくテントが吹き飛ぶところだったのでシフには怒られてしまった。
そのまま色々と試すのもアリだったけど、あまり多く魔力を使う訳にもいかないと思ったので、僕達はテントを出てここまで僕達を運んできてくれた魔馬の元に向かうことにした。
夜になり、魔具と松明で明るく照らされた砦を歩いていく。
「僕達が魔物の襲撃には気を配らなくちゃな」
「ああ、ここにいる彼らを危険にさせるわけにはいかないからな」
先ほどのような魔物の大群に襲われれば、砦を作る作業も邪魔され計画が間に合わなくなってしまう。
巨獣が到達する時間はまだ少し先だが、気の抜ける状況じゃないことは確かだ。
「あ、あのっ!」
「はい?」
できるだけ人目につかないように歩いていると、声をかけられる。
なんだと思い振り返ってみると、先ほど魔物の襲撃の時に助けた少女がいた。
剣を装備しているように見えるけど、あまり使われているようには見えない。
ブロンズの冒険者なのだろうか?
「さっきはありがとう! 助かった!!」
「怪我はなかった?」
「ああ! 大丈夫だった!!」
げ、元気だな。
見た目通りに快活な少女に苦笑しながら、怪我をしていないことに安心する。
あの場で大きな怪我をした人がいなくて良かった。
「い、いやー、魔具の組み立てのためにここに来たのはいいけど、まさかゴブリンに襲われるとは思わなかったから本当に助かったよ。……あっ、あたしはアルカっていうんだ。改めてよろしく!」
「よろしく。僕はカイ……ぶへぇ!?」
肩に跳び乗ってきたシフが尻尾で僕の頬を叩いてきた。
なにすんだ、って思ったが僕はうっかり自分の名を口に出しかけていたことを気付く。
「か、カイって言うんだ。よろしく」
「う、うん? カイね」
僕の肩のシフを見てぎこちない笑みを浮かべるアルカ。
続いて僕を見た彼女はやや遠慮気味に話しかけてくる。
「それでさ、聞きたいことがあるんだけどさ……いいかな?」
「? 僕に答えられる範囲なら……」
聞きたいこととはなんだろうか?
やっぱり僕の戦い方についてかな?
「あ、あんたは勇者様の従者なの……?」
「……誰の?」
「誰って、そりゃあこのフィルゲン王国の勇者様のだよ」
いや、従者だけれど、従者だけれども違う。
内心の動揺を顔に出さないようにして、彼女の言葉を否定する。
「いや、違う。僕は彼女の従者じゃないよ」
「え、そうなの? あの抜身の剣みたいな勇者様と仲良さげな人は初めて見たし、皆口には出さないけどそう思っていたんだけど」
「……ミンナ?」
「うん」
彼女が指さしたのは砦の建造に勤しむ人たちと、その周囲で警備している騎士と冒険者の人達。
「あの場にいた人達全員、あんたのことそう思ってるよ?」
もう否定する以前の話じゃない。
状況的に完全にそう思われてしまっているのか!?
僕はリーファの従者なのに、まさかのチサトの従者として認識されてしまったことに現実逃避したくなるのであった。
一般人視点だと、カイトは基本誰に対しても毒舌な勇者がなぜか心を開いている人という認識となります。




