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第七十八話

第七十八話

 巨獣ベヒモスへの対策として、三つの砦を築き集めた戦力を以てして迎え撃つことになった。

 王国では、たくさんの騎士達と、ギルドに所属する冒険者達が出発の準備を整える中、僕とリーファも必要な荷物を馬車へ詰め込んでいた。


「これでよし」

「荷物、詰め終えたよ」


 馬車へ積んだのは主に食料などだ。

 砦作りに関しては、ほとんどを魔法で作ってしまうということなので、それほど物資は必要ないらしい。


「リーファ、忘れ物はないよな?」

「シフ、忘れ物はないよね?」

「カイト、リーファは置いていこう」


 たらいまわしにするように訊いたリーファに、シフが割とマジなトーンで僕へと言ってくる。

 まあまあ、となだめつつ、もう一度食料と、僕達の持っていく荷物の確認を行う。

 そうしている間に、僕達を呼ぶ声が聞こえてくる。


「リーファ様! カイトさぁーん!」

「「ん?」」


 僕達を呼ぶ声に振り返ると、先日僕の魔力の研究をしていた研究員の女性が何かをもって近づいてきているのが見える。

 なんだあれ?

 試験管? ボトルのように見えるが、蓋のようなものはついていない。


「ど、どうしたんですか?」

「た、戦いに向かわれると聞いて……お二人に必要と思えるものを持ってまいりました!」


 必要なもの……?

 それに興味を惹かれ、馬車から飛び降りて研究員さんの前に歩み寄る。


「これを……!」


 中々の勢いで差し出されたのは、先ほど見えたボトルと……手袋のようなものだ。

 ボトルの方は遠目で見た通り蓋はついてなく、スイッチのようなものが上についている。

 持ってみると中々に重い。


「なにこれ?」


 ボトルを手に取ったリーファが首を傾げる。

 研究員さんは、やや自信満々な様子で説明をしてくれる。


「それはですね。魔力を置換させるために作った魔具です」

「置換?」

「本来は使用者の魔力特性をそのままそれに移し替えることで、魔力を失った状況でも魔法を使えることを想定した魔具なんです」


 魔力を別な場所にチャージさせて使うって感じか?


「ですが、置換できる魔力には限度があることに加えて、使用したら中にある魔力全てを使い切ってしまうので、実用には向いていないんです」

「え、それじゃ使えないんじゃないの? これ」

「いえ、お二人にとっては違います!」


 ずぃ! とやや食い気味にリーファの言葉を否定した彼女は、もう一つあるボトルを僕へと差し出してくる。


「これにカイトさんの魔力をチャージし、それをリーファ様が持っていれば離れていても先日のような力を発揮できるようになります!」

「た、たしかにそうですね……。魔力はどうやって入れるんですか?」

「上のスイッチを押した状態で、魔力を籠めるだけで大丈夫です」


 おずおずとボトルを受けとり、上のスイッチを押した状態で純魔の魔力を掌へ灯す。

 すると、吸収されるように純魔の魔力がボトルへと吸い込まれていく。

 吸収された量こそ少ないけど、リーファが純魔転身するには十分なほどだ。


「リーファ、そっちのも」

「うん」


 魔力が入ったボトルを手渡してから、もう一つのボトルに先ほどと同じように魔力をチャージさせる。

 渡されたボトルは二つ。

 それを受け取ったリーファは、腰の小さなポーチに二つのボトルを詰め込んだ。


「もう一つの方も説明しますね!」

「この手袋のことですか?」


 見た目は黒い手袋だ。

 手の甲にはうっすらと幾何学的な模様が刻み込まれている。


「それはカイトさんのために持ってきたものです」

「僕に?」

「試しに着けてみてください!」


 言われたとおりにつけてみると、伸びやすい材質なのか思ったよりすんなり着けられる。

 服装的には、アンマッチってほどじゃないけど……なんか、スパイ映画とかで見る暗殺者みたいな見た目になったな。


「それは魔力濃度の高い地域への調査のために作っていた服の一部です。外部からの魔力への耐性が強いので、使い魔さんの支援魔術も付与したとしても、肉体にダメージがいくことがなくなります」

「おお! ライムを介さなくとも私の火炎と電撃が扱えるようになるのか!」


 ぴょん、と僕の肩に跳び乗ってきたシフはそのまま僕の右手の手袋に電撃をかける。

 すると僕の右手が電撃を放ち、バチバチと音が鳴る。

 僕も試しに純魔の魔力を手から放つと、手袋に阻害されることなく魔力が溢れ出てくれる。


「———シェイプシフター闘法、解禁か」

「待て、私のもあるのか? え、あるの?」


 ライムだけではない、シフの支援魔術を中心とした格闘術。

 この手袋のおかげで僕の戦いの幅はさらに大きく広がったといってもいい。

 でも、決して安いものではないはずだ。

 僕とリーファは改めて、研究員さんにお礼を言う。


「こんないいものを……ありがとうございます」

「ありがとね」

「いえ、この国のために力を貸してくださるのですから、これでもまだ足りないくらいです。……私達にできることはこれくらいしかありませんが……頼みます」

「……はいッ」


 ここまでされたら気合も入るものだ。

 研究員さんの言葉に強く頷いた僕達は、その場を去っていく彼女を見送った後に、それぞれがいただいた魔具を見る。


「これで私はいつでも純魔転身ができるようになったってことかな?」

「僕はシフの支援魔術をさらに上手く生かせるようになった」

「うむ、魔具を使う考えはなかったが、いざ渡されてみると……人間の技術力の高さを思い知らされるな」


 魔具自体とても高価だ。

 今持っているこれらは王国の魔法専門の研究員さん達が作ったもの。

 その価値は計り知れないだろう。


「リーファ様! カイト殿! 準備整いました!! 魔馬の方、よろしくおねがいします!!」


 ジェフさんの僕達を呼ぶ声がすぐ後ろで聞こえる。

 リーファに先に馬車に乗るように促した後に、僕とシフは二頭の魔馬の方へと近づく。

 こちらに気付いた二頭の魔馬は、僕の方に頭を寄せてくる。


「今から少しだけ魔力を与えるけど、びっくりさせたらごめんね」

「ブルル……」

「うむ、大丈夫そうだ。カイト、いいぞ」


 澄んだ黒目と目を合わせた僕は、二頭の首元に手を添えながら少しだけ純魔の魔力を流し込む。

 すると、二頭の魔馬の身体が小さく震え、喜びを表すかのように雄たけびを上げる。


「———!」


 それに伴い、見て分かるほどに力強い雰囲気を纏った魔馬。

 僕はもう一度、魔馬の身体を撫でつけたあとに、魔馬の手綱を持っている方に魔力を与え終えたことを伝えた後に、馬車へと入る。


「いよいよだね」

「ああ」


 号令と共に、馬車が走り出す。

 荷物を積んでも尚、純魔の魔力を与えられた魔馬たちは最初とは比べ物にならない力と気合で、馬車を引っ張っていてくれている。

 これから向かうは、巨獣ベヒモスを迎える砦。

 まだベヒモスがどんな姿をしているかは分からないけど、きっと簡単な戦いではないことは確かだ。


新装備によりシェイプ(S)シフター(S)闘法解禁

これで電撃アイアンクローとかできるようになりました。

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