第七十七話
第七十七話です。
フィルゲン王国、王国騎士団団長、ヴェルガさん。
彼の指揮で巨獣ベヒモス撃退作戦が立てられることとなった。
ヘンディル王国とも連絡を取り、正式に作戦に参加することになった僕とリーファは、巨獣発見から一夜明けた作戦会議室にて、立てられた作戦についての概要を聞くことになった。
「巨獣は真っすぐに、フィルゲン王国へと向かってきている。それに対し、我々が取るべき行動は、巨獣の撃退、進行ルートの誘導、または抹殺となる」
そう言ったヴェルガさんは幅広いテーブルに敷かれたフィルゲン王国の全体の地図を指さす。
「王国への到達予想は二日後の昼。それまでには避難は間に合うだろうが、多くの人々の帰る場所が失われてしまう。そうなれば、フィルゲン王国の民は帰る場所のない流浪の身となる。そうさせないために、我々は尽力を尽くす。分かったな?」
「「「ハッ!」」」
ヴェルガさんの声に、応える騎士達。
それに頷いた彼は、今度は作戦の説明を始める。
「作戦は、今日この日と明日で三つの砦を建造する。そこに人員を配備し、巨獣を撃退する」
光を放つペンでベヒモスらしき木彫りの象とフィルゲン王国を一本線で結ぶと、その間に砦を見立てた木を三つ等間隔に置いた。
よく見ると木が置かれた場所は、森ではなく谷の中のように見える。
これは、元々が大きな川だった場所だってことかな?
「奴は、渓谷に生じた道を障害物をものともせずに一直線に王国へ向かってきている。そこに三か所の砦を設置し、そこで奴を迎え撃つ」
「もしも、ベヒモスが砦を避けるように迂回したらどうするんですか?」
そこでチサトがそんな質問をしてきた。
その質問が来ることを予想していたのか、ヴェルガさんは唸る。
「迂回する道はない。少なくとも高い知性がなければな。だがその上で迂回しようものならば、間違いなくベヒモスの近くには奴を操っている不届き者がいるだろう」
「……そいつも炙り出すつもりですか?」
「あわよくばな。その者を捉えれば、ベヒモスを止める手段を持っている可能性が高い。だが、そうでなかったら……」
ルートを迂回したベヒモスとの真っ向からの戦いとなるわけか。
そこまで来てしまうと、ほぼほぼギャンブルみたいなものか。
なら、ここで僕の純魔の魔力が役に立つな。
僕はおもむろに手を挙げる。
「僕が囮になります」
「君は、リーファ殿の従者のカイト殿? なにか方法が?」
「僕は金の純魔の魔力です。魔物ならば、僕の魔力に引き寄せられ、誘導することができるかもしれません」
「……そうか! 高純度の魔力なら、ベヒモスを惹きつけることも可能なのか!」
僕という餌でベヒモスの動きを誘導する。
うん、自分で提案してなんだけど、僕って餌扱いだよね、これ。
「最悪、僕がベヒモスが王国を進むルートから外れるように―――」
「いや、それは無理だ。カイト」
シフ?
僕の言葉を否定したシフにその場にいる全員の視線が集まる。
それに若干居心地が悪そうな顔をしながらも、彼は僕の肩に跳び乗る。
「それをするにはおぬしが長時間、ベヒモスの気を引くほどの魔力を放出しなければならない。あくまで、誘導できるのは一度だけと見た方がいいだろう」
「それ以上したら?」
「干からびて死ぬ。あとベヒモスに食われて死ぬ」
「……あ、はい。一度限りの魔物ホイホイとして頑張ります」
さすがに魔力枯渇で死にたくない。
ヴェルガさんも、やや引いた様子だ。
「ふ、ふむ、カイト殿のおかげで不測の事態でもなんとかなりそうだ。……第一陣でベヒモスの力を削り、第二陣で全力での迎撃、あくまで最後の第三陣は保険とする」
しかし、話はちゃんとまとまってくれたようだ。
「では作戦は以上だ。これからギルドと騎士団などの人員を三つに分け、渓谷へ移動した後に魔法を用いて砦を建造する。心してかかるように」
「「ハッ!」」
その後、それぞれの部隊が三つの砦へと割り当てられていく。
僕とリーファ、そしてチサトが割り当てられたのは、ベヒモスへの本格的な攻撃を意味する二番目の砦となった。
魔力で誘導するという形でなら、中心の方が色々と都合がいいという判断らしい。
今日中に出発してしまうというので、急いで準備を進めなくてはならない。
それぞれが行動に出ている時、僕のすぐ隣にいたチサトは、テーブルの上の地図をジッと見て、砦近くの地形を確認していた。
「何を見ているんだ?」
「水場があるとこだね。私の魔法って周りの環境に結構影響されるし」
たしかに彼女の魔法は周囲に水があればあるほど強力だ。
フィルゲン王国は湖や川などが多い。
彼女が十全に力を発揮できる場所をあらかじめ知っておくのも重要なのだろう。
「カイト、ジェフさんがここに来ているから、説明しに行こう」
「そうだね。チサト、後で合流しよう」
「分かった」
チサトと一旦分かれて、リーファと共に城の外へと向かう。
ベヒモスという恐ろしい魔物が近づいていると知ったこの国は一種の恐慌状態にあったようで、いたるところで騒ぎが起きている。
それとは別に、作戦のための喧騒に満ちた城の敷地の中で、僕達はジェフさん達、護衛の騎士の姿を見つける。
「ジェフさん、来てくれてありがとうございます!」
「いえいえ、事情は全てここの騎士から聞きました」
ジェフさんと合流した僕は、先ほど知らされた作戦を彼らにも教える。
「フィルゲン王国の危機というからには、私共の力を存分に振るって見せましょう」
「すみません、巻き込んでしまう形になってしまって」
「とんでもない! 私達は人々を守るために騎士になったのです。国は違えど、そこに住む人々の価値に変わりはありません。ならば、私達が剣を振るう十分な理由になりえます」
「……ありがとうございます」
迷いもなく頷いてくれたジェフさんと騎士達。
それに申し訳なさと、頼もしさを感じながら、出発の準備をするように話す。
「では、行きに利用した馬車で向かいましょう」
「え、遅くはないんですか?」
少なくとも、行きの時はゆったりとした移動だったけれども。
「魔馬の力をもってすれば、戦いに必要な物資も積める上にかなりの速さで移動できるはずです。その分、乗り心地は最悪でしょうけどね」
「魔馬もモンスターだから、カイトの魔力を与えればさらに力も増すだろう。それで使い魔にしろとせがまれたら厄介だが、この際致し方ないだろう」
フィルゲン王国側で移動手段をもらえるかと思っていたけれど、自分達で用意できるならそれに越したことはないか。
なら、そうと決まればすぐに装備と荷物を整えて出発の準備をしよう。
なるべく、他の騎士さん達と足並みを揃えていきたいし。
「カイト」
「ん?」
背後からの声に振り向くと、そこには真面目な表情のリーファがいる。
「大きな戦いは初めてだけど、頑張ろう」
「そうだね。あと、できれば大きな怪我をしないようにも気を付けよう」
多分、ニーアの時以上の戦いになるかもしれない。
僕達はあらゆる最悪の可能性を考えながら、行動していかなくてはならない。
「あと、馬車が狭い時は、私がカイトの影に入るから安心して」
「台無しだよ……」
昨日僕が天然扱いされたけど、目の前のこの子の方がずっと天然だわ。




