第七十三話
この小説を書くようになってから生き物の動画を見るようになりました。
心が強くなりました(!?)
第七十三話です。
リーファが戻ってきた後、すぐにチサトとメルさんが両手に料理の乗せられたお皿と飲み物を持って帰ってきた。
早速、席に座った僕達は人の多くなってきた通りの中で、やや遅めの昼食を食べることにした。
「正直な話、この世界にきて最初に感動したのが、食べ物事情なんだよね」
「分かる」
「やっぱりカイト君も?」
魚を綺麗にほぐしながらそう口にしたチサトの言葉に頷く。
シフとリーファは無我夢中な様子で目の前の食事を食べている。
「元居た世界も美味しいものがあったけれど、こっちもこっちで美味しいよね」
「ああ。調味料とかも似通っているってこともあるけど、やっぱり僕達の知らない食材や料理を食べられるのがいい」
「チサトさんとカイトさんの世界の料理はそこまでこの世界と変わりないのですか?」
そう疑問を口にするメルさんに、僕が答える。
「そりゃあ色々な違いはありますけど、美味しいものは美味しいってことは変わりないですね」
「へぇ、ちょっと気になりますねぇ」
興味を抱いた様子のメルさん。
そんな彼女を見て、対面にいるチサトがにやりとした笑みを浮かべる。
「私達の世界では、虫を調理して食べる地域もあるんだよ」
「えぇ!? 虫をですか!? さ、さすがに嘘でしょう!? ね、カイトさん」
「え? えーと、僕はイナゴの佃煮は食べたことはあるけど……他には、ハチの子、ざざ虫とかあるね」
小さい頃はなんの抵抗もなく食べれたなぁ、イナゴの佃煮。
味は甘くて、給食に出てくるアーモンドの入った小魚と似ているけど見た目がなぁ。
さすがに動物好きでも虫までは食べられない。
「ね、チサト」
「え? う、うん。そうだね」
なぜに話を振られたのに目を逸らされる。
まさか、食用の虫がいるのを知っているが肝心のそれを知らなかった感じか?
「そういえばカイト君って、虫にも避けられるの?」
「え、そうだよ」
話題を変えようとしたのか、チサトがそんなことを聞いてくる。
それに頷くと、彼女は羨ましそうな顔をする。
「それは普通に羨ましいんだけど。だって蚊とか……ゴキ……あの黒いあんちくしょうも寄ってこないでしょ?」
「生まれてこの方、蜂にも蚊にも刺されたことがないのが数少ない僕の自慢だからね。あと、黒いあんちくしょうってなに?」
「え!? そ、存在も知らないの!? そ、そうか! 寄ってこないから姿も見せないんだ……!」
フッ、人間蚊取り線香とはまさに僕のことさ。
いや、小学校の時、ガチでそんなあだ名をつけられたことがあるけども。
その代わり、カブトムシとクワガタとは触れ合うことすらできなかった。
虫もなー。
かっこいいのになー。
「メルさん。虫のモンスターとかっているんですか?」
「食事時なので、この話題はやめましょう」
「あ、すみません」
何かを思い出したのか顔を青ざめさせたメルさんに怒られてしまう。
たしかに食事中に話すことではなかったな。反省しなくては。
そう思い、手元の飲み物を口にしながら手に取った魚の串焼きを頬張る。
塩の振られた皮の下には、肉厚の身が詰まっており、それがさらに食欲を引き立たせてくれる。
僕の知らない魚だろうが、そんなことはどうでもいいと思えるくらいに美味い。
「……よし」
皿に添えられている輪切りにされた緑色の柑橘系の果物を摘まむ。
それを二つに折り曲げ果汁を、湯気が立ち上る白身へと垂らし、それに齧り付く。
一口目とは、隔絶した旨味が僕の口内を駆け巡る。
レモンとは違うどことない甘さを感じさせる風味と、酸味。
それは計算されていると思えるほどに、焼き魚を引き立たせておりこれには唸らされざるをえない。
「カイト君?」
「……ハッ。ごめん、なにかな?」
「いや、なんかすごい真顔で食べてたから……」
つい目の前の食べ物に夢中になってしまっていたようだ。
なんだか、この世界に来てからこういう食べるという行為に楽しみを見出しているのかもしれない。
ボーっとそんなことを考えながら、続けて魚を食べる。
うん、美味い。
何本でもいけるわ。
「そういえばさ、チサト」
「うん? なに、リーファ」
そのまま、ひたすらに手元の魚に集中していると、リーファがチサトに話しかけていた。
「魔物の動きが慌ただしいって聞いたけど、それって前から続いているの?」
「いいえ、活発化したのは最近ね。カイト君達が王国に来る頃くらいだったと思う。その時は強力な魔物が現れるようになって、そのせいでギルドも王国も大慌てで対処してる」
「……また魔王軍が何かしてるのかな?」
リーファがこちらを見てそう訊いてくる。
魔物の活性化。
ただの偶然といえば、それで片付けられるけど、魔王軍というトラブルメーカーが関わっているとなると、一概には偶然と割り切れない。
「可能性は捨てきれないと思う」
「じゃあ、もし何か起こった時は、いつでも動けるようにしておくべきだね」
公言されていないとはいえ、リーファは勇者だ。
もし魔王軍が何かしらしようというのなら、僕達が動く。
「魔王軍ねぇ。私からはなんとも言えないかなぁ」
「フィルゲン王国側は、魔王軍にはどんな認識なの?」
ヘンディル側と比べて、危機感とか抱いているのだろうか?
そんな意図を籠めた質問に、チサトは顎に手を当てながら思考に耽る。
「うーん、危機感がない? すぐに魔王軍が動き出さないって考えているから、気が緩んでいる感じかな。こっちの王様、ちょっと楽観的な部分があるから」
「チサトさん!? だ、だだ誰が聞いているか分からないんですからっ!」
「こういう情報交換も必要でしょ」
「た、たしかにそうですが……」
危機感がない、か。
それはちょっと危ないかもしれないな。
「カイト君とリーファは魔王軍と接触したって話だよね?」
「うん。ゴリラに襲われた」
「ご、ゴリラ?」
「こら、それじゃ通じないだろ」
困惑するチサト。
さすがにこれじゃ伝わるものも伝わらないので、リーファの代わりに説明する。
「魔王軍幹部のリーファの姉に襲撃されたんです。まあ、その時はなんとか撃退したんですけど」
「お姉さんが魔王軍幹部なんだ。リーファも大変だね」
「勇者の妹に魔王軍幹部の姉……えぐい姉妹関係ですね……」
言われてみれば、結構複雑な関係ではあるな。
まあ、ニーアはそんなこと気にもしないだろうけれど。
「カイトも狙われてる」
「……え、なんで?」
「うむ、カイトは純魔の魔力を持っているからな、奴はそれを狙っているのだ」
僕の代わりにシフがそう説明すると、チサトとメルさんは困惑しながらも納得したような表情を浮かべる。
「たしか、純魔の魔力って珍しい魔力だったよね。私の魔法の先生や部下の人達もすっごい興味を抱いてたし……」
「魔物に好かれやすいという点では良い魔法ですが、度が過ぎると中々に厄介事を引き寄せる体質ですねぇ。まあ、テイマーとしては間違いなく一流になりうる素質ですけども」
正直な話、純魔の魔力については僕もよく分からない。
ただ魔力の純度が高く、動物には避けられ、魔物には好かれやすい特性を持つ魔力ってのは分かっているが、それ以外が全く分からない。
ただ魔物の生贄にされるための魔法と言われれば、それまでだけど……。
そのまま会話が途切れ、それぞれが雑談を交わしながら食事をする時間が過ぎる。
お皿に乗せられた食べ物が残り少なくなってきた頃、ふとチサトが僕に話しかけてきた。
「カイト君って、読み書きの勉強ってしたの?」
「もちろんだよ。覚えなきゃかわいそうな人扱いされてたし」
「そ、そうなんだ……」
冒険者として生きていく上で読み書きは必要不可欠だった。
なので、少しずつ勉強していたおかげで今ではある程度読み書きができるようになっている。
……文字はちょっとミミズみたいな感じだけども。
「それじゃあ……本とか読む?」
「本?」
そう訊かれて、チサトが本が好きな人だったことを思い出す。
召喚される直前、雨が降りながらも本を読んでいるほど好きなのだから、よっぽどだろう。
僕自身、嗜む程度に小説は読んでいたので、彼女の言葉に頷く。
「うん、普通に読むよ」
「そう。そっか……そうなんだ……」
なにその三段活用。
どこか感慨深げにそう呟くチサトに首を傾げると、彼女は意を決したように顔を上げる。
「じゃあ、城の図書とか興味ある?」
「え、城の? そこになにかあるの?」
「色々な本があるの。古くから伝わる神獣とか、魔物の本とか、もしかしたらカイト君も興味あるかなって」
「……んー、興味、あるかも」
何より、シフが期待するような目で僕を見上げていることから行きたいのだろう。
彼女の言葉に頷くと、ぱぁ、っと表情を明るくさせる。
「むっ!」
そのやり取りを無言で見ていたリーファは、いつかのようにムッとした表情を浮かべるのであった。
カイトは、家の中では黒いアレとは遭遇したことはありません。
というより彼がいるだけで黒いアレとその他諸々引っ越していきます。
昆虫・蟲関係は動画で見るだけならダイジョーブ。
※今年も夏のホラー2019に際して、テーマ『病院』に合わせた作品を投稿いたました。
題名『しゃっふる』
去年投稿した作品『水の底で安らぎを』とは違ったホラーとなります。




