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第七十四話 

第七十四話です。


 フィルゲン王国の街並みを観光? したその日の夜。

 僕はチサトに誘われて、フィルゲン王国の城の書庫へと向かっていた。

 といっても書庫の場所は僕には分からないので、メイドのテルアさんに案内を頼むことになった。


「夜の逢引きでしょうか?」

「いえ、本を読みに行くんです」

「秘密の密会ですか?」

「いえ、本を読みに行くんです」

「分かります。……そういう建前ですね?」

「カイト、このメイド、話を聞いているようで聞いていないぞ」


 僕の肩にいるシフが唖然とした様子でそう口にする。

 僕は小さくため息を吐きながら前を歩くテルアさんに話しかける。


「書庫はどのくらい広いんですか? 思ったよりも簡単に許可が取れてびっくりしたんですけど」

「そこまで広くはないです。チサト様がいつもご利用している書庫は、陛下のお父様がご趣味で収集していた蔵書が保管されているんです」

「と、いうと?」

「重要な蔵書はより厳重な場所に保管されておりますので、閲覧するだけならそこまで手続きが必要ないのです。あ、勿論、一般の方は見ることができませんよ?」


 重要な本が保管されているわけでもないけど、先代の王様が集めていた珍しい本があるってことか?

 そんな貴重なものがある場所に僕なんかが入っていいか不安になってしまったけど、思いのほかあっさりと許可が下りてしまったので少し拍子抜けだったんだ。


「時にリーファ様はどうしたのですか?」

「夕食でお腹がいっぱいになったので寝てます」

「……そ、そうですか」


 なにやら僕の部屋に居座って「私もついていく」と頑として譲らなかったけれども、夕食を食べた後はいつのまにか眠ってしまっていた。

 まあ、一人で残していくのもかわいそうと思ったので、タオルケットをかけたあとにライムに留守番を頼んでおいたけども。


「——こちらが書庫となります」


 どうやら到着したようだ。

 それなりに古びた扉の前に立ち止まったテルアさんは、コンコンと扉をノックする。


「チサト様、カイト様をお連れしました」

『入って』


 短い返事が返ってきたので、テルアさんが扉を開く。

 開けられた扉の先には、長テーブルの椅子に座っているチサトがいた。

 テーブルには三冊ほど本が積み上げられ、そこから少し離したところにランタン型の魔具が置かれていた。


「待ってたよ。カイト君、シフ」

「お、おお。思ったよりも狭いな……なんとなく、片田舎の古書店っぽい雰囲気があるな」

「あ、分かる? この紙っぽい匂いいいよね。うんうん」


 心なしかテンションが高いな。

 本特有の匂い、というべきなのだろうか。

 僕自身、それほど嫌いじゃない。


「では、カイト様。私は外でお待ちしておりますので、どうぞごゆっくり」

「……他意はありませんよね?」

「フフフー」


 すっごい上品に微笑みながら、滑るように部屋を出ていくテルアさん。

 色々と強かな人だなと、呆れ半分感心半分に思いながら本棚の前に移動する。


「チサト、先代の国王様はどんな本を集めていたの?」

「そうだねー……各地の伝承とか、古来から生きる魔物とか……神獣についてとか……うん、夢のある話が好きだったみたい」


 試しに本棚に収まっている本の背表紙に目を向けてみる。

 なになに? 神獣・魔獣考察読本? シリーズものなのかな?

『溶岩を食べる虎 ティエガローエント』

『生きている島 ハイランドロータス』

『雲に潜む雷鳥 クルックライザー』

 ……。


「ちょっとだけ、さわりを読んでみよう」


 適当な一冊を手に取り、表紙を捲る。

 すると、本の内容が始まる前に著者らしき人のメッセージ的なものが書かれていた。


 “この世界には我々の想像の及ばない強大な生物たちがいる。神の領域に踏み込むものたちに、人が触れてはいけない邪悪なるものたち。しかし、それらの生態・生き様は総じて美しく、残酷なまでに自然に準じる絶対的強者に他ならない。


 私は記録するものベア・フレデュンス。

 真理を追求するものであり、永遠に解かれることのない謎の答えを追い求めるただ一人の人間である。”


「僕ずっとここにいれるわ」

「おお、すごいぞ。まるで宝の山だな!」


 もう、動物好き云々は抜いとくしても、男がこういうのが嫌いな訳がない。

 このシリーズから読んでみよう。

 二冊ほど選んで棚から引き抜いていくと、ふと気になる本を見つける。


「……邪悪の化身 オロチ?」

「あのオロチの本もあるのか? まあ、あれほどの怪物だ。あってもおかしくはないだろう」


 ついでにこの本も持っていくか。

 自分の分の本と、シフが読みたいと言った分の本を抱えた僕はチサトの前の席へと腰かける。

 テーブルに飛び乗ったシフは、僕が開くようにおいた本の前に座ると黙々と本を読み始める。尻尾で器用に本を捲る姿に、ちょっとだけほっこりしながら僕も本を開く。


「カイト君……」


 僕の持ってきた本を見た彼女は、一瞬だけ目を丸くしながら嬉し気な笑みを浮かべる。


「その本、すごく面白いよ」

「チサトもこういうのに興味あるのか?」

「うん。危ないやつもいるけど、いつか会ってみたいなって」

「オロチと遭遇した経験から言うけど、あまりおすすめはできないなぁ」


 今でもあの存在は僕の中でもトラウマだ。

 いくらか力をつけていたからこそ分かる。

 あのオロチは、本当の本当にとんでもない怪物だった。

 僕達が生きて脱出できたのは、本当に奇跡みたいなものだったんだ。


「さすがに危ない魔獣とかには近づかないよ。でも、私達の手に届かないような存在は見てみたいなぁって思う。ほら、よくテレビとかで未確認生命体の特集とかあるじゃん? あんなの」

「女子があれ見てたの!?」

「あ、偏見。女子だって見るよ。チュパカブラとか雪男とかモスマンとか」

「よし、君が一般の女子高生からかけ離れた感性を持っていることは理解できた」


 引きはしないが、ただただ驚くばかりだ。

 女子の口からチュパカブラって言葉が出てきたことが何より衝撃だ。


「……変じゃないもん。お姉ちゃんの方が変だったもん」


 僕の言葉にチサトは不貞腐れるように、本で顔を隠す。

 しまった、と思いながら話題を変える。


「お姉さんがいるの?」

「四つ年上の姉が一人。度が超えるほどのホラー映画マニア。大学でホラー映画のサークルの部長やってる。すっっごい変人」

「へ、へぇ……」


 ホラーは人並みに見れるけど、日本の音無し演出バリバリのホラーは絶対に見れない。

 ガチで夢に出てくるやつ。

 リーファもそうだけど、チサトもお姉さん関係で色々と苦労していそうだなぁ。


「ま、お姉ちゃんの話は置いといて、私が一番会ってみたいのはこれ」

「ん?」


 差し出されたのは今僕が読もうとしている本のシリーズと同じものだ。

 本と本の間に不自然な空白が空いてたけど、チサトが読んでいたのか。

 そう納得して、本の題名を見ると……そこに記されていた名は僕にとっては馴染みのあるものだった。


「水統べる神なる龍 フィーリヘルト。人に危害を加えないドラゴンらしくて、水のある場所ならどこでもいけるって話」

「あ、最近会ったよ」

「……エ?」


 珍しい存在らしいから驚くのも無理ないな。


「僕の純魔の魔力に惹かれてきたらしくてさ。な、シフ」

「む? んー、私としてはカイトが攫われないか心配だ。フィーリヘルトに頬ずりされたのだろう? 何かしらの証をつけられていなければいいのだがな」


 それは心配のしすぎだと思うけどなぁ。

 少なくとも、フィーリヘルトに触れられた時は何かされた感じはしなかった。

 ……危険のない存在だって分かっていれば、もっと触れ合えたかもしれないんだけどなぁ。


「ちょ、ちょっと詳しく話聞かせて……!」

「え、ええ? 別に構わないけど」

「心優しくも人には触れられる領域に存在しないドラゴンに、自分から触れられた……! これを前代未聞と言わずになんというの? 知りたい……! 教えて、カイト君っ!」

「君、キャラ違くない?」

「今日の私は眠らないよ!」

「キャラ違くない!?」


 ほらぁ! 扉の外でガタンッ! って音がしたし、テルアさん絶対聞き耳立ててるじゃん!!

 ガシリと僕の肩を掴んだチサトの目は、ランタンの光に反射し地味に迫力のあるものになっている。

 もしかして、熱中すると性格とか変わっちゃうかんじ……?

 詰め寄ってくる彼女に頷いた僕は、これまで知ることのなかったチサトの一面を知ることになるのだった。


UMA大好き勇者チサトでした。


神獣やら魔獣やらにストーリーを傾けられるのも今作ならではですね。

設定回り考えるの楽しい……。


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― 新着の感想 ―
いやぁ、ちょっとトラウマに抵触して干渉して爪を立てられたから発狂してしまいましたが、感想は書きます。 テルア「今日は寝かせない!?(※言ってない)チサト様大胆!!御赤飯炊かなきゃ?!」 ッッッッ!?!…
[一言] 久しぶりに読み返してみたけどクルックライザーってこの話で名前出てたのか。 ということは他のやつも神獣の名前かな?
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